フリッチャイのボックス盤がリリースされたときに、「何らかの区切りでこうしてまとまった録音がリリースされる演奏家は幸せです。」と書き、その反対の存在としてベームにふれたのですがおしかりのコメントをいただきました。
「ユングさんが、晩年のベームを理解しないことについて、人それぞれですから、私がこのサイトでベームについて書きまくっても、あまり良いことではないと思っています。結論から言いますと、ベームは最高の指揮者です。」
言い訳をさせていただくならば(^^;、「いつもマイナスの例としてあげるので心苦しいのですが、たとえば生前はオーストリアの音楽総監督とまで呼ばれたベームなんかは、どんな区切りがきてもいつもスルーでした。」という一文は、価値判断を一切交えない客観的な状況報告にしか過ぎません。ただし、「ベームも没後50年にはまとまったボックス盤がリリースされるかもしれません。もしも、そのときになってもスルーだったら、今度は「ベームは三度死んだ!」と言われるかもしれません。」という文章には私の価値判断が含まれています。
その価値判断の根拠はテバルディのボックス盤紹介のところで書かせてもらっています。
さらに、かつては全く評価していなかったカラヤンについて再評価し直すきっかけについても、同様の視点で私見を述べさせてもらっています。
『芸術という分野においては「時間」こそが最も公正で厳格な審判です。評価に値しないものは時間の経過とともに消え去っていきます。
逆に価値あるものとは何かと言えば、時間の流れの中でも古びることもなく残されたもののことです。
この事実を素直に受け入れるならば、時間が残したものについては謙虚に評価して向き合うべきです』
もちろん、私も生身の人間ですから好き嫌いはあります。当然のことながら、拙い知識と経験に基づいて自分なりの取捨選択、つまりは価値判断はしています。
しかし、そう言う拙い価値判断と時間という審判者が下す価値判断が食い違えば謙虚にならなければいけないと思います。
ベームについての客観的事実を述べれば没後30年はスルーされました。
そして、随分先の話ですが没後50年でもスルーされれば、吉田秀和氏の言葉をもじって「ベームは三度死んだ!と言われるかもしれません」と述べたのです。
率直に言えば、若い頃のベームは非常に手堅く、これぞスタンダード!!といえるような演奏をした人だと思います。
そして、その堅実さと木訥さ故に、華やかさと大衆受けだけをねらっているように見えたカラヤンへの対抗馬として担ぎ出された事にベームの不幸がありました。
カラヤンは化け物でした。
そんな化け物に対抗するために、おそらくはあまり好きではなかったであろう録音セッションを強いられて次々と新録音をリリースさせられました。
ベームは疑いもなく、ライブの人でした。言葉をかえれば、19世紀以降、連綿と受け継がれてきた劇場文化の申し子だったのです。
たとえば、1975年のVPOとの来日公演がNHKによって録音されています。ブラームスの1番、シューベルトのザ・グレートに未完成などが収録されていますが、文句なく素晴らしい演奏です。しかし、録音セッションを組んで次々と新しい録音をリリースするという「カラヤン流」のやり方では、その素晴らしさはスポイルされてしまうことが多かったようです。
しかし、カラヤンへの対抗意識をあおって売り上げを伸ばすことしか眼中になかった大手レーベルは、そう言う玉石混淆の最晩年の録音をお抱えの評論家も総動員して随分と持ち上げたものです。ここにこそ、ベームの不幸がありました。
もちろん、それに乗ってしまったベームにも責任の一端はあります。
とはいえ、まだまだ勝負は先です。(^^v
セルだって、長い間ぼろくそ言われて、1300円という最廉価盤で叩き売られていたのです。それを多くの人がネットでセルの魅力を発信し続けることで再評価が進んだのです。没後30年が近づいても何の動きも示さないソニー・クラシカルに対して圧力をかけたのもネットでした。つまりは、愛する人がどれほど存在して、彼らがどれほどアクティブに動いて多くの人に共感を得ることが出来るか、に尽きます。
幸いにして、50~60年代の代表的な録音がまとまった形でリリースされました。SP盤時代の録音が「10CDセット」という形でリリースされたことはありましたが、隣接権の切れたばかりの録音がこういう形でリリースされるのははじめてではないでしょうか。
ただし、リリースしたのがヒストリカル系の新レーベル「VENIAS(ヴェニアス)」というのがいかにも残念です。
DECCA、PHILIPS、DGは未だに腰を上げる気はないようです。
【収録情報】
Disc1
・ ウェーバー:序曲集
『ペーター・シュモルとその隣人たち』序曲 J.8
『プレチオーザ』序曲 op.78, J.279
『オイリアンテ』序曲 J.291
『オベロン』序曲 J.306
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1951年5月
録音場所:ウィーン、ムジークフェラインザール
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:DECCA
・ ベートーヴェン:交響曲第8番ヘ長調 op.93
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1953年3月
録音場所:ウィーン、ムジークフェラインザール
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:DECCA
Disc2
・ ブラームス:交響曲第3番ヘ長調 op.90
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1953年6月
録音場所:ウィーン、ムジークフェラインザール
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:DECCA
・ ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調 op.67『運命』
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1953年3月23-25日
録音場所:ベルリン、イエス・キリスト教会
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:DG
Disc3
・ モーツァルト:交響曲第34番ハ長調 K.338(メヌエット K.409付)
・ モーツァルト:交響曲第38番ニ長調 K.504『プラハ』
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1954年11月
録音場所:ウィーン、ムジークフェラインザール
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:DECCA
Disc4
・ シューベルト:交響曲第5番変ロ長調 D.485
・ シューベルト:交響曲第8番ロ短調 D.759『未完成』
ウィーン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1954年
録音場所:ウィーン、ムジークフェラインザール
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:DECCA
・ モーツァルト:交響曲第26番変ホ長調 K.184
・ モーツァルト:交響曲第32番ト長調 K.318
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音時期:1955年9月19-22日
録音場所:アムステルダム
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:PHILIPS
