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ブラームス:ホルン三重奏変 ホ長調 Op.40


(Vn)アドルフ・ブッシュ:(P)ルドルフ・ゼルキン (Hr)オーブリー・ブレイン 1933年11月13日録音をダウンロード

  1. Brahms:Horn Trio in E-flat major, Op.40 [1.Andante]
  2. Brahms:Horn Trio in E-flat major, Op.40 [2.Scherzo. Allegro]
  3. Brahms:Horn Trio in E-flat major, Op.40 [3.Adagio mesto]
  4. Brahms:Horn Trio in E-flat major, Op.40 [4.Finale. Allegro con brio]

バルブのない古いタイプのホルンを想定



ブラームスは数多くの室内楽曲を残していますが、ホルンを用いたのはこの1曲だけです。ただし、彼はホルンの響きを好んだのは間違いなく、多くの作品(交響曲の1番や2番、ピアノ協奏曲の2番、そしてドイツ・レクイエム等)でホルンには大切な役割を与えています。
また、ブラームス自身も少年時代からホルンを吹くのが好きなようだったようで、愛する母のためにホルンをよく吹いていたというエピソードも伝えられています。

さて、彼がこのたった1曲だけのホルン・トリオを書く切っ掛けとなったのは、ハンブルグに在住して時に9月か12月の間だけデルモルトの宮廷楽奏者をと合唱指揮者を務めた事でした。そこで、宮廷楽団のコンサート・マスターだったバルゲールとの交流を深め、さらに優れたホルン奏者だったアウグスト・コルデストとの3人で室内楽演奏を楽しむようになったのです。

しかしながら、ホルン・トリオの作品というのはそれほど数は多くないのでついにはネタ切れをおこしてしまい、それなら自ら作曲しようと思い立って完成させたのがこのホルン・トリオでした。
しかしながら、作品が完成したのは彼がウィーンに居を構え、ジングアカデミーの指揮者に就任してからでした。そして、ウィーン郊外のバーデン・バーデンを散策しているときにこの作品の着想を得たと言います。さらには1865年1月に母を亡くしたことも大きな影響を与えたのかもしれません。

この作品のロマン的な美しさは際だっているのですが、その中でも第3楽章の哀愁に溢れる旋律は亡き母へのレクイエムのように聞こえます。
ピアノで始まり、そこにヴァイオリン、そしてホルンと対位法的に旋律が重ねられることで、その憂愁はより重厚なものになっていきます。
しかし、作品全体に漂う牧歌的な雰囲気にはバーデン・バーデンの自然が反映しています。とりわけ、第1楽章の冒頭でヴァイオリンが歌い出す旋律をすぐにホルンが受け継ぐ部分の伸びやかで牧歌的な雰囲気は作品背体の佇まいを決定しているように期にこえます。

なお、ブラームスはこの作品で使用するホルンはバルブのない古いタイプの楽器を想定しています。言うまでもなく、バルブのないホルンの演奏は技術的には難しいのですが、その豊かな音色がこのホルン・トリオには必須だと考えたようです。



「世界遺産」級の演奏と録音


SP盤への悪口として良く「竹屋の火事」などと言われました。
「竹屋の火事」とは、竹が燃えると、はじけて音を出すところから怒って、ぽんぽん言うさまをいう言葉なのですが、そのパチパチという音がSP盤のパチパチノイズを連想させるので、そんな事が言われたようです。
そして、SP盤時代の名演奏を紹介するときの決まり文句は「音は悪くてノイズも多いのだが」という前置きをしてから、「その他に変えがたい演奏の魅力」を誉めるというのが「お約束」みたいなものでした。

しかしながら、この時代になって、なにも「竹屋の火事」のようなパチパチノイズにまみれて音楽を聞く必要はないだろうし、人によっては昔の人はよくもあんな酷い音で我慢してたものだと言ったりします。
ところが、保存状態のよいSP盤をきちんとしたシステムで再生するとパチパチノイズはほぼ皆無ですし、音色もそれ以降のLP盤時代と較べてもそれほど劣らないクオリティを持っていたことを派あまり知られていません。それだけでなく、SP盤でしか出ない味があることにも気づかされます。
そして、そう言う状態のSP盤をもとに丁寧に復刻を行えば、驚くほどの高音質で再生することが可能です。

このアドルフ。ブッシュを中心として録音したホルン・トリオはそう言う優れものの中でも、とびきりの優秀録音盤です。
ですから、この録音に関しては「音は悪くてノイズも多いのだが」という前置きは一切必要ありません。おそらく、モノラル録音時代のLP盤と較べても何の遜色もありませんし、さらにこの時代ならでは魅力ある響きが魅力的です。そして、演奏に関しては何も言うことがないほどの素晴らしさなのですから、よくぞこの状態の音源が現在まで残ってくれたことに感謝するしかありません。

アドルフ・ブッシュとルドルフ・ゼルキンという黄金のコンビに、あの不世出のホルン奏者のデニス・ブレインの父親であったオーブリー・ブレインが参加するのですから、それだけでも貴重な録音です。そして、このオードリーのホルンを聞けば、デニス・ブレインの原点が何処にあったかは容易に理解できるはずです。

確かに、演奏のスキルだけを較べれば古さは否定できません。しかし、ロマンティストとしてのブラームスの姿をここまで多彩な情緒溢れる姿で表現した演奏は、おそらく他に聞いたことがないように思います。
まさに「世界遺産」級の演奏と録音です。