新年の挨拶・・・のようなもの

新しい年が明けました。
いつも書いていることですが、こういうサイト運営しているものにとって「新年」とは、また多くのすぐれた録音がパブリックドメインの仲間入りをすると言うことです。2016年という事は1965年にリリースされた音源がパブリックドメインになると言うことを意味します。
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大物で言えば、ショルティ&ウィーンフィル&カルショー(^^vによる指輪4部作が全てパブリックドメインになります。日本国内では63年に録音された「ワルキューレ」だけが66年リリースされているのですが、欧米では「神々の黄昏」と同じく65年にリリースしているので、このお正月をもって目出度くパブリックドメインです。
それ以外にもバルビローリ&ベルリンフィルによるマーラーの9番やホロヴィッツの歴史的な復帰演奏会(ヒストリック・リターン)などもパブリックドメインとなります。

しかし、60年代の音源が次々とパブリックドメインの仲間入りをするようになってからは、いささか「手に余る」という状態になっています。

「手に余る」というのは、そうやって次々にパブリックドメインになっていく音源が入手しきれないという意味で「手に余る」わけではありません。
幸いなことに、この数年は格安のボックス盤で古い録音が次々とリリースされます。さらには、アナログのシステムを復活させてから気がついたのですが、CD化されていない(もしくは、ほとんど入手不可能となっている)録音でも中古レコード屋を丹念にめぐってみれば一枚数百円で貴重な録音が入手できます。
この年末も日本橋の幾つかのお店を半日ほどめぐってみて、そう言う中古レコードを発掘してきました。

ですから、「手に余る」というのは音源が入手しきれないというのではなくて、そうやってどんどん数を増していくパブリックドメインの音源を自分の中で消化して紹介していくという行為が次第に「手に余る」ようになってきているのです。
さらに言えば、パブリックドメインとなった音源がどんどん手元に集まってくることで、今までは紹介できなかったマイナーな作品も取り上げることが出来るようになってきて、そう言う作品を紹介していこうと思えばさらに「手に余る」ようになってきているのです。

実際この数ヶ月、かなり意識をしてマイナーな作品を重点的にアップしてきました。
直近では、モーツァルトの初期の弦楽四重奏曲やバッハのオルガン作品です。その前は、モーツァルトのピアノ三重奏曲やハイドンのピアノソナタなんかもある程度まとめアップしました。

正直に言いますと、こういう作品を追加するのは非常に骨が折れます。

まず何よりも、作品の紹介を新たに書かなければいけません。ところが、いかに拙いものであっても、曲がりなりにでも作品の紹介を書こうと思えば「勉強」をする必要があります。手元に資料があればいいのですが、こういうマイナー作品になるとは街の図書館に行って「探す」という手間が発生します。
そして、そうやって何とか文章をまとめてアップしても、その内容が気に入らない方もおられるようで、中には「頭にウジ虫がわいているとしか思えないような内容」などと言うお叱りを受けたりもします。
中には、「下らない文章はいらないから音源だけアップしろ」という方もおられます。

こういうお叱りを受けるたびに、音楽は人の心を陶冶するという建前がいかに虚しいものであるかを思い知らされます。
ただし、書いている内容もそれほど立派なものでないことは自分自身も分かっていますから、それも期待を込めた叱咤激励と受け止めることにしています。(とは言え、心の中では地獄に堕ちろ・・・とは思いますが・・・^^v)

ただ、残念なのは、そうやって多大な労力を使ってマイナー作品をアップしても、それを聞いてくれる方が非常に少ないという現実です。

言葉をかえれば、だからマイナー作品なのでしょうが、それでも例えばモーツァルトのピアノ三重奏曲の中などには、これぞモーツァルト!と思わせられるような素晴らしい音楽も含まれています。
ハイドンのピアノソナタなども聴かれることが非常に少ない音楽ですが、彼の後に続くベートーベンのソナタをはっきりと窺わせるような作品も数多く存在します。
モーツァルトの弦楽四重奏曲となると、確かにハイドンセット以降の作品でなければモーツァルトと言えども「習作」の域を出ていないことは確かです。しかし、それに先立つ2つのセット(12曲)を聞いてみることは、天才モーツァルトがいかに「努力」したかがうかがえる数少ないシーンであったりするのです。

ですから、聞いてくれる方が少なくても、クラシック音楽というジャンルの概要くらいは把握できるようにそう言う部分にも光は当てていきたいとは思っています。
そして、そう思えば、次々と多くの音源がパブリックドメインの仲間入りをしてくる現状はますます「手に余る」状態をもたらすのです。

そして、その様な現状をふまえれば、TPP交渉にともなくう著作権の保護期間延長も全てが全て悪い話ではないのかと思う自分がいたりします。
どの時点で、どのような形でこの交渉が発効されるのかは分かりませんが、もしもそれが効力を持つようになれば、その時点から20年にわたってパブリックドメインとなる音源は凍結されることになります。しかし、それは逆からみれば、手に余ってこぼれ落ちてしまっている多くのすぐれた録音をもう一度丁寧に拾い上げる余裕が生まれることを意味します。

