PCでオーディオをやる意義(4)

PCオーディオに取り組む第2の理由は「趣味性」が復活したことです。しかし、この「趣味性」の復活はPCオーディオに伴う「技術的困難さ」と裏表の関係にあります。
この「趣味性」に関してはかつてこのように書いたことがあります。
『アナログの時代は「音作り」という点でエンドユーザーが関われる余地が随分とありました。カートリッジを交換することは言うまでもないことですが、そのカートリッジとシェルをつなぐリード線一つで音は大きく変化しました。さらにはカートリッジの取り付け方やプレーヤーの細かい調整でも音は大きく変化したものです。
デジタルの時代になって何が一番つまらなくなったといって、この「音作り」の楽しさが全く失われてしまったことです。CDプレーヤーというのはエンドユーザにとっては全くのブラックボックスです。入力に対する出力結果は(再生ボタンを押せば音楽が流れる)分かりますが、その両者を結びつける関数の部分は全く分かりません。』
そして、
『PCオーディオの世界では状況は一変します。CDプレーヤにセットされた音楽ソフトには手も足も出ませんが、パソコンにリッピングされたファイルならばいかようにでも料理ができます。何しろ、パソコンというのはデジタルデータを扱うための機器なのですから、音楽ファイルであっても自由自在に操作することができます。』
と述べていますね(^^;
最初は「音作り」と言うことに興味があったんですね。
その次に興味をひいたのが「アップサンプリング」でした。「16bit/44.1Khz」という器を変更することで音質改善はかれるのではないかといろいろチャレンジしたものです。
有り難かったのは、こういうチャレンジのほとんどがフリーのソフトを使って行うことができたと言うことです。
さらに、リッピングの仕方や再生ソフトの違いによる音質の優劣、PCのチューニングによる追い込みなど、「再生」という行為においてエンドユーザーが関われる部分が増えたことはこの上もない「ヨロコビ」でした。
現時点における私の関心は、「16bit/44.1Khz」というCDの規格をしゃぶり尽くす事でどこまでの音が引き出せるのかに集中しています。しかし、大切なことは、どこに興味や関心が向こうが「再生」という行為に対してエンドユーザーが積極的に関われるようになったことがPCオーディオの持つ最大の「ヨロコビ」だと言うことです。


