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ベートーベン:交響曲第5番「運命」
トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1952年3月23日録音
- ベートーベン:交響曲第5番 ハ短調 作品67「運命」 「第1楽章」
- ベートーベン:交響曲第5番 ハ短調 作品67「運命」 「第2楽章」
- ベートーベン:交響曲第5番 ハ短調 作品67「運命」 「第3,4楽章」
極限まで無駄をそぎ落とした音楽
今更何も言う必要がないほどの有名な作品です。クラシック音楽に何の興味がない人でも、この作品の冒頭を知らない人はないでしょう。
交響曲と言えば「運命」、クラシック音楽と言えば「運命」です。
この作品は第3番の交響曲「エロイカ」が完成したすぐあとに着手されています。スケッチにまでさかのぼるとエロイカの創作時期とも重なると言われます。(1803年にこの作品のスケッチと思われる物があるそうです。ちなみにエロイカは1803〜4年にかけて創作されています。)
しかし、ベートーベンはこの作品の創作を一時的に中断をして第4番の交響曲を作曲しています。これには、とある伯爵未亡人との恋愛が関係していると言われています。
そして幸か不幸か、この恋愛が破局に向かう中でベートーベンはこの運命の創作活動に舞い戻ってきます。
そういう意味では、本格的に創作活動に着手されたのは1807年で、完成はその翌年ですが、全体を見渡してみると完成までにかなりの年月を要した作品だと言えます。そして、ベートーベンは決して筆の早い人ではなかったのですが、これほどまでに時間を要した作品は数えるほどです。
その理由は、この作品の特徴となっている緊密きわまる構成とその無駄のなさにあります。
エロイカと比べてみるとその違いは歴然としています。もっとも、その整理しきれない部分が渾然として存在しているところにエロイカの魅力があるのですが、運命の魅力は極限にまで整理され尽くしたところにあると言えます。
それだけに、創作には多大な苦労と時間を要したのでしょう。
それ以後の時代を眺めてみても、これほどまでに無駄の少ない作品は新ウィーン楽派と言われたベルクやウェーベルンが登場するまではちょっと思い当たりません。(多少方向性は異なるでしょうが、・・・だいぶ違うかな?)
それから、それまでの交響曲と比べると楽器が増やされている点も重要です。
その増やされた楽器は第4楽章で一気に登場して、音色においても音量においても今までにない幅の広がりをもたらして、絶大な効果をあげています。
これもまたこの作品が広く愛される一因ともなっています。
求心力の強い演奏
ベートーベンの交響曲をトスカニーニで聞くとなると、30年代の古い録音で聞くべきか、それとも50年代の新しい方で聞くべきかが問題になります。
以前は、50年代の録音があまりにもキンキンとした彫りの浅い音質であったので、問題なく30年代の旧盤の方に軍配があがっていました。50年代の録音はその音質とも相まってテンポ設定も早めにとられていることもあって、どこかセカセカした印象がぬぐい去れませんでした。
しかし、最近になって新たにマスタリングされてリリースされるようになった新盤の方は画期的といえるほどに音質が改善されています。まるで音楽の遺骨を見るようだったのが、その上にしなやかな筋肉がまとわれるようになると、この新旧の聞き比べはなかなかに興味深いものとなってきました。
この5番においては、新盤の方が速いテンポ設定によってより求心力の強い演奏に仕上がっています。そのキリリと引き締まった造形は、他にかわるもののない魅力を感じ取れます。しかし、音楽の中に息づいている「勢い」という点では旧盤の方が凄みがあります。ただしどちらをとるかとなると迷うところでしょうから、贅沢に両方をアップすることにしました。