クラシック音楽へのおさそい〜Blue Sky Label〜


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ショパン:ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 作品21


(P)ギオマール・ノヴァエス:ジョージ・セル指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック 1951年1月7日録音をダウンロード

  1. Chopin:Piano Concerto No.2 in F minor, Op.21 [1.Maestoso]
  2. Chopin:Piano Concerto No.2 in F minor, Op.21 [2.Larghetto]
  3. Chopin:Piano Concerto No.2 in F minor, Op.21 [3.Allegro vivace]

僕は悲しいかな、僕の理想を発見したようだ



ナンバーリングは第2番となっていますが、ショパンにとって最初の協奏曲はこちらの方です。
1829年にウィーンにおいてピアニストデビューをはたしたショパンは、その大成功をうけてこの協奏曲の作曲に着手します。そして、よく知られているようにこの創作の原動力となったのは、ショパンにとっては初恋の女性であったコンスタンティア・グワドコフスカです。

第1番の協奏曲が彼女への追憶の音楽だとすれば、これはまさに彼女への憧れの音楽となっています。
とりわけ第2楽章のラルゲットは若きショパン以外の誰も書き得なかった瑞々しくも純真な憧れに満ちた音楽となっています。

「僕は悲しいかな、僕の理想を発見したようだ。この半年というもの、毎晩彼女を夢見るがまだ彼女とは一言も口をきいていない。あの人のことを想っているあいだに僕は僕の協奏曲のアダージョを書いた」
友人にこう書き送ったおくように、まさにこれこそが青年の初恋の音楽です。


  1. 第1楽章 Maestoso

  2. 第2楽章 Larghetto
    ショパンが恋心を抱いていた、コンスタンツィヤ・グワトコフスカへの想いを表現されている。まさに「初恋」の音楽です。

  3. 第3楽章 Allegro vivace




ノヴァエスがセルの身代わりになって演奏しているような錯覚に襲われる


あのセルがショパンの協奏曲の伴奏を務めていたとは驚き以外の何ものでもありません。さらに言えば、ソリストは「Guiomar Novaes」とクレジットされているのですが、恥ずかしながらこの前の「Jaime Laredo」と同じように正確な読み方も知らないピアニストです。
ところが、実際に聞いてみるとこれが実にいい演奏であり、興味深い演奏でもあるので2度驚かされました。

「Guiomar Novaes」は日本語では一般的に「ギオマール・ノヴァエス」と読むようで、ブラジル出身のピアニストだそうです。しかし、14歳の時にパリ音楽院に入学していますから、基本的にはフランスの音楽家と言うことになるのでしょうか。
しかしながら、パリ音楽院への入学は外国人枠が2名しかないところに387人も殺到した中での快挙でした。さらに、その試験官はフォーレやドビュッシーという錚々たる顔ぶれだったようです。しかし、わずか14歳の少女は「聴衆や審査員のことを放念し、すっかり無我夢中でこの上なく美しい演奏を行なった」とドビュッシーは述べていて、文句なしの首位での入学だったようです。

そして、入学後も自らの演奏スタイルを変えることはなく、教師のイシドール・フィリップも最後は折れてしまったという逸話も残っているそうですから、基本的な彼女の音楽観とテクニックは14歳までのブラジル時代に完成していたのかもしれません。
もっとも、それくらいの気の強さがなければセルを相手にソリストなどつとまわるわけはありません。

セルという人はピアノ協奏曲を演奏する時には、それがまるでピアノ付きの管弦楽曲みたいに扱って、ソリストも含めて自らの支配下に置こうとする人です。それは、彼自身が一流のピアニストであったと言うこともあるのですが、何処までも「完璧」を目指すセルという男の本質でもありました。
しかし、ここでのノヴァエスはライブという事もあるのでしょうが、十分すぎるほどに自己主張を行っています。それは、第1楽章が終わったあとに会場から思わず拍手がこぼれたことからも窺えます。調べてみると、このライブはニューヨークフィルの定期演奏会だったようですから、楽章の間で思わず拍手がこぼれてしまうと言うのは異例のことであり、それだけ「凄かった」と言うことの何よりの証しです。(確かテンシュテット初来日のフェスティバル・ホールでの公演でもマーラーの第3楽章が終わったあとに拍手がこぼれました。)

ちなみに、当日のプログラムは以下の通りです。

  1. スメタナ:モルダウ

  2. ショパン:ピアノ協奏曲第2番

  3. ベートーヴェン:交響曲第2番



とは言え、セルもしたたかで、この面白味のないオーケストラ伴奏を少しでも面白いものにしようとして、スコアにかなり手を加えているようです。いつもの聞きなれたショパンのオーケストラとは明らかに異なっている部分がありますし、第1楽章の序奏部はつまんないので明らかに短縮し
ているようです。

ちなみに、ノヴァエスは1895年生まれですからセルと同じように19世の生まれです。そして、演奏活動や録音活動はこの50代のころが最も積極的だったようです。
音質的にはライブと言うこともあって苦しい部分もあるのですが、ノヴァエスのピアノの素晴らしい響きは驚くほど鮮明に収録されています。ノヴァエスの演奏は、濃密な詩的情緒と著しい女性らしさが際立っていたと評価されることが多いらしいのですが、ここではセルを相手にして安易な情緒に寄りかかることなく硬質で透明感のあるショパンを描き出しています。
それは、もしかしたら、後の時代にツィマーマンが弾き振りをしたショパンの協奏曲のように、まるでノヴァエスがセルの身代わりになって演奏しているような錯覚に襲われる演奏でもあります。

それにしても、こういう貴重な記録が後の世に残ったことには感謝せざるを得ません。