Ozawa逝く

いつかこの日は来ると誰しもが覚悟はしていたでしょうが、実際にその存在を失ってしまうと人ぞれぞれに様々な思いというか感情が交錯することでしょう。
私がクラシック音楽などというものを聴き始めた10代の後半のころはOzawaは疑いもなくヒーローでした。日本人がアメリカのメジャーオーケストラの音楽監督を務めていることに信じがたいほどの驚きを感じたものでした。また、そのころ彼が録音したものはどれをとってもみずみずしいまでの新鮮さにあふれていて、西洋の長い伝統に縛られない新しい感覚を与えてくれて、彼の新譜が出るたびにいそいそとレコード店に足を運んだものでした。

しかし、正直に言うと、80年代も終わり近くなると私の視野からOzawaの姿は遠くなり、彼がウィーンの歌劇場のシェフにおさまったり、ウィーンフィルのニューイヤーコンサートに登場するようになったころにはほとんど視界から消えてしまっていました。
口さがない連中は、彼がウィーンでのポストやキャリアを得られたのは某大企業のバックアップとバブル期で金遣いの良かった日本人のおかげだなどと言っていたものでした。おそらく、そういう声は否応なくOzawaの耳にも届いていたことでしょう。

私がOzawaの実演を聞いたのは一度だけです。今から30年ほど前のことです。
オケは大フィル、会場は和歌山の県立文化会館ということで、実に悪い条件での演奏でした。(^^;
しかし、演奏は素晴らしくて、大フィルがこんなにも素敵な響きを出すんだと感心したのをはっきり覚えています。とりわけ、武満の「弦楽のためのレクイエム」は今も耳の奥に残っています。

そして、もうひとつ印象に残っていることがあります。
それは予定よりも早く会場についたのでホールのカフェでコーヒーを飲んでいると、その横の席でOzawaと関係者がコーヒーを飲みながらくつろいでいることに気づいたことでした。さすがに声をかける勇気はありませんでしたが、「世界のオザワ」と呼ばれる割には非常に柔らかくてふんわりとした空気感をまとっていて、いわゆるマエストロと呼ばれる人から連想するような権高さや威圧感がみじんも感じられなかったことです。
Ozawaと関係者と思しき数名がテーブルを囲んで実に和やかにおしゃべりをしていました。

そして、本番前のこの余裕ってすごいな、などと感心したものでした。

声をかける勇気はなかったニャン


「蓋棺録」という言葉があります。おそらく、Ozawaもまたこの時を待ってすべてが定まり、彼に対する正当な評価が定まっていくことでしょう。

しかし、彼が持っていたオーケストラに対するコントロールする力は並外れたものがあったことは否定しようがありません。そして、世界という舞台に出て行った先駆者であったことを認めない人はいないでしょう。
例えとして適切なのかどうかはわかりませんが、Ozawaはスポーツの世界における野茂英雄のような存在だったのかもしれません。それは、ともに彼らの登場によって評価の基準が「日本」ではなくて「世界」に変えたことです。彼らは「日本一」をあまり大きな意味を持たないものにしてしまいました。
そして、スポーツの世界では大谷翔平を生み出すまでに至りました。
果たして、音楽の世界でも大谷翔平は登場するのでしょうか。

そう考えると、彼が晩年に後進の育成に全力を傾けたのは、音楽の世界でも大谷翔平クラスの才能が登場することを強く願っていたからなのかもしれません。

20 comments for “Ozawa逝く

  1. 2024年2月10日 at 4:56 PM

    管理人様の、小澤氏の持つオケラへのコントロール力、というところに反応させてください。

    遠い昔に短い期間ながらオケラの一員を務めさせていただき思うに、個々の奏者にあそこまでさせてしまうのかー、みたいなものが指揮者にはありますね。ひいき目でもやっかみでもなく、パート内でソロを担当した某御仁が、公演で一つも音を外さず吹き切ったのを見て、またフルート奏者の別の御仁が、まるで憑きものに憑かれたかのように主旋律を吹き切るのを見て、オケプラス指揮者な不思議な効果を感じざるを得ません。

