ロリン・マゼール/DG初期録音集 1957~65(18CD)
マゼールが亡くなって、それがきっかけとなって若い頃の録音がまとまってリリースされるようになったのは、マゼール自身にとっても、聞き手ある私たちにとってもとても幸運なことでした。
何故ならば、ここには頂点を目指して駆け上がっていく溢れる才能がほとばしっているからです。
この少し後になるとアバドやムーティ、そしてメータや小沢などと言う若手が同じような勢いに溢れる演奏を聴かせてくれるようになります。
確かに、若い頃の小沢は今からは想像もできないほどに素晴らしい音楽を聴かせてくれたものです。
ただし、彼らには残念な共通もがあります。
それぞれが世界的にトップクラスのオケのシェフと言う地位を手に入れて、そこで安定して音楽活動を始められるようになると、平均点はそこそこなのに、彼らが何をしたいのかが聞き手に伝わってこないような音楽ばかりを生み出すようになったことです。
いや、こんな言い方をすると反論もあるでしょう。しかし、私には、そう言う不満がいつもついて回り、結果として90年代以降になると彼らの新しい録音は殆ど聴かないようになってしまいました。
それはマゼールにおいても同様です。
当時は別に何故なんだろう?などとは考えませんでした。
私も若かったですから、ただ「面白くないものに金は使いたくはない」という一点だけでした。
しかし、年を重ねてきて、気がつくこともあります。
頂点目指して駆け上がっていくのは体力も必要ですし気力も求められますから、しんどいことはしんどいです。
しかし、目指すべき頂点ははっきり見えているわけですから、その見えている一点を目指して駆け上がっていくのはそれほど困難なことではありません。
問題は、頂点に近づいてきて、今度は何処を目指して進んでいくかを自分で見いださなければならなくなったときです。そして、彼らの多くはその頂上付近でぐるぐる回るばかりでした。
その違いは、たとえばテンシュテットやクライバーと比較してみれば明らかです。
しかし、山は登れば下りなければいけません。
やがて、彼らもまた下山の時を迎え、その衰えを自覚して下りの芸術に取り組むことを余儀なくされるときがきています。
しかし、どうしても下れない人もいます。
世間はそれを「老醜」と言います。
指揮者にはこの「老醜」をさらす人が多いのですが、稀に、見事に下って見せる人がいます。
そして、驚くべきは、同世代の指揮者の中では一番ギラギラしていると思われていたマゼールが見事に山を下ってみせたことです。結果として、大きな環を閉じることで、この若い時代の勢いに満ちた演奏にも大きな価値が生まれたのです。
【収録情報】
Disc1-2
- ベルリオーズ:劇的交響曲「ロメオとジュリエット」Op.17(抜粋)
- チャイコフスキー:幻想序曲「ロメオとジュリエット」
- プロコフィエフ:バレエ組曲「ロメオとジュリエット」より5曲
Disc3
- ストラヴィンスキー:「火の鳥」組曲(1919年版)
- ストラヴィンスキー:交響詩「うぐいすの歌」
Disc4
- ベートーヴェン:交響曲第5番ハ短調 Op.67「運命」
- ベートーヴェン:「献堂式」序曲 Op.124
Disc5
- ブラームス:交響曲第3番ヘ長調 Op.90
- ブラームス:悲劇的序曲 Op.81
Disc6
レスピーギ:交響詩「ローマの松」
ムソルグスキー:交響詩「禿山の一夜」
リムスキー=コルサコフ:スペイン奇想曲 Op.34
Disc7
- シューベルト:交響曲第4番ハ短調 D.417「悲劇的」
- シューベルト:交響曲第8番ロ短調 D.759「未完成」
Disc8
- モーツァルト:交響曲第1番変ホ長調 K.16
- モーツァルト:交響曲第28番ハ長調 K.200
- モーツァルト:交響曲第41番ハ長調 K.551「ジュピター」
Disc9
- ベートーヴェン:交響曲第6番ヘ長調 Op.68「田園」
- ベートーヴェン:12のコントルダンス WoO.14
Disc10
- ラヴェル:歌劇「子供と魔法」全曲
Disc11
- メンデルスゾーン:交響曲第4番イ長調 Op.90「イタリア」
- メンデルスゾーン:交響曲第5番ニ短調 Op.107「宗教改革」
Disc12
- シューベルト:交響曲第5番変ロ長調 D.485
- シューベルト:交響曲第6番ハ長調 D.589
Disc13
- フランク:交響曲ニ短調
Disc14
- ブリテン:青少年のための管弦楽入門
- プロコフィエフ:ピーターと狼
Disc15
- チャイコフスキー:交響曲第4番ヘ短調 Op.36
Disc16
- シューベルト:交響曲第2番変ロ長調 D.125
- シューベルト:交響曲第3番ニ長調 D.200
Disc17
- ラヴェル:歌劇「スペインの時」全曲
Disc18
- ファリャ:組曲「恋は魔術師」
- ファリャ:「三角帽子」より
確かにそうですね。若い頃のこのマゼールの録音、特に面白いです。でもヴァイオリンを弾いたり、作曲をしたり。才能が有り過ぎて、結局は演奏の方向性が迷走して葛藤していたのかも知れません。それとこの録音のようにベルリンフィルと相性は良かったのに、常任指揮者になれなかったのはとても残念なことです。もしマゼールがなっていたら、と思うと興味は尽きないですね。