Disc5
・ モーツァルト:交響曲第39番変ホ長調 K.543
・ モーツァルト:交響曲第40番ト短調 K.550
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音時期:1955年9月19-22日(第39番)、22-27日(第40番)
録音場所:アムステルダム
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:PHILIPS
・ モーツァルト:セレナード第13番ト長調 K.525 『アイネ・クライネ・ナハトムジーク』
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1956年12月22日
録音場所:ベルリン、イエス・キリスト教会
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:DG
Disc6
・ モーツァルト:交響曲第41番ハ長調 K.551『ジュピター』
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音時期:1957年9月22-27日
録音場所:アムステルダム
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:PHILIPS
・ モーツァルト:セレナード第6番ニ長調 K.239『セレナータ・ノットゥルナ』
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1957年9月12,13日
録音場所:ベルリン、イエス・キリスト教会
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:DG
・ レーガー:モーツァルトの主題による変奏曲とフーガ op.132
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1956年12月
録音場所:ベルリン、イエス・キリスト教会
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:DG
Disc7
・ リヒャルト・シュトラウス:交響詩『死と変容』 op.24
アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
録音時期:1955年9月27日
録音場所:アムステルダム
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:PHILIPS
・ リヒャルト・シュトラウス:交響詩『英雄の生涯』 op.40
シュターツカペレ・ドレスデン
録音時期:1957年2月7-9日
録音場所:ドレスデン、十字架教会
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:DG
Disc8
・ ベートーヴェン:交響曲第9番ニ短調 op.125『合唱』
テレサ・シュティッヒ=ランダル(ソプラノ)
ヒルデ・レッセル=マイダン(アルト)
アントン・デルモータ(テノール)
パウル・シェフラー(バス)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン交響楽団
録音時期:1957年6月
録音場所:ウィーン
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:PHILIPS
Disc9
・ ベートーヴェン:合唱幻想曲 op.80
ハンス・リヒター=ハーザー(ピアノ)
テレサ・シュティッヒ=ランダル、ユーディト・ヘルヴィヒ(ソプラノ)
ヒルデ・レッセル=マイダン(アルト)
アントン・デルモータ、エーリヒ・マイクート(テノール)
パウル・シェフラー(バス)
ウィーン国立歌劇場合唱団
ウィーン交響楽団
録音時期:1957年6月
録音場所:ウィーン
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:PHILIPS
・ リヒャルト・シュトラウス:アルプス交響曲 op.64
シュターツカペレ・ドレスデン
録音時期:1957年9月14-18日
録音場所:ドレスデン、十字架教会
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:DG
Disc10
・ リヒャルト・シュトラウス:交響詩『ドン・ファン』 op.20
・ リヒャルト・シュトラウス:交響詩『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯』 op.28
シュターツカペレ・ドレスデン
録音時期:1957年9月18-25日(op.20)、26,27日(op.28)
録音場所:ドレスデン、十字架教会
録音方式:モノラル(セッション)
原盤:DG
・ リヒャルト・シュトラウス:交響詩『ツァラトゥストラはかく語りき』op.30
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1958年4月15-17日
録音場所:ベルリン、イエス・キリスト教会
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)
原盤:DG
Disc11
・ ベートーヴェン:交響曲第7番イ長調 op.92
・ ベートーヴェン:序曲『コリオラン』 op.62
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1958年4月17日(op.92)、12月(op.62)
録音場所:ベルリン、イエス・キリスト教会
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)
原盤:DG
Disc12
・ ブラームス:交響曲第1番ハ短調 op.68
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1959年10月
録音場所:ベルリン、イエス・キリスト教会
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)
原盤:DG
Disc13
・ ベートーヴェン:交響曲第3番変ホ長調 op.55『英雄』
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1961年12月18,19日
録音場所:ベルリン、イエス・キリスト教会
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)
原盤:DG
Disc14
・ シューベルト:交響曲第9番ハ長調 D.944『グレート』
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1963年6月
録音場所:ベルリン、イエス・キリスト教会
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)
原盤:DG
Disc15
・ リヒャルト・シュトラウス:交響詩『ドン・ファン』 op.20
・ リヒャルト・シュトラウス:交響詩『ティル・オイレンシュピーゲルの愉快な悪戯』 op.28
・ リヒャルト・シュトラウス:祝典前奏曲 op.61
・ リヒャルト・シュトラウス:『サロメ』より『7つのヴェールの踊り』
・ リヒャルト・シュトラウス:『ばらの騎士』より第3幕のワルツ
ヴォルフガング・マイヤー(オルガン:op.61)
ベルリン・フィルハーモニー管弦楽団
録音時期:1963年4月
録音場所:ベルリン、イエス・キリスト教会
録音方式:ステレオ(アナログ/セッション)
原盤:DG
カール・ベーム(指揮)