アナログシステムの再構築(1)

エラックの「B5」と出会ってここ数年の懸案事項だったスピーカーの買いかえを止めたという話を前回しました。
ちなみに、この「B5」と言うスピーカーは「Debut Line」というシリーズの中の一番安いスピーカーになるそうです。ついでながら、「Debut Line」と言うシリーズはエラックの価格展開の中では最安値のシリーズらしいので、「B5」はエラックの数あるスピーカーの中でも最安値の一台と言うことになるようです。

でも、これって考えてみれば凄いことですよね。
何たって「ハイエンドオーディオショー」と銘打った場で、自社ブランドの中で最もお安いスピーカーでデモをやっていたのです。しかし、裏返してみれば、エラックがこの「Debut Line」というシリーズに対して並々ならぬ自信を持っているという事です。

コメント欄でも「もう買ったよ」という書き込みもいただいていますから、これはきっと来年にかけてかなりのヒット商品になるのではないでしょうか。
ただし、今日のお題はこの「Debut Line」に関わる話ではありません。

実は、スピーカーの買いかえをきっぱりと諦めてから、なんだかソナスの「エレクタ・アマトール」の「鳴り」がやけに良くなったような気がするのです。

たとえてみれば、長年連れ添った恋女房に見切りをつけて、若くて綺麗な女性が何処かにいないかと彷徨いていた男が、ふと正気に戻って長年連れ添った恋女房のもとも戻ってきたようなものです。
若い女に横目を使っているような男に対して機嫌が悪くなるのは当然です。しかし、そう言う愚かさに気づいて舞い戻ってくるならば「許してやろう」と言うところでしょうか。
そして、最近の鳴りっぷりの良さは「やっと私の本当の魅力が分かるような年になったのね」とでもいっているようです。

何を愚かなことをいっているんだ、と言われそうなのですが、しかし、オーディオという世界にはそう言う摩訶不思議なことがあることも事実なのです。

アナログシステムを再構築

今年の大阪ハイエンドオーディオショーに出かけて、もう一つ影響されたのがアナログシステムに対する考え方です。何しろ、今年は何処のブースへ行っても呆れるほどにターンテーブルが回っていましたからね。
そして、残念なことに、そのアナログ再生の大部分に対して懐疑的にならざるを得ないのが現状でした。

しかし、その中で唯一、ラックスマンのアナログ再生には感心させられました。その辺の経緯は既に述べたとおりです。
他のメーカーが情報量や解像度という、どう考えてもデジタルに対して不利にならざるを得ないような土俵で勝負しようとしている中で、ラックスマンだけは良い意味での開き直りがあって、結果としてデジタルでは表現できない世界を提起していました。それを「ノイズも込みのアナログの美」と表現したのですが、久しぶりにその音を聞いて「アナログも良いものだ」と思った次第なのです。

今年は聞くところによると「アナログブーム」らしいのですが、今回のショーを見る限りでは、どう考えてもその方向性に未来があるとは思えませんでした。
もともと物理特性で劣るアナログの世界でデジタルと勝負しようとすれば、途轍もない物量と機械的精度が必要になるのは分かります。だからと言って、例えばカートリッジで30万から70万、トーンアームに50万から100万円、ターンテーブルに100万から200万、そしてフォノアンプにも100万円前後の提案はないでしょう。
オーディオという害毒に毒された身ならば(^^;、「なるほど凄いモンですね」くらいで済みますが、世間一般の常識からすれば狂気の沙汰です。

そうではなくて、世間の良識ある人の価値観の範疇で(オーディオというのは本質的に狂気の世界だという人もいますが・・・)、デジタルにはないアナログの美が感じ取れるような世界を提案することこそが大切だと思うのですが、残念ながらそう言う方向性は見えてきませんでした。
ならば、私が昔の機器を持ち出して、やれるところまでやってやろうじゃないの!と思った次第なのです。

今でこそ「PCオーディオ実験室」の管理人なのですが、長い間「アナログの人」でした。
もちろん、CDが離陸したときにはソニーの第2世代プレーヤーを買い込んだくらいに対応は早かったのですが、それでもアナログ再生を捨てることはありませんでした。アナログレコードの発売がほぼ途絶えた90年代に入っても、日本橋の中古レコード屋を回ってはレコードを買いあさっていたほどです。
ところが、2005年頃だったと記憶しているのですが、プリアンプ(アキュフェーズのC-200V)のフォノ入力が故障してしまったのです。フォノ入力でボリュームを上げると「ピー!」という発振音がするのです。

ちょうど年の暮れで、あれこれ買い込んできていた中古レコードもあったので、間に合わせのために大急ぎでaudio-technicaのフォノイコライザー「AT-PEQ3」を注文しました。

AT-PEQ3

フォノイコライザー「AT-PEQ3」

ただし、間に合わせは間に合わせなので、その後は適当なフォノイコライザーを買い込もうと考えていました。

しかし、その時期が「PCオーディオ」の可能性に気づきはじめた頃だったので、結果としてそちら方面に資金と手間を集中的に投入する事となってしまいかした。
そして、気がつけば「PCオーディオ」関連の機器がラックを占拠することとなり、行き場を失ったアナログプレーヤーはいつの間にか棚の奥にしまい込まれることになってしまったのです。
結果として、1000枚程度あったLPレコードも表舞台から姿を消して、これもまたアナログプレーヤと同じく棚の奥にしまい込まれることになってしまいました。

こうして私のアナログ再生は終わりを告げたのですが、ラックスのブースで素晴らしいアナログ再生の音を聞かせてもらい、そう言うロートル集団でもデジタルにはないアナログの美が実現できるのではないかと考えた次第なのです。
果てさて、このロートル集団復活の試み、その顛末をお聞きください。

