TPP交渉に伴う著作権の保護期間の延長について(2)

JASRACにしてみれば、保護期間の延長に対して一般ユーザーが何を喚こうが知った話じゃない!と思っているでしょう。さらに言えば、「親告罪」だった著作権の侵害を、検察の判断だけで訴追できるように法の改定も行ったので、絶対的正義である「著作権」を侵害して恥じない虫けらどもは片っ端から踏みつぶしてくれようぞ!と嘯いていることでしょう。
これは私の勘違いでした。この「非親告罪化」こそが、今回のTPP交渉の目玉の一つでした。

しかし、一寸の虫にも五分の魂があります。
「Even a worm will turn.」
毛虫だって反撃してくることがあるのです。

著作権料を払ってくれるのは誰でしょう?

JASRACが中心となって築き上げてきたこの体制は盤石であるかのように見えます。しかし、盤石と思えるこの体制には本質的な「穴」が空いてしまっています。

その穴とは何かといえば、楽曲や演奏という文化的所産に対価を支払うのは一般ユーザーだという厳然たる事実です。そして、そう言うユーザーの中で、著作権管理団体に対する醒めた見方が急速に広がっているのです。
例えば、Googleで「JASRAC」と検索してみてください。

さすがに、「JASRAC」のサイトが一番に表示されますが、その後に続くページは事の本質を適切に反映しています。

  1. JASRACに音楽著作権使用料を払いたくない! そんなとき …
  2. 店でBGMを流したいがJASRACに金を払いたくない場合にはどう …
  3. JASRACは殺されるべき「悪」なのか~ファンキー末吉氏の紛争 …
  4. JASRACとの戦い ファンキー末吉BLOG ~ファンキー末吉とその …

間違いなく、著作権法の安定性と正当性が揺らいでいます。
法の安定性や正当性というのは難しい論議の結果として表面化するのではなく、まさにこのようなウンザリ感として表明されるのです。
そして、このウンザリ感の結果としてどういう事が起こっているのかと言えば、多くのユーザーが有料のサービスにお金を払わなくなっているのです。

最も悲惨な状態に陥っているのがCDの売り上げです。
ピーク時には売り上げが6000億円を超えていたものが、昨年(2014年)は調査開始以来はじめて2000億円を割り込んでしまいました。売り上げ枚数でも2011年、2012年は辛うじて1億枚の大台を死守したものの、2013年にはじめて1億枚を割り込み、2014年には一気に9000万台も割り込んで8500万枚にま落ち込んでしまったのです。

さらに悲劇的なのは、そう言う低下傾向の中でAKBとジャニーズのCDが売り上げの上位をほぼ独占している事実です。
とりわけ、2014年のシングルCDの売り上げ状況は酷かったようです。

  • 1位 : 178.6万枚 … AKB48 「ラブラドール・レトリバー」
  • 2位 : 115.4万枚 … AKB48 「前しか向かねえ」
  • 3位 : 108.6万枚 … AKB48 「鈴懸の木の道で・・・」
  • 4位 : 105.6万枚 … AKB48 「心のプラカード」
  • 5位 : *60.4万枚 … 嵐 「GUTS!」
  • 6位 : *59.1万枚 … 嵐 「Bittersweet」
  • 7位 : *56.3万枚 … 乃木坂46 「何度目の青空か?」
  • 8位 : *54.7万枚 … 乃木坂46 「気づいたら片想い」
  • 9位 : *52.6万枚 … 乃木坂46 「夏のFree&Easy」
  • 10位 : *52.5万枚 … 嵐 「誰も知らない」
  • 11位 : *50.3万枚 … SKE48 「未来とは?」
  • 12位 : *49.1万枚 … EXILE TRIBE 「THE REVOLUTION」
  • 13位 : *45.9万枚 … SKE48 「不器用太陽」
  • 14位 : *45.1万枚 … NMB48 「高嶺の林檎」
  • 15位 : *42.9万枚 … NMB48 「らしくない」
  • 16位 : *38.9万枚 … 関ジャニ∞ 「キング オブ 男!」
  • 17位 : *32.8万枚 … HKT48 「桜、みんなで食べた」
  • 18位 : *30.8万枚 … ジャニーズWEST 「ええじゃないか」
  • 19位 : *30.4万枚 … HKT48 「控えめI love you!」
  • 20位 : *30.2万枚 … 関ジャニ∞ 「言ったじゃないか/CloveR」

