ギュンター・ラミンのバッハ:教会カンタータの紹介を終えて

ほとんどの人にとってはあまり興味のない録音だったようなのですが(^^;、私としてはラミンが録音したバッハの教会カンタータの紹介を終えることが出来て肩の荷が下りたような気がしています。

確かに、日本人にとっては「キリスト教」というのは「クリスマス」の時の訳の分からない騒ぎ以外では全く縁のない世界です。
そして、そう言う全く縁のない世界のど真ん中に位置するのが、音楽ではこのバッハの教会カンタータでしょう。それ故に、どうしてもバッハ作品の中でも及び腰になってしまいます。
正直に言えば、全曲を収録したボックス盤は手もとに一つあるのですが、未だ全てを聞き終わっていません。
正直に言えば、みんな同じような雰囲気に聞こえてしまうので、次々と聞いていく意欲が失せてしまうのです。結果として、音楽を楽しうと言うよりは勉強モードに近くなってしまうのです。

しかし、こういうサイトをやっていると、どうしても聞かなければいけない状況に追い込まれることがあります。そして、そうやって追い込まれることで、ふと作品が持っている魅力に気がつく瞬間があります。そうなると、いつの間にか勉強モードから抜け出してその音楽が持つ魅力に引き込まれている自分に気づくことがあるのです。
その良い例がマックス・ゴバーマンによるハイドンの交響曲全集を目指しながらも突然の死によって中断されてしまった録音でした。
おあのゴバーマンの残した業績を紹介しなければと言う思いがなければ、おそらくハイドンの初期・中期の交響曲が持つ魅力に気づくことはなかったでしょう。

Günther Ramin

そして、それと同じ事が今回のラミンによる教会カンタータの録音にも言えます。
やはり、クラシック音楽には蘊蓄が必要なようです。サイトで紹介するとなれば作品についてある程度は調べなければいけません。さらに、演奏史などについても概観する必要がありますし、ラミンという指揮者のポジションも確認する必要があります。そして、そう言うことも踏まえて聞き進めていくうちに、バッハの教会カンターは「どれを聞いても同じような雰囲気」どころか、「どの作品を聞いてもバッハならではの新しい試みが盛り込まれている」ことに気づかされたのです。
そうなると、新しいカンタータを聴くのが楽しくなってきて、このラミンが残した全ての教会カンタータの録音も一気に聞き通してしまいました。

そして、それ故に、訪れる人にとってはほとんど興味をひかないことはアクセス解析からもはっきりと分かりながらも、それはどうしても全て紹介しなければいけないと考えた次第です。

「ミッシングリンク(Missing-link)」という言葉があります。
もとは生物学の用語で、生物の進化過程を連なる鎖として見た時に、連続性が欠けた部分の事を言います。
そして、その概念はクラシック音楽の演奏史においても適用する必要があることにあらためて気づかせてくれたのがこのラミンの録音でした。

バッハの演奏史を見れば、その画期的な転換点が1955年のグールドによる「ゴルドベルク変奏曲」と、1957年のリヒターによる「マタイ種何曲」であったことには異論はないでしょう。そして、その驚くべき進化は突然引き起こされたように見えます。
しかし、演奏史をもう少し詳しく見てみれば、グールドによる画期的な演奏の前にロザリン・トゥーレックが存在していたことは最近になって少しずつ認知されるようになってきました。
そして、このラミンの演奏と録音もまたリヒターの画期的なバッハ演奏の前史として大きな意味を持っていたのです。

つまりは、トゥーレックもラミンも、バッハ演奏における「Missing-link」だったわけです。しかし、その失われた環は補わなければその全体像を正確に描くことは不可能です。

とまあ、随分とたいそうなことを書いてしまったのですが(^^;、そんな訳もあって、何とかラミンが残した教会カンタータの録音を全て紹介できてホッとしてるのです。もっとも、もう一つ大物の受難曲が一つ残っていますが・・・、それはいつ紹介できるかは未定です。

ただし、おかしな話なのですが、それが出来たのは「コロナ禍」のおかげもあると言うことです。
退職をして、ただでさえ時間が増えた上に、さらに自粛とステイホームによって自宅で過ごす時間が途轍もなく増えてしまいました。そうなると、後は音楽を聞くか、本を読むか、映画やドラマを見るかくらいしか選択肢がなくなってしまいます。おかげで、膨大な未聴の山を少しずつ崩していくことが出来ました。

おそらく、出来ないことを嘆く暇があるのならば、出来ることを探す方が少しは幸せになれるはずです。
今年は大変な一年でしたがそれもあとわずかで終わりです。
もっとも、年が明けたからと言って、今の政治指導者の無能・無策・無責任ぶりを見ていれば来年も何も変わらないでしょう。

それ故に、「ここにある今(Here and Now)」を大切にしながら、これからもまだまだ続くであろう世界史的試練を乗り切っていくしかないのでしょう。

2 comments for “ギュンター・ラミンのバッハ:教会カンタータの紹介を終えて

  1. 2020年12月30日 at 8:05 AM

    ありがとうございました。
    ラミンという音楽家はヨハネのCDを買って知りました。少年合唱で録音したその録音は、数あるヨハネの中でも最も好きな録音です。
    今回はカンタータを紹介していただき、初めて聴くものが沢山でとてもありがたかったです。

  2. コタロー
    2021年1月5日 at 6:45 AM

    ラミンのバッハのカンタータは、初めて聴きましたが、とても清澄で味わい深い演奏でした。
    楽しみにしていただけに、これで終わってしまうのは、名残惜しい気がします。
    私個人としては第182番のカンタータを聴きたかったのですが・・・。
    でも長い間ご紹介いただき、ありがとうございました。

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