    #思えばあの時分にわたしも後の恩師と出会ったのですが、これは本当に正直な話、奏者として超二流であれば指揮者としても超二流は成り立つように思うものの(師は今は指揮者に転身しているようです)、超一流の二刀流というはかなり難しいのかもしれないなーなどとも思います。自分自身をとことん統率するのと、他の人々をとことん統率するのは、やはり勝手が違うんじゃないかとも思うわけです。ブルックナーが自作の第7番を指揮してブーイング?という管理人様の解説を読んで、脳内で音を組み立てるあの超絶技巧は、個々の奏者にその音を鳴らせる技巧とはさらに離れているのではなどとも思ったりします。もっとも先にご紹介した公演でタクトを振ったのは、ほかならぬ作曲家ご自身であったりするので、何事も一概には言えないわけなのですが…

    それであのその、自分なりの結論なんですが、これはやっぱり違うような気がするのです…

    コンクールで優勝(つまりソロ)はすごいことだし、オケラで皆と合体(合奏)し指揮者の思い通りに「芸」術を披露するのも素人芸の域では全然ないし、そのための曲を提供する作曲家も脳内芸術が実体化するのを見て満足、聴衆も満足で拍手鳴りやまず、というのは悪いことではないのですが、何かが欠けているようにも思うわけです。

    #こんなことをつらつら書かせていただきながら、バルトークの弦楽四重奏曲第1番を聴き終えました。すごいなーと思いつつ、これを普通人の妻子には聴かせられないなー、とも思ったりします… つまり聴衆を選んでしまっている。とはいえ大衆迎合の音楽の多くは、作曲家もオケも指揮者ももはやどうでもよいのはなかろうか。その一方で、コンクールで優勝した逸材ばかりからなるオケが世界一のオケというのも違うだろうし、そもそも指揮者だけの違いで演奏が全然違うというのは、とどのつまりオケの面々の認識が十分ではないのではなかろうか、それをオケの面々に求めるのもなー、とつらつら考えて、はたと気が付くのです。なんかこう、求心力というか、皆が一丸となって向かうところが必要なのではなかろうか。

    小澤氏の三角帽子ですか、中二病ながらしっかり覚えています。あれにはそんな求心力があるような気がします。先にご紹介した公演の曲目も日本の音楽(と音階)に題材を求めたもので、求心力は十二分でした(聴衆のウケもよかったように思います)。クラシック聴き巡りでついに噂のヴェルディにたどり着き、アイーダの第2幕第2場で「エジプトとイシスの神に栄光あれ」のさわりを聴いて、ああこれ、エジプト博物館の紹介ビデオとおんなじだーと納得しました。観たことのある皆さんはご存じでしょうが、すごいですよ。エジプトの神々を見なさい!みたいな。でも求心力はありますかね、確かに。

    #でもわたしはやっぱり、クラシック音楽はバルトークで終わり、でいいように思っています。仮に「大谷翔平」が登場しなくとも、小澤氏から良い意味での求心力の必要性を教えていただいたように思います。感謝。

  2. たつほこ
    2024年2月10日 at 6:27 PM

    Wikipediaで知ったのですが、江戸さんも2週間前に亡くなられたそうです。私にとっても小澤はスーパースターでした。ご冥福をお祈りします。

    • yung
      2024年2月12日 at 10:26 AM

      江戸京子さんに関しては全くうっかりしていました。どうして、ここで彼女が話題に上がるのかクエスチョンマークだったのですが(^^;、思い出してみればOzawaの最初のパートナーは彼女だったんですよね。
      ただし、この二人が結婚生活などという枠に収まるはずもなくすぐに別れたのですが、この世を去る時は相前後してだったんですね。まさに不思議な因縁を感じます。

      おそらく指揮者の妻を長く続けるためには、「あなたが指揮棒を振っている間に私は人生を棒に振ったのよ」となっても耐えられる人だけなんでしょうね。
      あの石田ゆり子のセリフは秀逸でした。

  3. concerter grosser
    2024年2月20日 at 9:01 PM

    私の世代では一発屋のイメージがあります。本当に偉大な指揮者であることには違いありませんが。これはヨハンシュトラウスとウイーンフィルとNHKの功罪であるといえるでしょう。