そして、クラシック音楽の世界というのは疑いもなく「黄金の50年代」なのです。そして、その余光が未だに健在だったのが60年代なのです。これらの時代の音楽を聴く事が出来れば、残りの人生を生きていくことに何の不満も不自由もありません。
確かに時代の先端で流行を追いかけることは悪いことではありません。
しかし、そんな世の動きの最後尾で、そこからこぼれ落ちいくものの中から本当に価値あるものをもう一度丁寧に拾い上げてみるというのも悪い話ではありません。

年寄りには世の流行を追いかけるパワーはもうありませんが、こぼれ落ちていくものを拾い上げることくらいなら出来そうですので、今年も少しずつそう言うこぼれ落ちたものを出来る範囲で拾い上げていきたいと思います。

9 comments for “新年の挨拶・・・のようなもの

  1. 古川賢一
    2016年1月2日 at 3:50 PM

    新年明けましておめでとうございます。
    昨年も、様々なジャンルの録音をアップしていただき、大変勉強になり、また楽しく聞かせていただきました。
    本年もどうぞよろしくお願いいたします。

    サイト運営のご苦労をお察しいたします。
    それにしても、自分はダウンロードのボタンを押すだけのくせして、運営側の苦労も顧みない暴言を吐く人の頭の中こそウジが湧いて居るのではないでしょうか。
    黙ってダウンロードだけしていろという気になります。

    どうか、無理をされずこれまでのスタンスで、末永くこのサイトを続けていただけることを願っています。

  2. ほんのむし
    2016年1月2日 at 4:02 PM

    作品について何かを語るということは、演奏家であっても、音楽学者であっても、あるいはそういう人たちであるほどに、難しいのかもしれません。音楽史、演奏史といった概論を網羅していなくても、それを選ぶ人の思い入れとか経験とか、ここでしか見られないことが示されているならば、それはそれでいいのではないでしょうか。

    • yung
      2016年1月2日 at 5:42 PM

      それを選ぶ人の思い入れとか経験とか、ここでしか見られないことが示されているならば、それはそれでいいのではないでしょうか。

      ハイ、ありがとうございます。
      何処かでも書いたのですが、私のモットーは「井の中の蛙大海を知らず。されど天の青を知る。」です。
      これからも、私がみた空の青さだけはしっかりと語っていければと思っています。

  3. Kouno
    2016年1月3日 at 11:02 AM

    バッハのロ短調ミサ曲のyungさんの解説を読んだときに、宗教者の意見のことを知り、びっくりいたしておりましたが、そのほかにもいろいろあるようで、サイト運営のご苦労をお察し申し上げます。
    昨年12月に、yungさんのこのサイトへ一日中つながらなくて、翌日つながり安堵いたしましたが、わたくしはリスニングルームへアップされる曲を毎日楽しみにパソコンを立ち上げております。今日も、リストの「前奏曲」がアップされていて、死について思いを巡らしました。年末から、中世ヨーロッパの、「死の舞踏」の歴史に興味をもって本を読んだりしましたがよいタイミングでした。今年もいろいろな曲を聞かせてください。

  4. 染谷 明
    2016年1月3日 at 11:19 AM

    いつも有り難うございます。大変楽しく聴かせて、また、読ませて頂き、参考にさせて頂いております。サイト運営のご苦労も考えず、暴言を吐くなど、論外ですね。
    常々、何かお手伝いできれば、などと考えております。

  5. まっこい
    2016年1月3日 at 12:06 PM

    多分初めてのコメントと思います。いつも楽しみに拝見いたしております。曲のアップロードと興味深い記事、誠にありがとうございます。

    60年代になると録音の数もかなり増えてくるのではないでしょうか。あまり無理をなさらず、楽しんでアップしていただければと思います。

    文章なしで音源だけアップなんてとんでもない話です。私はもちろんアップしていただいた貴重な音源を楽しんで聴いていますが、それ以上にyungさんの解説、感想を読むことが好きなのです。
    ミュンシュの幻想交響曲のところで書かれたピリオド批評は、まさしく私が漠然と感じていたことを正確無比に言葉にしていただいたと感動したものです。
    カラヤン、ハイフェッツ、ホロヴィッツ、イ・ムジチについてのご評価も実に正鵠を射ていると感心することしきりなのです。

    とかく世の中はごく一部の極端な意見が目立ってしまいますが、それに惑わされないようお願い申し上げます。

  6. padawan
    2016年1月5日 at 5:14 PM

    マイナー曲 感謝!

    現在、私は基本、このサイトでしかクラシック音楽を聴きません。
    10代後半(現在50代前半)、マーラーから始まった私のクラシック音楽鑑賞歴ですが、いわゆるメジャー曲一辺倒の聴き方でした。と言うか、接する機会がなかったのです…。
    昨年11月にアップされたハイドンのクラヴィーア・ソナタの素晴らしさ!
    いまでは私の愛聴曲となりなりました。

    これからもマイナー曲のアップを心待ちにしております。

  7. 2016年1月9日 at 11:25 AM

     いつも楽しく拝聴させていただいております。

     オーディオ機器やらシステム構築などまったく埒外ですが、1960年代の音源は同じテーブルで心通じあえると感じております。ながく継続されるのもたいへんなエネルギーでしょう。

     心ない一部の方々の暴言に心痛みます。気にされぬよう。これからも継続よろしく。

  8. Benji
    2016年12月20日 at 3:55 PM

    多種にわたって、くわしいコメント頭がさがります。これからもよろしくお願いします。
    今年も残すところ僅かになりました。健康に更にご留意くださいませ。

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