EUで音楽の著作権保護を95年へ延長する提案がなされる

“EUの委員から音楽録音の著作権を95年に延長するべきとの提案があったそうです。実現すると、演奏者や歌手への印税年数が現行の50年からアメリカと同じ年数に引き上げられることになります(本家のストーリ ITmediaの記事)。 提案によると、リスナーがアルバムを家と車など複数の場所で聞くために焼く合法コピーに関してアーティストや著作権保持者を補償するため、ディスクやデータストレージ、音楽・動画プレイヤーに対する新たな課税の可能性も平行して探っていきたい意向で、「人々の寿命は長くなり、50年間の著作権保護では10代から20代前半にヒットを飛ばしたアーティスト達は生涯に渡る収入が得られなくなってしまった」とのことです。本家のコメントにもあるように、若い頃に飛ばしたヒットで一生食べていけたらおいしすぎないでしょうか? 一生働かないといけない身としてはうらやましい限り。”

スラッシュドット・ジャパン | EUで音楽の著作権保護を95年へ延長する提案がなされる
この記事が出てから、あちこちで著作権絡みの話題がにぎやかです。
著作権法というのはついに老人福祉の問題まで担うようになったのかとため息が出ます。まあ、その辺の皮肉まじりの批判はあちこちで出ていますから、私がそれ以上につけくわえる必要はないでしょう。
著作権法というのは創作活動にたずさわる人々の生活を維持するために存在するのではなくて、あくまでも文化の保護・発展のために存在するものだと言うことだけは思い出しておくべきです。もしもこのような論理がまかり通るならば、創作者の老後の生活だけでなく、やがては彼らの子々孫々にいたるまでの生活の面倒を見なければいけなくなってしまいます。
創作者の生活を保護するのは、その保護によって新たな創作活動が維持継続できるための環境を作るためになされるのであって、決してそれ自体が目的となるものではあり得ません。もしも、今回の主張の合理性を主張するならば、老後の生活を保護することがどの様に新たな創作活動の動機付けになるのかを論証しなければいけません。ただ、若いときにヒットを飛ばした創作者が、そのヒットによる「権益」を50年以上守れないために老後のくらしが苦しくなるから、では何の説明にもなっていません。
しかし、今回の保護期間延長に関わって一番の問題は、それが文化の発展に対する阻害物に転化してしまうと言う点です。
残念なことですが、今のレコード会社は売れない録音はリリースしません。その録音が演奏史においてどれほど意味のあるものであっても、その判断基準はあくまでも売れるか、売れないかです。そして、クラシック音楽の古い録音などというものはどう考えたって「売れない」のです。
おそらく、彼らが何とか既得権として守りたいのはプレスリーやビートルズに代表されるごく一部の「売れる」録音だけです。その既得権を守りたいがために、その他多くの「売れない」録音は著作権という檻の中に入れられて朽ち果てていくのです。
この事は、この数年の動きを見てみるだけでも明らかです。
クラシック音楽の世界にとって50年代とは黄金の時代でした。そして、その黄金の時代に録音された演奏がパブリックドメインになることで多くのマイナーレーベルからリリースされることで、私たちはそれらの録音に接することが出来るようになったのです。決して、版元であるメジャーレーベルの努力によってそれらの録音が日の目を見たのではないのです。
中には、ペルルミュテールのモーツァルトのピアノソナタ全集のように、版元がどれほど要請されてもリリースしなかったのに、パブリックドメインになってマイナーレーベルがリリースし、それがけっこう売れるのを見てあわてて売り出すなどという体たらくもあるのです。しかし、考えようによっては、まだあわてて追随してマスターテープからの音源をきちんとした形でリリースするだけこのレーベルは良心的なのかもしれません。(嫌味ではないですyと・・・^^;)
パブリックドメインになってしまったような音源にはほとんどのレーベルは無関心で、マイナーレーベルの動きなどは目の端にも止めていません。
ですから、保護期間が95年に延長されれば、このあと半世紀にわたるクラシック音楽の録音はその大半が檻の中に収監されることになります。
権利には義務がともないます。
著作権にともなって多くの利益を享受するレコード会社には、当然のことながら「文化の守り手」としての義務が発生します。その義務とは、全てとは言わないまでも、クラシック音楽の歴史と演奏史を概観できるだけのカタログを常時保持しておき、さらにはそれらの録音物を適正な価格で供給することです。それがやれるのならば、個人的には保護期間の延長には強硬に反対する気はありません。
しかし、その様な最低限の義務さえ果たさないだろう事は今までの彼らの振る舞いを見れば火を見るよりも明らかです。
残念であり、情けない話です。
こんな事を続けていると、本当に著作権というシステムは崩壊してしまうかもしれません。