ただし、この「ヨロコビ」には、かなりの「困難」が伴います。
そして、この「困難」さは、PCオーディオの道を突き進めば進むほど増大していくように見えます。途中から参入した人は、その増大した「困難」さといきなり直面しますから、とてもではないが「ヨロコビ」とは感じられない人がいたとしても不思議ではありません。
私にしても、最近の「Voyage MPD」を巡る話題にいきなり出くわしたならば、かなりの困惑を覚えたでしょう。個人的にはこのようなサイトを自前のサーバーで運用していますから、一般的なユーザーと比べれば「Linux」の世界にはなじんでいます。それでも、「Voyage MPD」を巡る最近の話題についていくのはかなりの苦労を強いられます。ですから、コマンドベースでPCを動かした経験のないWindowsユーザーにとっては、それらの「技術的話題(趣味性)」はひたすら難解でやっかいなものとしか感じられないでしょう。
つまり、PCオーディオに取り組む最大のメリットとも言うべき「趣味性」の復活は、同時に多くの人をPCオーディオから遠ざけるというジレンマを内包しているのです。
特に、話題が「Linux」の世界に踏み込み始めると、その技術的な話題が多くの人にとって「違和感」を抱かせることは否定できません。
しかし、その「違和感」はグラフィカルに操作できるWindowsの世界になじんできたがゆえの「馴れ」からくる「違和感」であって、一歩踏み込んでしまえばそれほど難解な世界でないことはすぐに気づくはずです。
それどころか、「Windows」は外面的にはいつもにこやかなのですが、深くつきあうと内面的には我が儘で強情で、頑固です。それと比べれば、「Linux」は表面的には無愛想で取っつきにくくても、深いつきあいになると意外なほどにしとやかで、こちらの意を汲んでくれるOSなのです。
しかし、そうは言っても、「Linux」が取っつきにくい世界であることは事実です。そして、その取っつきにくさの原因は「コマンドベースで操作する」というスタイルの問題だけでなく、「Linux」関連のコミュニティが持っている「体質」にも原因があるように思えてなりません。
有り体に言ってしまえば、「Linux」の世界は「開発者」にはフレンドリーなのですが、「ユーザー」に対しては必ずしもフレンドリーではありません。もっと端的に表現すれば「分かるやつだけ分かればいい」という「驕り」が根底に根を張っています。(あえて「驕り」と表現します)
それは、「Linux」関連の技術系メーリングリストなどを覗いてみればすぐに了解できるはずです。「初心者です」などと言って既出の問題をたずねようものなら実に冷ややかな反応が返ってきます。まあ、その手のメーリングリストは既出の問題を何度も論議するほど暇でないことは分かりますが、もう少し「優しさ」があってもいいのではないかと思ってしまいます。
もちろん、この体質は最初の頃と比べれば大幅に改善されてはいますが、それでもWindowsなどと比べればユーザーに対するフレンドリーさはかなり見劣りがします。
振り返ってみると、PCオーディオの世界でも、「Windowsベース」で動かしているときはどのサイトを見てもかなり親切に記述されていることが多かったような気がします。レジストリの変更や細々としたチューニングなどと言うかなり高な度内容でも、本当に分かりやすくかみ砕いて詳しく解説しているサイトがたくさんありました。
ところが、「Linuxベース」になると、とたんにコマンドだけが並んでいるだけで、「以上、終わり!!」みたいな感じのサイトが少なくありません。その「簡潔」きわまる記述を見るたびに、その背景から「分かるやつだけ分かればいい」という顔が垣間見られるような気がしてなりません。
みみず工房さんのサイトなどは「僕の記述は、プログラミングした技術者が書いたマニュアルのようなもので」と謙遜されていますが、あそこまで懇切丁寧に書いてくれているサイトは他には見あたりません。ですから、情報を発信する側に、Windowsベースの時と同じくらいの親切さがあれば、WindowsユーザーがLinuxの世界に踏み込んできたときに感じる「違和感」は随分と緩和されるのではないかと思います。
とは言え、このジレンマを根本的に解消してくれる原動力は「PCオーディオに対するファーストインプレッション」だけです。
最初の出会いに、驚きと感動があれば、このジレンマは必ず解消されるはずですし、逆にそれなくしてこの「ジレンマ」は解決されることはないでしょう。
ですから、そのような文脈上において、PCでオーディオに取り組む二番目の意義として「趣味性の復活」と言うことを挙げておきたいと思います。
最後に、もう一つ、あえてPCオーディオに取り組む理由を述べれば、それは既存のオーディオの世界に対する物足りなさを挙げてもいいかもしれません。
特に、アナログからデジタルに変わった80年代以降、オーディオの世界は「音作り」の楽しさを失い、結果として「組み合わせ」と「買い換え」だけの世界になってしまいました。
どぶに捨てるほどにお金が余っているのなら、次々と機器を買い換えて組み合わせを楽しむこともできるのでしょうが、それは私にとっては縁のない世界でした。そして、それは多くの人々にとってもそうだったようで、結果としてオーディオは「ハイエンド」という隘路に嵌りこんで身動きがとれなくなっていきました。そして、その反対側で「チープ化」が進行したことも指摘しておいた方がいいかもしれません。
そして、そのような流れと歩調を合わせて引き起こされたのが、ケーブルに代表される周辺アクセサリーの洪水でした。これが、ハイエンドの隘路と絡み合って魑魅魍魎の世界になったことも今さら指摘するまでもないことです。
そして、オーディオと言う世界がそう言う隘路に嵌りこんで輝きを失っていく中で登場したのが「PCオーディオ」だったのです。
ですから、現在のPCオーディオの流れを作り出してきたムーブメントの背景には、そのような既存のオーディオに対する「物足りなさ」と「不信」があったことは言い添えておいてもいいのではないかと思います。
と言うことで、4回にもわたって愚にもつかないことタラタラと書いてきましたが、煎じ詰めれば、PCでオーディオに取り組む意義はどこにあるのかと言えば、そのようなアプリオリに存在するような「意義」などは何もないと言うことになります。
重要なことは、PCとオーディオが出会う中で描き出す世界に驚きと感動を覚えたならばそれは取り組むに値するものであり、そうでなければ、さっさと背を向けて従来のオーディオの世界に戻ればいいのだと言うことです。
とは言え、世の流れは音を立ててPCオーディオ(ネットワークオーディオ)の方へと動き出しています。
世間がどんどんPCオーディオ、もしくはネットワークオーディオに流れていく中で、少数派として従来のオーディオのスタンスを崩さずに頑張り続けるなら、それはそれで格好いいのではないでしょうか。
私はそう思います。
どちらの道を進むにしろ、大切なことは己の「ココロ」に正直になることです。

1 comment for “PCでオーディオをやる意義(4)

  1. yo
    2011年5月15日 at 10:12 PM

    ユングさん、こんにちは。
    レポート、興味深く拝読しました。
    『「Linux」関連のコミュニティが持っている「体質」』については同感です。
    Ubuntuなど最新のLinuxディストリビューションはあれだけ良い出来なのに、普及が進まないのはこれが理由だと思います。何とかならないものですかね。
    まあオーディオの世界でもっとLinuxユーザが増えてくえればいいなの思いますので、できることはしたいと思います。よろしくお願いします。
    yo

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