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ベートーベン:ピアノ協奏曲第4番 ト長調, 作品58


(P)ヴィルヘルム・バックハウス:クレメンス・クラウス指揮 ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団 1951年5月31日録音をダウンロード

  1. Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58 [1.Allegro moderato]
  2. Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58 [2.Andante con moto]
  3. Beethoven:Piano Concerto No.4, Op.58 [3.Rondo. Vivace]

新しい世界への開拓



1805年に第3番の協奏曲を完成させたベートーベンは、このパセティックな作品とは全く異なる明るくて幸福感に満ちた新しい第4番の協奏曲を書き始めます。そして、翌年の7月に一応の完成を見たものの多少の手なしが必要だったようで、最終的にはその年の暮れ頃に完成しただろうと言われています。

この作品はピアノソナタの作曲家と交響曲の作曲家が融合した作品だと言われ、特にこの時期のベートーベンのを特徴づける新しい世界への開拓精神があふれた作品だと言われてきました。
それは、第1楽章の冒頭においてピアノが第1主題を奏して音楽が始まるとか、第2楽章がフェルマータで終了してそのまま第3楽章に切れ目なく流れていくとか、そう言う形式的な面だけではなりません。もちろんそれも重要な要因ですが、それよりも重要なことは作品全体に漂う即興性と幻想的な性格にこそベートーベンの新しいチャレンジがあります。

その意味で、この作品に呼応するのが交響曲の第4番でしょう。
壮大で構築的な「エロイカ」を書いたベートーベンが次にチャレンジした第4番はガラリとその性格を変えて、何よりもファンタジックなものを交響曲という形式に持ち込もうとしました。それと同じ方向性がこの協奏曲の中にも流れています。
パセティックでアパショナータなベートーベンは姿を潜め、ロマンティックでファンタジックなベートーベンが姿をあらわしているのです。

とりわけ、第2楽章で聞くことの出来る「歌」の素晴らしさは、その様なベートーベンの新生面をはっきりと示しています。
「復讐の女神たちをやわらげるオルフェウス」とリストは語りましたし、ショパンのプレリュードにまでこの楽章の影響が及んでいることを指摘する人もいます。
そして、これを持ってベートーベンのピアノ協奏曲の最高傑作とする人もいます。私も個人的には第5番の協奏曲よりもこちらの方を高く評価しています。(そんなことはどうでもいい!と言われそうですが・・・)


申し分のない組み合わせなのですが・・・


ピアノがバックハウス、指揮がクレメンス・クラウス、そしてオケがウィーン・フィルという申し分のない組み合わせなのですが、何故か余り注目されてこなかった録音です。
もちろん、理由はすぐに察しがつきます。それは、50年代の後半にハンス・シュミット=イッセルシュテットとウィーン・フィルとの組み合わせによるステレオ録音が存在するからです。イッセルシュテットの指揮も悪いものではありませんし、バックハウスも70歳をこえている時期でしたがそれほどの衰えは感じられません。

そうなるとステレオによる録音の優秀性は大きく、この50年代初頭のモノラル録音は忘却の彼方に沈んでしまう運命となったのです。
私の手もとには以下の3曲の録音があります。録音年代順に並べると以下の通りです。

  1. ピアノ協奏曲第4番 ト長調 作品58:1951年5月31日録音

  2. ピアノ協奏曲第2番 変ロ長調 作品19:1952年5月25日~26日録音

  3. ピアノ協奏曲第5番 変ホ長調 作品73 「皇帝」:1953年5月録音


1番と3番は録音したのかどうかは分かりませんが、おそらく「全集」に仕上げると言うことにはあまり価値を見いださなかった時代ですから、おそらくこの3曲だけを録音したのでしょう。少なくとも私は見つけ出すことは出来ませんでした。

しかしながら、いかにモノラルによる古い録音と言えでも、実際に聞いてみると忘れてしまうには惜しいと思わせるものを持っていることに気づかされます。

まずは、バックハウスのピアノは、未だ60代だったこの頃と、70歳を超えたステレオ録音とでは全く同じとは言い難いようです。それは、ピアノ・ソナタの全曲録音においても同じ事が言えました。
ベートーベンの積み上げた論理を作曲家になりかわって誠実に、そして確信を持って再現しきれているのはモノラル録音の方であって、さらに言えば、バックハウスならではのピアノの響きの美しさも印象的です。

また、クレメンス・クラウスとウィーン・フィルとの相性の良さも聞き物です。決して、軽くはないのですが、かといってベートーベンだからと言うことで重々しくなることもありません。そして、そう言うクレメンスとバックハウスの二人がお互いの特徴を引き立てあっているように聞こえます。
とりわけ、素晴らしいと思ったのは、ベートーベンのピアノ協奏曲の中ではもっとも聞かれる機会の少ない第2番の演奏です。

言うまでもないことですが、そう言うことを書いたからと言って、このモノラル録音が後年のステレオ録音を押しのけるほどの存在だと言うつもりはありません。
しかし、第2番の協奏曲の魅力だけは後年のステレオ録音に勝るものがあるように思われます。