国宝指定の意味するもの

現在国宝指定されている十一面観音は7体です。

  1. 渡岸寺(滋賀県)の木造十一面観音立像
  2. 観音寺(京都府)の木心乾漆十一面観音立像
  3. 六波羅蜜寺(京都府)の木造十一面観音立像
  4. 聖林寺(奈良県)の木心乾漆十一面観音立像
  5. 室生寺(奈良県)の木造十一面観音立像
  6. 法華寺法華寺の木造十一面観音立像の木造十一面観音立像
  7. 道明寺(大阪府)の木造十一面観音立像

もちろん国宝指定されているからすぐれている、重要文化財止まりだから一段価値が下がるなどというものではありません。
率直に言って、国宝指定されていても、それほど心が動かないものもありますし、逆に国宝指定されていなくても素晴らしいものは素晴らしいです。

国宝指定が意味するもの

国宝指定というのは、あくまでも学術的な価値が優先されます。

具体的に言えば、仏像における学術的価値はまずは「古い」と言うことです。
この「古い」というのは少なくとも鎌倉時代よりも古いと言うことが絶対条件のようで、さらに鎌倉期の仏像ならばそこに運慶や快慶に連なる名のある仏師の作品であることが証明される必要があるようです、

また、古い時代が証明できたとしても、肝心の仏像に後の時代の補修がたくさん入っていると、その古さの学術的価値が大幅に下がってしまいます。

飛鳥寺の釈迦如来座像

飛鳥寺の釈迦如来座像などは最古の仏像と言われているのですが、ごく僅かしか原形を留めていないので国宝指定はされていません。

秋篠寺の技芸天

「東洋のミロ」と讃えられる秋篠寺の技芸天も奈良時代末期の作と伝えられているのですが、首から下が鎌倉時代に寄木で補修されているのでこれもまた国宝指定はされていません。

それに対して、補修が仏像の光背等の付属品にとどまっていて、仏像本体に大きな補修がないときは国宝指定されているようです。
十一面観音で言えば、聖林寺や法華寺、室生寺の十一面観音の光背は後の時代に補修されたか、全く新しく作られたものですが、本体そのものには大きな補修は為されていません。

それは、仏像は「彫刻」というカテゴリで指定されているからでしょう。

そして、言うまでもないことですが、この「作られた時代」や「名のある仏師の作品」というのは「伝承」だけでは駄目であって、それを具体的に証明する「資料」が必要不可欠です。
問題は、この具体的に証明する「資料」です。

毎年新しく国宝指定を受けるものがあるのですが、それは「伝承」を裏付ける証拠となる「資料」が見つかったためです。
決して、「今までは重要文化財だったけれどよくよく見てみればなかなかに立派なので国宝に格上げしよう」などという「情緒」的な判断で決定されるわけではありません。

2017年に新しく国宝指定された金剛寺(大阪河内長野市)の「大日如来、不動明王、降三世明王」

ですから、大規模な修復事業等を行ったときに「伝承」を裏付ける「証拠」が見つかって国宝指定されることが多いようです。
最近では河内長野市の金剛寺の「大日如来、不動明王、降三世明王」の三体が国宝指定されたのですが、それも平成大修理の大規模調査の結果、胎内にあった墨書から「不動明王坐像」が仏師・快慶の高弟、行快の作であることと、天福2(1234)年に完成したことが判明したからです。

六波羅蜜寺の十一面観音

十一面観音の中では六波羅蜜寺の木造十一面観音立像だけが長く重要文化財でした。
ですから、古い書籍には国宝の十一面観音は六体と書かれています。
この十一面観音は空也上人が車に乗せ、みずから市内を引いてまわった「遊行仏」であったと伝えられているのですが、おそらくそれを証明する資料が発見されたのでしょう。

調べてみたのですが、その経緯が分かる資料は見つけられなかったのですが、この十一面観音だけが1999年という遅い時期に国宝指定されています。

ただし、この十一面観音が国宝指定されたことで、国宝指定の十一面観音をコンプリートするのが一気に難しくなりました。
何故ならば、この観音は十二年に一度しか公開されない秘仏となっているからです。
国宝だから価値があるわけじゃないとはいいながら、それでもこれくらいの数ならばコンプリートしたいと思うのが人の性です。(^^;

しかし、調べてみると、西国三十三所の中興の祖である花山法皇の遠忌や開祖空也上人の生誕1100年等を記念して公開していますので、西国三十三所の草創1300年にあたる2018年に公開されるのではないかという「噂」も流れています。
もしも、その時に公開がなければ12年周期をまつしかないので次回の公開は2024年という事になるそうです。

しかしながら、しつこく繰り返しますが、国宝指定されているから素晴らしい、重要文化財止まりだから一段価値が下がるなどというものではありません。
例えば最近も奈良西大寺の十一面観音と会ってきました。

西大寺の十一面観音

高さ五メートル近い、いわゆる「丈六像」の見事な十一面観音です。
そして、平安期の作と伝えられているのですが、顔の部分を残して残りは鎌倉期の補修なので重要文化財止まりです。

しかし、錫杖を持つ十一面観音は長谷寺とこの西大寺ぐらいなので、その圧倒的な迫力とともに深く心に残る観音像です。
さらに時代が下がって、江戸期の仏像になると重要文化財の措定も受けていないものが大部分なのですが、それでも見事なものは見事です。

そう言えば、随分昔の話なのですが、「俺はレコード芸術で特選のマークのついたレコードしか聞かない」という人がいました。私の友人が呉服屋をやっていて、そのお得意さんだった人です。
その人はレコード屋にとっても大変なお得意さんだったようで、毎月レコード芸術が発行されると、そこで特選マークのついているレコードを一式納品に上がっていたとのことです。

おそらく、国宝とか重要文化財というマークだけを気にして仏像を巡るのは、それと同じくらい愚かなことだろうと思います。

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