  4. クライバーファン
    2024年2月23日 at 11:05 PM

    小澤さんというと、ボストン時代は聴いたことがなくて、ウィーン国立歌劇場監督になったころに、上野でエレクトラ、神奈川でウィーン国立歌劇場のフィデリオ、N響と運命、ガーシュウィン、最後に、2019年か2020年か忘れましたが、アルゲリッチと共演したベートーヴェンのピアノ協奏曲第2番を実演で聞きました。全部で4回しか実演に接することができなかったは残念です。もっと聞いておくべきでした。
    といっても、彼のボストン時代はまだ、わたしは中高生でお金があまりなかったから仕方がないといえばないのですが。。。ボストン響との演奏も聞きたかったですね。

  5. ren
    2024年2月25日 at 10:39 AM

    スレッドをお借りします。

    本日FLACデータベース(2)にアップして下さった「リヒャルト.シュトラウス:メタモルフォーゼン(Richard Strauss:Metamorphosen, Studie fur 23 Solostreicher)」ですが,【 2023-09-29追加】に同じ指揮者とオケの組み合わせでアップして下さった同曲も1954年録音です。

    また,FLAC データベース(1)に[2024-02-23]にアップして下さった「ベートーヴェン:「レオノーレ」序曲第3番, Op.72a(Beethoven:Leonora Overture No.3 in C major, Op.72a)」の作品番号は「Op. 72b」のはずです。

    ご確認頂ければ幸いです。

    • yung
      2024年2月25日 at 2:22 PM

      調べてみると、2023-09-29に追加した音源が間違っていたようです。ですから、2023-09-29に追加した音源を1964年に録音したものに訂正しておきました。
      どうも最近はこういうミスが多くて申し訳ないです。

      • ren
        2024年2月25日 at 5:49 PM

        ファイルの差し替えと作品番号の訂正,ありがとうございました。

        Metamorphosenの1964年の音源ですが,モノラル録音のようですね。

        あと,「フランス国立放送管弦楽団」のフランス語での名称ですが,ウィキペディアの「フランス国立管弦楽団」の記述が正しければ,
        1934年の設立当初からは「フランス国立放送管弦楽団(Orchestre national de la radiodiffusion Française)」,1964年以降は「Orchestre national de l’ORTF」( ORTF=フランス放送協会),そして1975年からは「フランス国立管弦楽団(Orchestre national de France)」になったとのことです。

  6. ren
    2024年3月10日 at 9:55 AM

    スレッドをお借りします。

    昨日,FLAC データベース(2)にカサドが編曲した「シューベルト:アルペジョーネ・ソナタ イ短調 D.821」をアップして下さり,ありがとうございました。
    確かに「チェロ協奏曲」ですね。そして,チェロがよく鳴っています。
    でも,抒情性と言う点で,私はジャンドロン(1966年)の演奏が好きです。

    ついでに。
    3日にFLAC データベース(1)にアップして下さったフランチェスカッティが弾いた「メンコン」ですが,「美音」と言う点で,オークレールの演奏(1963年)が好きです。特に,フラジオの音は,他の演奏家にはない美しさです。

  7. ジェネシス
    2024年3月27日 at 3:55 AM

    Ozawa氏と言えば、カナダ(トロント)からサンフランシスコに移った頃だったかな?(余りにも昔の事で)、アメリカのオーケストラの事を訊かれてこんな説明をしていたのを思い出します。「ハリー.ジェームズ楽団の前にストリングスを配した様な…」。
    アメリカのオーケストラの上手さを語るにこれ程分かり易い言葉は無いでしょう。例えばコロンビア響(グレンデール響)、ハリウッド.ボウル響(ロサンゼルス.フィル)辺りかなと思います。実名がバレるとビッグ.ファイブから外れているから日本の評論家の評価が落ちる。でも近年、来日したシンシナティやデトロイトの上手さといい古くはストコフスキーの録音も(ヒューストン響かな?)。その行き着く先の頂点にフィラデルフィア管弦楽団が存在していたと思います。
    何故かOzawa追悼がオーマンディ讃になってしまいましたが雑文と御勘弁下さい。

  8. ren
    2024年3月27日 at 4:51 PM

    スレッドをお借りします。

    昨日FLACデータベース(2)にアップして下さった「スワロフスキー」の演奏曲目についてお知らせします。

    FLAC データベース(2)「スワロフスキー」の項の最初にある「【 2020-03-15追加】シューベルト:交響曲第7(8)番ロ短調 D.759「未完成」ハンス・スワロフスキー指揮 ウィーン国立歌劇場管弦楽団 1957年録音」はリンクが切れています。

