“このアルバムが発売になったときに、どれだけ多くの人がこんな作品があることに驚嘆し、こんな演奏家がいることに驚嘆しただろう。
もちろんそれまでヴェーグSQやジュリアードSQやバルトークSQ、ハンガリーSQとさまざまな有名団体が名録音を残してきていた。しかし正直このアルバン・ベルクSQの全集が出るまで、この曲は今のような20世紀最高の弦楽四重奏曲の称号は勝ち得ていなかったような気がする。87年度のレコード・アカデミー大賞を受賞し、クラシック・ファンはむさぼるようにこのアルバムを聴き、そしてこれを聴くことがひとつのステイタスとさえなった。”
EMI GEMINI
昔、こんな事を書いたことがあります。
「バルトークの弦楽四重奏曲は、この形式による作品としてベートーベン以降最大の業績だといわれています。ところが、「そんなにすごい作品なのか!」と専門家の意見をおしいただいてCD等を買ってきて聞いてみると、思わずのけぞってしまいます。その「のけぞる」というのは作品のあまりの素晴らしさに感激して「のけぞる」のではなくて、作品のあまりの「わからなさ」にのけぞってしまうのです。
音楽を聞くのに、「分かる」「分からない」というのはちょっとおかしな表現ですから、もう少し正確に表現すれば、全く心の襞にふれてこようとしない「異形の姿」に「のけぞって」しまうのです。
とにかく古典派やロマン派の音楽に親しんできた耳にはとんでもなく抵抗感のある音楽です。そこで正直な人は、「こんな訳の分からない音楽を聞いて時間を過ごすほどに人生は短くない」と思ってプレーヤーの停止ボタンを押しますし、もっと正直な人は「こんな作品のどこがベートーベン以降の最大の業績なんだ!専門家の連中は馬鹿には分からないというかもしれないが、そんなの裸の王様だ!!」と叫んだりします。」
実は、専門家の意見を聞いて買ってきたというのが、この アルバン・ベルク四重奏団のCDだったのです。この録音で聞いても作品の真価が分からなかったというのは「アホウ」以外の何ものでもありませんが、それでも何度も聞き続けているうちに次のような思いをもたらしてくれたCDです。
「そんなことを何度も繰り返しているうちに、ふとこの音楽が素直に心の中に入ってくる瞬間を経験します。それは、難しいことなどは何も考えずに、ただ流れてくる音楽に身を浸している時です。
おそらく、すごく疲れていたのでしょう。そんな時に、ロマン派の甘い音楽はかえって疲れを増幅させるような気がするので、そういうものとは全く無縁のバルトークの音楽をかけてみようと思います。ホントにぼんやりとして、全く何も考えずに流れきては流れ去っていく音の連なりに身を浸しています。すると、何気ないちょっとしたフレーズの後ろからバルトークの素顔がのぞいたような気がするのです。」
「ユング君にとってバルトークの音楽は20世紀の音楽を聞き込んでいくための試金石となった作品でした。とりわけ、この6曲からなる弦楽四重奏曲は試金石の中の試金石でした。そして、これらの作品を素直に受け入れられるようになって、ベルクやウェーベルンなどの新ウィーン学派の音楽の素晴らしさも素直に受け入れられるようになりました。」
理屈ではなく本音の部分で20世紀の音楽を楽しむためには、これ以上の録音はないでしょう。
それが2枚セットでわずか1200円とは!!
もしもお持ちでないならこれもまた絶対に買いだと思います。