この20枚のシングルCDだけで売り上げ枚数は1200万枚に迫ります。CD全体の売り上げが8500万枚なのですから、占有率は約15%です。
こんな書き方をすると、AKBやジャニーズファンの方々には申し訳ないのですが、明らかに、まじめに音楽を聴きたい人はCDを買わなくなっているのです。売れるCDというのは音楽以外の何らかのプラスαがあって、そのプラスαによって購買行動に結びついているのです。悲しい話ですが、いくら素晴らしい音楽を生み出し、いくら素晴らしい歌唱を磨いても、CDは売れないのです。

業界では、こんな事になってしまった理由として概ね以下の3点を槍玉に挙げているようです。

  1. コンテンツ市場の多様化・音楽への無関心
  2. レンタル・中古市場の隆盛
  3. 違法アップロードの蔓延

しかしながら、これらの理由を見てなるほどと納得できる人は少ないでしょう。

例えば、「コンテンツ市場の多様化・音楽への無関心」というのは責任を外に転嫁する論理です。もしも、本当にコンテンツの多様化が進んで音楽への無関心が広がっているのが原因ならば、それは音楽に携わる者にとっては全面的な敗北宣言であり、そんな敗北宣言をして開き直る事が出来るならば、最初から音楽なんかに携わるべきではないのです。
「レンタル・中古市場の隆盛」を理由に挙げるならば。それもまた長く手もとにおいておきたいと思えるような音楽を提供できない己の無力を恥じるべきです。
さらに、「違法アップロードの蔓延」を理由に挙げるならば、それは音楽をまじめに聞きたい人は違法ダウンロードに励んでいるような存在だと貶めているようなものなのです。

つまり、どう考えても、CDが売れなくなってしまった理由は受け手であるユーザー側にあるのではなく、供給する側にこそあるのです。そして、その原因は送り出す音楽のクオリティにではなく、まさに音楽を送り出すシステムにこそ存在するのです。
ですから、今の時代、CDを売ろうと思えば音楽以外のプラスαが絶対に必要であり、そのプラスαを上手く付加することが出来たものだけが成功する世の中になってしまったのです。
残念な話ですが、音楽家がどれほど聞き手の心に響くような素晴らしい音楽を作り出そうと努力しても、その努力が報われることはないのです。

では、その足枷となってしまったシステムとは何かといえば、音楽とは金儲けの手段であるということを明け透けに表明し、それを執拗に刷り込み続けた事です。
とりわけ、この表明と刷り込みに果たした著作権管理団体の役割は絶大なものがあります。

トスカニーニはフルトヴェングラーに向かって「第三帝国のもとで演奏を行うものは、いかなる理由があっても全てナチスだ」と言い放ちました。それと同じように、今のユーザーが「JASRACの庇護のもとに音楽活動を行っているものは全てJASRACだ!」というような明確な批判意識を持ってるわけではありません。
いや、そう言う明確な意識のもとで拒否をしているならば論議のしようもあるでしょう。そうではなくて、事あるごとに「音楽は金だ!」という主張を続ける著作権管理団体の長年の活動によって、そして、そう言う活動の合間から「音楽は金だ!」と思っているらしい音楽家の姿がかいま見える事で、次第次第に音楽に入れ込んでいた自分が醒めていくのです。
そして、醒めた対象に人はお金を使うことはないのです。

もう少しはっきり言い換えれば次のようになります。
音楽は「愛」のためにこそ必要なのです。これが「大義」です。
だからこそ音楽は「愛」を持って送り出されなければいけません。

ところが、JASRACは音楽は「金」だという本音を明け透けに語ってしまい、そして、「金」のために音楽を送り出すシステムが出来上がってしまったのです。
大義を捨てて本音を剥き出しにしたものに人が心を寄せることはありません。

もちろん、お金がなければ音楽活動なんて続けられないという人もいるでしょう。それは100%正論です。しかし、そんな大義を振り捨てた正論に心を寄せて入れ込んでくれる人はいないのです。
そして、それこそが「Even a worm will turn.」なのです。(・・・続く)