『啓蒙主義の時代』~18世紀の音楽(29CD+1CD-ROM)

『啓蒙主義の時代』~18世紀の音楽(29CD+1CD-ROM)

ハルモニアムンディ・フランスから魅力的なボックス・セットの登場。同社の質の高い音源を用い、個別のテーマに沿って再編成するという凝った内容で、充実のブックレット、いつもながらの美しいパッケージ、そしてお買得な価格設定と良い条件の揃ったセットです。

『啓蒙主義の時代』~18世紀の音楽(29CD+1CD-ROM)
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Lumieres

色々な意味で「う~ん^^;」と考え込まされたボックス盤です。

このボックス盤は、その内容をざっと見ただけでも、昨今の隣接権の切れかけた、または切れてしまった音源を詰め込んだ「叩き売り」仕様のボックス盤とは一線を画していることはすぐに分かります。
ひと言で言えば、それなりの「志」がうかがえます。
その志とは、18世紀という『啓蒙主義の時代』において、「ソナタ形式の発展・確立」という流れの中でシンフォニア、ピアノ曲、その他様々な室内楽ジャンルにおいて音楽のスタイルがどのように変容していったかを概観しようというものでした。

一例をあげれば、協奏曲というジャンルでは、ヴィヴァルディ、テレマン、J.S.バッハというバロック様式の音楽からスタートして、それに続く存在としてモンやC.P.E.バッハに代表されるバッハ一族の作品や「悪魔のトリルで有名なタルティーニの作品が紹介され、締めくくりとしてハイドン、モーツァルト、ベートーベンという古典派の作品が収録されます。また、このボックス盤の面白いのは、ハイドン、モーツァルトの初期作品と肩を並べてプレイエルのチェロ協奏曲が収録されていることです。こういうちょっとしたアクセントの部分に作り手の「思い」みたいなものを感じ取ることができます。
こういう形でまとめて聴かされると、「なるほど、協奏曲というのはこういう風にして姿を変えていったのか」と実感を持って納得する事ができます。

そして、こういう雰囲気で交響曲やオペラ、ピアノ曲、弦楽四重奏などというジャンルが紹介されていきます。面白いのは「A TRE」と題されたジャンルで、トリオ・ソナタから三重奏曲へと発展していく流れが実に手際よくまとめられています。

と言うわけで、売れ残った商品を適当に詰め込んだお手軽な福袋みたいなボックス盤とは一線を画すのですが、残念ながら全く売れなかったようなのです。
昨年(2012年)の9月にリリースされ、「29CD+1CD-ROM 限定盤」で9860円という設定だったのですが、今回何と値引き価格2990円という「叩き売り状態」になってしまったのです。

「う~ん」と呻ってしまったのは、それなりの志のある企画であるのに「売れなかった」という現実に対しての「う~ん」でもあるのですが、それよりも、結局私も「買わなかった」という現実に対する「う~ん」でもありました。
確かに、このボックス盤を見たときに「面白いな」とは思ったのですが、結局は購入を見送りました。見送ったときは、数ある「決断」の一つとしてそれほど気にもとめなかったのですが、その10ヶ月後にこういう現実と出会ってしまうと、それなりに意味のある企画であったのに何故に見送ってしまったのかを見つめ直してみたくなったのです。

では、どうして購入を見送ったのか?
そのラインナップを改めて眺め直してみて、その時に見送った理由が思い出されました。
ひと言で言えば、モーツァルトとベートーベン、そして一部のハイドンの有名作品が余分だと判断したのでした。

確かに、作り手の側からすればバッロクの音楽から古典派の作品までを一つのラインとしてつなごうとすればハイドン、モーツァルト、ベートーベンは欠くことのできない存在であることは理解できます。しかし、ヘビーなユーザであれば彼らの録音は既に山ほど所有しているのが現実です。
正直言って、中途半端な録音でそう言う作品を今さら紹介してもらう必要はないのです。
そして、ハイドン、モーツァルト、ベートーベンの作品をこういうボックス盤で聞いてみたいと思うようなユーザーにとっては、このボックス盤はマニアックに過ぎるようなのです。おそらく、そう言うユーザーはモンやC.P.E.バッハ、プレイエルの作品には興味がわかないはずです。
つまりは、コアなユーザーにとってはコアに徹し切れておらず、そうでないユーザーにとってはコアに過ぎるのです。

どうやら、今という時代は「中途半端」は生き残れないということなのでしょう。
コアに徹するならば徹底的にコアに徹する。
たとえば、このシリーズならばハイドン、モーツァルト、ベートーベンはバッサリとカットして、その分を使ってバロックから古典派への繋ぎとしての役割を果たした時代の作品を増量してほしかったのです。

そして、コアに徹する勇気がないのならば、逆に徹底的に安直な路線を突っ走るのです。簡単に言えば、売れ筋の有名作品の有名録音を適当な脈絡でタイトルをつけて激安でドーンとリリースするという方向性です。
何とも志の低い話ですが、その中に資料的価値の高いもので未所有の録音がいくつか入っていればコアなファンは買っちゃったりします。当然のことながら、一般ユーザーにとっても敷居の低いボックス盤と言うことになります。

しかしながら、願わくば、そして、できうれば、徹底的にとんがった企画でボックス盤がリリースされることを期待するものです。
おそらく、社内的には「そんなもの売れないよ!」と反論は出るのでしょうが、意外とそう言う企画の方が成功が期待できるような気はします。まあ、外野からの気楽な提案ではありますが・・・。(^^;

でも、このボックス盤、2990円まで下がれば、これは絶対に買いですね。
どこからか、そんな態度がこの業界の首を絞めているんだろう!というお叱りの声が聞こえそうです。m(_ _)m

2 comments for “『啓蒙主義の時代』~18世紀の音楽(29CD+1CD-ROM)

  1. nakamoto
    2013年7月21日 at 5:49 AM

    ユングクンさんのコメント、とても知識が豊富で構造的で三次元的で私の脳が喜んでいます。これだけ簡単に音楽が聴ける時代、時間が足りません。ユングくんさんのコメントで時間は節約でき、CDの内容もまるで見えるようで購入の手助けになります。わたしの狭い交友関係でも、音楽のプロや作曲で収入のあるもの音大の学生などがいますが、話してもあまりに知識が乏しく、偏見に満ちていて、正直教える立場になってしまう人ばかりです。ユングクンさんには、とりあえず感謝です。

  2. old boy
    2013年7月23日 at 9:40 AM

    早速購入しました。
    30枚で2990円、ローソン受け取りで送料無料。
    今からVortexBoxでリッピングして楽しみます。
    いつも貴重な情報をいただきありがとうございます。

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