カートリッジの針を探す

まずは、棚の奥からアナログプレーヤーを引っ張り出してきて、動くかどうかのチェックからはじめました。10年近く放置していたのですから、これは「動かない」可能性は否定しきれません。
使っていたプレーヤーはトーレンスの「TD 320 MKⅢ」です。

thorens-td-320

トーレンスの「TD 320 MKⅢ」

ACアダプタで動くものだったので、これまた付属のアダプタを探し出すのが一手間でしたが無事に発見、接続してスイッチをオンにすると・・・動きません!!
ターンテーブルはピクリとも動きません。
「あー、やっぱり駄目か」と思いつつ、念のために中を点検すると・・・何のことはないベルトが外れていました。(^^;

これじゃ動くはずはないのであって、きちんとベルトを装着してスイッチをオンにすると無事にターンテーブルが動き出しました。
そこで、次は、何処かに放り込んであるフォノイコライザー「AT-PEQ3」を探し出すのがこれまた一苦労。さらには付属のACアダプタがどうしても見つからないので、電圧15ボルトの使えそうな電源アダプタをこれまた箱の中から物色してくるのに一苦労。
いやはや、LPレコードを再生できる状態にまでに持っていくのに一苦労でした。

さらに、トーンアームの水平バランスのとり方や針圧の調整の仕方などはすっかり忘れ果ててしまっていたので、これまたネットでノウハウを検索しながら一苦労でした。

そして、漸く全ての機器がセットできて目出度くLPレコードをセットしたのですが、今度はカートリッジが使い物になるかどうかが問題です。
ただし、これはやってみないと分からないので、取りあえずは針をおろしてみました。

出てきた音はノイズまみれの酷いもので、これは駄目だとすぐに判断できました。
カートリッジをチェックしてみると、針が根本からぐらついています。少し指で触れてみるといとも簡単にポッキリと折れてしまいました。

V15-MR

SHURE「V15V-MR」

昔は結構お高いMC型のカートリッジを使っていたのですが、アナログ時代の最後はSHUREの「V15V-MR」というMM型カートリッジを使っていました。

MC型のカートリッジだとカートリッジ本体を丸ごと買い換えないと駄目ですが、MM型のカートリッジなので針の交換だけで済みます。しかし、果たしてそんな古いカートリッジの交換針なんて売っているのかが問題です。
ただし、こう言うときにネットの力は偉大です。

あれこれ検索をかけて調べ回った結果、SHURE本体では取り扱いは終了しているのですが、JICO(日本精機宝石工業株式会社)という奇特な日本の企業が互換性のある交換針を今も生産してくれているのです。
SHUREの「V15V-MR」の交換針は「VN5MR」という製品なのですが、定価14580円で今も入手が可能なのです。

VN5MR

ただ、この時注意が必要なのが、「V15V-MR」とよく似た「VN5xMR」という交換針もあるのです。こちらは、これまた「V15V-MR」とよく似た「V15VxMR」専用で、怖ろしいことにこの両者には互換性がないのです。このあたりのことは、アナログ全盛時であればしっかりと頭に入っているのでしょうが、10年近くもブランクがあるといったいどの交換針を注文すればいいのかかなり戸惑ってしまいました。

ただし、何とか無事に交換針も発注できたので、ついでに「TD 320 MKⅢ」のターンテーブル・ベルトも交換した方が良いだろうと言うことで、こちらも調べてみました。
そして、調べてみて感心したことに、このターンテーブル・ベルトのトーレンスの純正品は今もきちんと供給されているのです。さらには調べてみると、ナガオカなどから互換性のあるベルトが格安で販売されているようなのですが、ここは価格的に4倍近くもする純正品を奮発して(^^v・・・注文しました。
純正品のターンテーブル・ベルトには「THORENS」のロゴが印刷されています。

thorens_std-belt

THORES 純正品のターンテーブル・ベルト

こうして、何とか音が出る状態にするのに1週間以上もかかってしまいました。
はてさて、そうやって出た音はいかがだったかは、次回に続くです。


4 comments for “アナログシステムの再構築(1)

  1. 田中あらいぐま
    2015年11月30日 at 8:12 PM

    トーレンスのベルトってまだ供給されてるんですね。ずいぶん以前に飼い猫がトーレンスのプレーヤーの上にスキー靴の箱を落としてくれて、アクリルカバーが壊れてしまって以来、このプレーヤーは使ってなくて、そのうちトーレンスも倒産してしまったので、ベルトもダメになってるだろうし、もう使えないと思ってました。
    貴重な情報ありがとうございます。

    • 2015年11月30日 at 9:00 PM

      そのうちトーレンスも倒産してしまったので、ベルトもダメになってるだろうし、もう使えないと思ってました。

      倒産したんですかね?なんだかまだ元気にやっているみたいですよ。
      THORENS

      レコード針のナガオカも解散した後に「ナガオカトレーディング」という形で再び生産しているみたいで、なかなかこの世界、しぶといようです。

      • 田中あらいぐま
        2015年12月2日 at 7:43 PM

        アクリルカバーが壊れたときに、このプレーヤーを買った販売店にカバーを注文できないかと聞いたら、トーレンスは倒産したと言われたのですよ。
        カバーが注文できるかリンク先に問い合わせてみようと思います。
        情報ありがとうございました。

  2. sweetpain
    2015年12月1日 at 2:16 PM

    交換針は現在JICO,NAGAOKA,A’pisで供給しています。
    生産終了品もありますが、交換針の7,8割は手に入れる事が可能ですよ。

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