クラシック音楽へのおさそい〜Blue Sky Label〜


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ドリーブ:バレエ組曲「コッペリア」&コッペリア 「前奏曲とマズルカ」


ピエール・モントゥー指揮 サンフランシスコ交響楽団 1953年12月2日&4日録音をダウンロード

  1. Leo Delibes:Coppelia Ballet Suite [1.Prelude et Mazurka]
  2. Leo Delibes:Coppelia Ballet Suite [2.Scene et Valse de Swanhilde]
  3. Leo Delibes:Coppelia Ballet Suite [3.Csardas]
  4. Leo Delibes:Coppelia Ballet Suite [4.Scene et Valse de la poupee]
  5. Leo Delibes:Coppelia Ballet Suite [5.Ballade]
  6. Leo Delibes:Coppelia Ballet Suite [6.Theme slave varie - Variations 1-4]
  7. Leo Delibes:Coppelia Ballet Suite [Prelude et Mazurka] ステレオ録音による別ヴァージョン

他愛ない話の中に含まれるかけがえのない真実



「コッペリア」はホフマンの小説「砂男」を原作としたバレエ音楽です。
ホフマンの小説は幼い頃の恐怖の対象であった「砂男」という存在をベースとして、その存在を介して一人の青年が人形に恋をすることによって狂気に陥っていくというかなりグロテスクな物語です。ドリーブはこの小節からその様なグロテスクな部分を綺麗にぬぐい去り、軽快なコメディ風のバレエに仕立て直したのが「コッペリア」でした。

主な登場人物は以下の通りです。


  1. スワニルダ:村の娘、フランツの恋人

  2. フランツ:村の青年、人形と知らずにコッペリアに恋をする

  3. コッペリウス:コッペリアを造った博士

  4. コッペリア:コッペリウス博士が造った自動人形



スワニルダとフランツは恋人同士で結婚を間近に控えているのですが、フランツは最近、人形作り職人コッペリウスの家の窓辺にたたずむコッペリアのことが気になって仕方がありません。
そして、そんなフランツの姿にスワニルダは焼き餅を焼いてしまい大喧嘩となってしまいます。

腹の虫が治まらないスワニルダは、コッペリウスが留守の時を狙って友人達と家に忍び込んでコッペリアをの正体を探ろうとします。
そして、薄暗い室内にはさまざまな人形たちが所狭しと並べられていて、コッペリアもまた人形だったと気づきます。

その時、コッペリウスが帰ってきて彼らは追い出されてしまうのですが、スワニルダだけは上手く部屋の中に身を隠します。
そこへ、コッペリアに会いたい一心のフランツが梯子伝いに窓から忍び込んできます。

そんなフランツもコッペリウスに見つかってしまうのですが、彼がコッペリアに心を寄せていることを知ったコッペリウスは、フランツの魂を抜きだしてコッペリアに移し替えて彼女を完璧な人間にしようとします。

怪しげな酒を飲まされたフランツは次第に意識をなくし、それに会わせてコッペリアは少しずつ人間らしくなっていきます。
それを見たコッペリウスは大喜びをするのですが、実はそれはコッペリアに化けたスワニルダだったのです。

やがてスワニルダが化けたコッペリアはコッペリウスをからかいはじめ、さらに悪戯の限りを尽くします。
そして、眠っていたフランツをたたき起こし、たたき起こされたフランツもコッペリアの正体を知って二人は仲直りをします。

その翌日、村では領主も臨席して鐘の奉納の祭りが行われ、その祭りの中で仲直りをしたフランツとスワニルダ結婚式が行われます。
そこへコッペリウスが乗り込んできて、コッペリアを壊された損害を賠償しろとスワニルダに迫ります。
しかし、領主が彼らの間を取りなし、さらにはコッペリウスにも金一封を与えたため、納得はしないながらもコッペリウスは二人を許して帰っていきます。

やがて祝宴も本番となり、「時のワルツ」「あけぼの」「祈り」「仕事(糸を紡ぐ娘)」「結婚(婚約者たち)」「戦い(戦士たちの行進)」「平和(パ・ド・ドゥ)」「祭りの踊り(スワニルダのパ・スル)」と踊りが続き、最後は登場人物全員によるギャロップでフィナーレを迎えます。

しかし、原作がかなりシリアスでグロテスクな内容を含んでいるために、最近はそちらにシフトした演出も行われています。
例えば、コッペリウスはよりマッド・サイエンティストの色合いを濃くし、コッペリアはかつて愛した女性のイメージに命を与えようとした存在になったりします。そして、そういう怪しげなコッペリウスにスワニルダがひかれていくという原作とは逆の関係でストーリーが展開していきます。
オペラでも演出によってイメージが随分と変わるのですが、言葉を持たないバレエだとその振り幅はより大きくなると言うことなのでしょうか。
ただし、こういう「子供向け」の他愛ない話を大人の観賞にも堪えるように仕立て直しましたというのは、決して「スタンダード」にはならないですね。何故ならば、そう言う他愛なさの中にももう一つのかけがえのない「真実」が存在しているからでしょう。

