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ベートーベン:交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」

トスカニーニ指揮 BBC交響楽団 1937年6月17日、10月21~22日

  1. ベートーベン:交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」 「第1楽章」
  2. ベートーベン:交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」 「第2楽章」
  3. ベートーベン:交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」 「第3楽章」
  4. ベートーベン:交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」 「第4楽章」
  5. ベートーベン:交響曲第6番 ヘ長調 作品68「田園」 「第5楽章」


標題付きの交響曲

よく知られているように、この作品にはベートーベン自身による標題がつけられています。

第1楽章:「田園に到着したときの朗らかな感情の目覚め」
第2楽章:「小川のほとりの情景」
第3楽章:「農民の楽しい集い」
第4楽章:「雷雨、雨」
第5楽章:「牧人の歌、嵐のあとの喜ばしい感謝の感情」

また、第3楽章以降は切れ目なしに演奏されるのも今までない趣向です。
これらの特徴は、このあとのロマン派の時代に引き継がれ大きな影響を与えることになります。

しかし、世間にはベートーベンの音楽をこのような標題で理解するのが我慢できない人が多くて、「そのような標題にとらわれることなく純粋に絶対的な音楽として理解するべきだ!」と宣っています。
このような人は何の論証も抜きに標題音楽は絶対音楽に劣る存在と思っているらしくて、偉大にして神聖なるベートーベンの音楽がレベルの低い「標題音楽」として理解されることが我慢できないようです。ご苦労さんな事です。

しかし、そういう頭でっかちな聴き方をしない普通の聞き手なら、ベートーベンが与えた標題が音楽の雰囲気を実にうまく表現していることに気づくはずです。
前作の5番で人間の内面的世界の劇的な葛藤を描いたベートーベンは、自然という外的世界を描いても一流であったと言うことです。同時期に全く正反対と思えるような作品を創作したのがベートーベンの特長であることはよく知られていますが、ここでもその特徴が発揮されたと言うことでしょう。

またあまり知られていないことですが、残されたスケッチから最終楽章に合唱を導入しようとしたことが指摘されています。
もしそれが実現していたならば、第五の「運命」との対比はよりはっきりした物になったでしょうし、年末がくれば第九ばかり聞かされると言う「苦行(^^;」を味わうこともなかったでしょう。
ちょっと残念なことです。

トスカニーニの美質が最もよく刻み込まれた録音


トスカニーニはエイドリアン・ボールトの招きで創設間もないBBC交響楽団に客演します。1935年のことです。
当時トスカニーニはニューヨークフィルの常任指揮者を務めており、そのハードな仕事に「引退」を考えていた時期でした。そして、実際にこの翌年にニューヨークフィルの常任指揮者を辞任してしまいます。しかしながら、トスカニーニの商業的価値は未だに絶大であり、その価値に目をつけたNBCがトスカニーニ専属のオケを編成して彼を破格の条件で招いたのは今さら言うまでもないことです。

つまりは、トスカニーニが大戦前にイギリスに招かれて客演活動を行ったのは、彼自身にとっても色々と多事な出来事の合間だったわけです。しかしながら、そう言う多事な合間でありながら、トスカニーニはこのイギリスのオケがすっかり気に入ってしまい、37年から39年にかけて毎年指揮をす事になります。そして、戦争でそのつながりは一時途切れるのですが、戦後もまたフィルハーモニア管に招かれて指揮棒をふるうことになります。

ちなみに、ベートーベンだけに限ってみれば以下のような感じです。


  1. ベートーヴェン:交響曲第1番 ハ長調 Op. 21:1937年10月25日&1938年6月2日(セッション録音)

  2. ベートーヴェン:交響曲第6番 ヘ長調 『田園』 Op. 68:1937年6月17日、10月21-22日(セッション録音)

  3. ベートーヴェン:交響曲第4番 変ロ長調 Op. 60:1939年6月1月(セッション録音)

  4. ベートーヴェン:交響曲第7番 イ長調 Op. 92:1935年6月14日(ライヴ)



イギリスのオケは大陸の各国とは違って非常に歴史が浅いのが特徴です。最も伝統のあるハレ管にしても創立は1857年です。ちなみに、最古のオケはロイヤル・リヴァプール・フィルハーモニー管弦楽団で、創立は1840年と言われています。
しかし、現在のイギリスの5大オケといわれるところの創立は以下の通りです。


  1. ロンドンフィル:1932年

  2. フィルハーモニア管弦楽団:1945年

  3. BBC管弦楽団:1930年

  4. ロイヤルフィル:1946年

  5. ロンドン交響楽団:1904年



バーミンガム市響はサイモン・ラトルが去ってからは地盤沈下しているようで、現在では」5大オケの一角には食い込めないようです。(ちなみに、創立は1920年です)
つまりは、どこもかしこも結構新しいオケなのです。そして、その新しさ故に、よく言えば癖のないニュートラルな性格を持つようになりました。悪く言えば個性に乏しい面白味のないオケということなのですが、よく言えば真っ白なノートみたいなオケであり、指揮者にしてみれば自分の描きたい絵が自由に描けるオケということになります。

そして、このトスカニーニという強烈な個性を持った指揮者にしてみれば、自分の要求に全力で応えようとするBBC交響楽団のニュートラルな性格は非常に好ましく感じられたのでしょう。実際、このコンビによる録音は、ある意味ではトスカニーニの美質が最もよく刻み込まれています。
トスカニーニといえば晩年の硬直した音楽が槍玉に挙げられるのですが、ここではリズムも歌もしなやかさに満ちています。素晴らしい!!