    ご確認頂ければ幸いです。

    • yung
      2024年3月27日 at 7:30 PM

      ご指摘ありがとうございます。さっそくに訂正しましたのでご確認ください。

      • ren
        2024年3月27日 at 8:55 PM

        修正を確認しました。

        素早くご対応いただきありがとうございました。

        確かに手堅い(地味な?)指揮ぶりですね。
        こういうオケの音って,好きです。

  9. ren
    2024年3月27日 at 9:27 PM

    ついでに。

    「スワロフスキー」に関して,

    FLAC データベース(2)「スワロフスキー」にある
    【 2020-11-30追加】・・・マーラー:交響曲第3番ニ短調
    は,
    FLAC データベース(1)「スワロフスキー」にある
    【 2020-11-17追加】・・・マーラー:交響曲第3番ニ短調
    と重複しています。

    また,

    FLAC データベース(2)「スワロフスキー」にある
    【 2022-11-23追加】・・・ワーグナー:「トリスタンとイゾルデ」前奏曲
    は,画面上ですぐ下にある
    【 2024-03-26追加】・・・ワーグナー:「トリスタンとイゾルデ」前奏曲(Wagner:Tristan und Isolde Prelude)
    と重複しています。

  10. ren
    2024年4月1日 at 12:04 PM

    スレッドをお借りします。

    本日FLACデータベース(1)にアップして下さった「ベートーヴェン:「エグモント」序曲, Op.84(Beethovev:EgmontOverture, Op.84)」ですが,Fのユニゾンの響きは「フィラデルフィア管」の音です。

    ご確認頂ければ幸いです。

    • ren
      2024年4月1日 at 5:58 PM

      修正ありがとうございました。

      「フィラデルフィア管」と「ラムルー管」の違いがユニゾン一つでもよくわかりますね。

  11. 時音 芭瑠美浪理
    2024年4月16日 at 9:49 PM

    スレッドをお借りします
    アンセルメ指揮パリ音楽院管弦楽団による1954年の歴史的ステレオ録音のリムスキー・コルサコフシェエラザードを聴きたく拝見したところ、2005年にmp3で追加されてますが、できればFLACでも聴きたく、いつの日かアップいただけることを期待しております。

    残念なことにアンセルメのは、これとスイス・ロマンド管弦楽団のいづれの盤も現在CD販売されてません。

    • yung
      2024年4月17日 at 3:04 PM

      一度紛れ込んでしまうと発掘が大変なんですね。(^^;
      今日もちょっと探してみたのですが見当たりそうもありません。最近は総量規制を行っているので(増えた分は減らす…ということです)もしかしたら、誰かに譲ってしまっているかもしれません。
      もしも運よく発掘できればアップしたいと思います。

  12. ren
    2024年4月22日 at 1:26 PM

    スレッドをお借りします。

    本日FLACデータベース(2)にアップして下さった「ラヴェル:「ダフニスとクロエ」第1組曲(Ravel:Daphnis et Chloe Suite No.1)」ですが,3曲目以降は第2組曲ですので,表題は「第1,第2組曲」などに変更したほうがいいのではないかと思います。

    ついでに。
    FLAC データベース(2)に[2024-04-04]にアップして下さった「ドヴォルザーク:序曲「謝肉祭」(Dvorak:Carnival Overture, Op.9)」の作品番号は「Op. 92」です。

    FLAC データベース(1)に[2024-04-09]にアップして下さった「モーツァルト:モテット「エクスルターテ・ユビラーテ」 K.165/158a(Mozart:Exsultate jubilate in F major, K.165/158a)」は,
    【 2018-10-17追加】・・・モーツァルト:モテット「エクスルターテ・ユビラーテ」 K.165 (158a)
    と(演奏の順番は異なっていますが,)重複しています。

    ご確認頂ければ幸いです。

    • yung
      2024年4月23日 at 7:24 PM

      フリッチャイのモーツァルトの「エクスルターテ・ユビラーテ」 はステレオ録音とモノラル録音があるのですが、どうやらそれがごっちゃになっていたようです。
      FLAC データベース(2)のほうにモノラル録音を追加しておきました。ご指摘ありがとうございます。

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