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ベートーベン:交響曲第4番 変ロ長調
セル指揮 クリーブランド管弦楽団 1947年4月22日録音をダウンロード
- ベートーベン:交響曲第4番 変ロ長調 Op.60「第1楽章」
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北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女
北方の巨人にはさまれたギリシャの乙女、と形容したのは誰だったでしょうか?(シューマンだったかな?)エロイカと運命という巨大なシンフォニーにはさまれた軽くて小さな交響曲というのがこの作品に対する一般的なイメージでした。
そのためもあって、かつてはあまり日の当たらない作品でした。
そんな事情を一挙に覆してくれたのがカルロス・クライバーでした。言うまでもなく、バイエルン国立歌劇場管弦楽団とのライブ録音です。
最終楽章のテンポ設定には「いくら何でも早すぎる!」という批判があるとは事実ですが、しかしあの演奏は、この交響曲が決して規模の小さな軽い作品などではないことをはっきりと私たちに示してくれました。(ちなみに、クライバーの演奏で聴く限り、優美なギリシャの乙女と言うよりはとんでもないじゃじゃ馬娘です。)
改めてこの作品を見直してみると、エロイカや運命にはない独自の世界を切り開こうとするベートーベンの姿が見えてきます。
それはがっしりとした構築感とは対極にある世界、どこか即興的でロマンティックな趣のある世界です。それは、長い序奏部に顕著ですし、そのあとに続く燦然たる光の世界にも同じ事が言えます。第2楽章で聞こえてくるクラリネットのの憧れに満ちた響き、第3楽章のヘミオラ的なリズムなどまさにロマン的であり即興的です。
そして、こういうベクトルを持った交響曲がこれ一つと言うこともあり、そう言うオンリーワンの魅力の故にか、現在ではなかなかの人気曲になっています。
磁器と言うよりは生成りの布の手ざわり
これはある意味で実に興味深い録音です。
1947年4月22日録音ということは、まさにセルがクリーブランドのシェフに就任してすぐの録音です。
音楽の質はまがう事なきセルのベートーベンです。二流の田舎オケにすぎなかったクリーブランドのオケはセルの棒に応えてよく健闘しています。引き締まった筋肉質なベートーベンは後年のこのコンビによる録音と大差はありません。
「新しいシェフの要求は結構きつかったけど、まあ俺たち頑張ったよね!」と言う団員たちの声が聞こえてきそうな録音です。
しかし、セルの方はそんな頑張りにもかかわらずはっきりとこのオケの限界を感じ取ったはずです。
それは音楽の形は何とか期待に応えて整えることが出来ても、オケの響きに関しては己の理想とは全くかけ離れていたからです。
この録音から聞こえてくるオケの響きは「陶磁器のような」と形容された後年のものとは全く異なり、それはザラッとした生成りの布のような響きです。人によってはもしかしたらこちらの方を好ましく思う人がいても不思議ではないと思うのですが、それは明らかにセルが求めていた響きとは異なったはずです。
そして、こういう部分に関してはトレーニングで克服できる問題でないことも悟ったのでしょう。結果として、この後2年間でメンバーの3分の2が解雇されるという「血の粛清」が始まります。
そんな意味で、クリーブランドのオケにとってのターニングポイントとも言うべき録音だと言えます。