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メンデルスゾーン:交響曲第4番 イ長調, Op.90 「イタリア」
ハインツ・ワルベルク指揮 フィルハーモニ・プロムナード管弦楽団 1961年録音をダウンロード
- Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 "Italian" [1.Allegro vivace]
- Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 "Italian" [2.Andante con moto]
- Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 "Italian" [3.Con moto moderato]
- Mendelssohn:Symphony No.4 in A major, Op.90 "Italian" [4.Saltarello. Presto]
弾むリズムとほの暗いメロディ
メンデルスゾーンが書いた交響曲の中で最も有名なのがこの「イタリア」でしょう。
この作品はその名の通り1830年から31年にかけてのイタリア旅行の最中にインスピレーションを得てイタリアの地で作曲されました。しかし、旅行中に完成することはなく、ロンドンのフィルハーモニア協会からの依頼を受けて1833年にようやく完成させています。
同年の5月13日に自らの指揮で初演を行い大成功をおさめるのですが、メンデルスゾーン自身は不満を感じたようで、その後1838年に大規模な改訂を行っています。
ただ、その改訂もメンデルゾーン自身を満足させるものではなくて、結局彼は死ぬまでこの作品のスコアを手元に置いて改訂を続けました。そのため、現在では問題が残されたままの改訂版ではなくて、それなりに仕上がった33年版を用いることが一般的です。
作品の特徴は弾むようなリズムがもたらす躍動感と、短調のメロディが不思議な融合を見せている点にあります。
通常この作品は「イタリア」という名が示すように、明るい陽光を連想させる音楽をイメージするのですが、実態は第2楽章と最終楽章が短調で書かれていて、ほの暗い情感を醸し出しています。明るさ一辺倒のように見える第1楽章でも、中間部は短調で書かれています。
しかし、音楽は常に細かく揺れ動き、とりわけ最終楽章は「サルタレロ」と呼ばれるイタリア舞曲のリズムが全編を貫いていて、実に不思議な感覚を味わうことができます。
楽しい音楽が出来るならそれで満足
「ハインツ・ワルベルク」の名前は私対の世代のクラシック音楽ファンには懐かしいものではないでしょうか。それは、その名前を「N響アワー」という番組の中でしばしば目にしたと言うか、耳にしたからです。
私の中では「芥川也寸志」や「池辺晋一郎」が司会していたイメージがあります。とくに、「池辺晋一郎の音楽百科」というコーナーからはいろいろなことを学ばせてもらいました。
ところが、日本人というのは不思議なもので、「舶来モノ」は有り難がるくせに、あまりにも頻繁に目にすると次第に「舶来モノ」としての有難味が薄れてきて、なんだか一段低く見てしまうようなところがあるのです。この関係は、サヴァリッシュなどにもあてはまりますが、ワルベルクの場合はさらに低く見られている雰囲気は否定できなかったのではないでしょうか。
実際、残されている録音はそれほど多くはありませんし、ヨーロッパでの経歴を見ても、「ヴィースバーデン・ヘッセン州立劇場」とか「エッセン歌劇場」という、はっきりいって田舎の歌劇場のシェフ等がメインなので、どこか「二流指揮者」という見方をされていたように思われます。
しかし、音楽というのはそう言う「レッテル」というか「ブランド」で決まるものではありません。
そう言えば、あのコンセルトヘボウというブランドでさえも、とある指揮者に率いられた来日公演では酷い演奏を聞かされた経験があります。ほんとに「金返せ!」と言いたくなったものです。
そして、「ハインツ・ワルベルク」という指揮者が田舎の歌劇場のシェフを続けていたからといって、決して二流の指揮者ではなかったことがこういう録音を聞くとよく分かります。
メンデルスゾーンの「イタリア」はよく歌う演奏ですが、この作品の伸びやかさの背後に潜むほの暗い感情を見事に描ききっています。とりわけ、弱音部では意図的に音量を絞り込んで実に繊細に歌いあげていて、ワルベルクならではの世界を聞かせてくれます。
もちろん、終楽章の「サルタレロ」のリズムの切れも申し分有りません。
そして、それとカップリングされている「夏の夜の夢」 は抜粋であるのは残念なのですが、序曲における幻想性は聞くものを十分に魅了しますし、朝陽の中に妖精たちが消えていくラストのシーンも見事なものです。
もちろん、とびきりの超一流とまでは持ち上げるつもりはありませんが、田舎の歌劇場の二流指揮者というのは明らかに誤った認識です。
聞くところによると、この「ハインツ・ワルベルク」と言う人はかなりの大金持ちだったそうです。
ですから、「金持ち喧嘩せず」で、無駄な労力を使うことなく自分の愛する音楽を自由に演奏することを好んだようです。つまりは、地方の歌劇賞を足がかりとして、そこから中央目指してキャリアを積み上げていくというような「野心」とは無縁だったのです。
そう言う意味では、音楽をすることを本心から楽しんでいる「劇場型の指揮者」であったことは間違いないようです。
ですから、この録音でも「フィルハーモニ・プロムナード管弦楽団」という得体の知れないオケをあてがわれても、それで楽しい音楽が出来るならなんの不満もなかったのでしょう。
もちろん、毎年のように日本を訪れてN響の指揮台に立つのも同様にウェルカムだったのでしょう。