そして、きっと、例えばチャイコフスキーの「くるみ割り人形」に対して「寝ててもいいような作品だがチャイコフスキーの音楽はやはり素晴らしい」と切って捨てるような人にはそう言う「真実」は決して姿を見せようとはしないのでしょう。


モノラルからステレオに録音のフォーマットが切り替わる分岐点に位置した歴史的録音


バレエ指揮者というのはコンサート指揮者と較べると一段落ちるように見られる傾向があります。しかし、例えばフィストラーリの手になるバレエ音楽などを聞いていると、いわゆるコンサート指揮者がつくり出す「立派なバレエ音楽」とは異なる魅力があることに気づかされます。
もちろん、モントゥーは偉大なコンサート指揮者なのですが、ディアギレフのロシア・バレエ団で指揮を担当したことがスタート地点でした。

とは言え、その業績は凄くて、ストラヴィンスキーの「春の祭典」や「ペトルーシュカ」、さらには、ラヴェルの「ダフニスとクロエ」などの初演を担当したのですから、それはもう20世紀のバレエ音楽にとっては伝説的存在といえます。
おそらく、バレエ音楽というのはその様な劇場での経験がなければ表現できない何ものかがあるのでしょう。
ですから、このドリーブのバレエ音楽もまた、気品あふれるロマン性で彩っているなどと言うことを今さら付け加えるのは野暮というものでしょう。

ですから、ここでは演奏に関わる話はなしにして、録音に関わる話を取り上げたいと思います。

録音のクレジットを見ていると不思議なことに気づきます。


  1. コッペリア 「前奏曲とマズルカ」:1953年12月2日録音

  2. バレエ組曲「コッペリア」:1953年12月2日&4日録音

  3. バレエ組曲「シルヴィア」:1953年12月30日~31日録音



コッペリアは53年12月の2日と4日に録音をしています。シルヴィアの方は同じく12月の30日と31日に録音しています。
ところが、コッペリアの「前奏曲とマズルカ」だけが、12月2日に録音された別ヴァージョンが存在しているのです。そして、この別ヴァージョンの方は「ステレオ録音」なのです。

そして不思議な事に、同じ演奏を「ステレオ録音」と「モノラル録音」で録音したのではなくて、演奏そのものが異なるのです。ですから、最初に別ヴァージョンと書いた次第なのです。

こういう録音のフォーマットに関わる昔話をすれば、RCAはSP盤からLP盤に切り替わるときにColumbiaに大きく遅れをとってしまいました。
そして、その失敗を教訓に、今度はモノラル録音からステレオ録音に切り替わるときには同じ轍を踏まないように肝に銘じていました。

ですから、RCAはかなり早い時期からステレオによる実験的録音を始めていて、この1953年12月2日に録音されたコッペリアの「前奏曲とマズルカ」は、RCAにとっては現存するもっとも古いステレオ録音らしいのです。
冒頭部分に雑音が混じるのはマスターテープの保温状態が悪かったのかも知れませんが、それだけでなく、いかにステレオであってもいささか冴えない録音であることは否定のしようがありません。
とりわけ、別ヴァージョンの「モノラル録音」と較べることが可能なだけに、その違いは歴然としてしまいます。

ここからは全く想像ですが、おそらくは一番最初に実験的に「前奏曲とマズルカ」の録音を行ったのだろうと思います。
しかし、それをプレイバックして聞いてみれば、指揮者であるモントゥーは満足できなかったのでしょう。おそらく、録音スタッフもがっかりしたと思われます。

RCAの録音陣はこのコッペリアの組曲を全てステレオで録音するつもりでいたのかどうかは分かりません。
しかし、モントゥーにしてみれば、そんな海のものとも山のものとも知れない技術で自分の音楽が録音されることには疑問もあったでしょうし、プレイバックで聞いてみたステレオ録音もまたそのような疑問をさらに深める結果になったのでしょう。

結果として、その後の録音はモノラルで行われ、モノラル録音による完成形とも言うべき素晴らしい音質に仕上がっているのです。
いかにステレオ録音であっても、この当時の到達点では未だモノラル録音の牙城に迫るレベルにまでは達していなかったのです。

しかし、それ故に感心させられるのは、このレベルのステレオ録音の向こうに大きな可能性があることを見いだして、それをものにしていったたRCA録音陣の執念とセンスです。
ColumbiaにしてもEMIにしても、彼らはモノラル録音に執着しすぎてステレオへの移行では大きく遅れをとったと言われるのですが、このステレオとモノラルによる2種類の「前奏曲とマズルカ」聞けば、それもまたやむを得なかったのかなと思ってしまいます。

そして、有り難いのは、ステレオ録音による「前奏曲とマズルカ」が後年になってから商品としてリリースされたことです。
おそらく、ステレオという新しい技術に向かって無我夢中で取り組んでいた時代の証しとして捨て去るには忍びなかったのでしょう。
しかし、そのおかげで私たちは、モノラルからステレオに録音のフォーマットが切り替わる分岐点に位置した歴史的録音に接することが出来たのです。