写真は5月2日に撮影したものです
萬葉植物園は春日大社の施設で昭和8年に創設されました。なので、正式には「春日大社神苑 萬葉植物園』」と言うらしいです。
春日大社の藤と言えば直会殿前の「砂ずりの藤」が有名ですが、「藤の園」は観賞するための庭園として育てられていますから、花の見事さという点ではくらぶべくもありません。
また、「藤の園」では「藤棚」ではなくて「立ち木作り」の形式をとっていますから、藤棚のように花を見上げるのではなく目の高さで花を楽しむことが出来ます。
また、「花は常に外に向かって咲くので日光の光を浴びてひときわ美しく映えます」というのもこの「藤の園」の宣伝文句なのですが、確かに下から見上げる藤棚とは違う美しさが堪能できます。
まず、入り口を入ってすぐ左側に立派な藤棚がありますが、これは「藤の園」の藤ではありません。
「藤の園」は順路に従って「萬葉園」を辿っていくと、一番奥のところにあります。
「萬葉植物園」は「萬葉園」・「五穀の里」・ 「椿園」・「藤の園」という4つのゾーンに分かれていて、萬葉集ゆかりの植物が大切に育てられているのですが、なんと言っても素晴らしいのは「藤の園」です。
言うまでもなく「藤の花」は春日大社のシンボルですから当然と言えば当然なのですが、この「藤の園」では20品種もの藤の木が植栽されているそうです。
河内長野市にある「花の文化園」もそうなのですが、こうやってたくさんの品種を大切に育てていくというのは植物園の責務なのでしょう。
そして、それがまた訪れる者にとっての大きな価値でもあります。何故ならば、早咲きから遅咲きまで含めると一斉に咲きそろうことはないのですが、それが逆に園全体としての花の時期を長くしてくれるからです。
「藤の園」に入ってすぐに目つくのは大木に巻き付いた巨大な藤の姿です。藤はその優美な姿に似合わず別名「絞め殺しの木」といわれるのですが、その生態を彷彿とさせる光景です。
また、手入れが行き届いているからだと思うのですが、いつ行ってもたっぷりと花をつけています。
そして、一本一本の藤の木も大きく、園全体をおおように植栽されているので、花のピークの時期には、月並みな言い方ですが「藤の花の海」に迷い込んだかのような錯覚に陥ります。
藤波の影なす海の底清み沈く石をも珠とそわが見る
萬葉集の「藤の歌」と言えば真っ先に思い浮かぶのがこの家持の歌でしょう。
家持の歌は藤の花が海に影を落とす光景を詠んでいるのですが、ここでは本当に藤そのものが海となっているようです。
今年は4月の気温が低かったので開花が通常よりも遅く、開花期間も長かったようです。園のニュースによると開花が4月27日で終わりが5月12日でした。
しかし、通常の花のピークは5月のゴールデンウィークとドンピシャリで重なります。
さらに、最近はインバウンドの観光客も多いので、この休日に訪ねるととんでもないことになってしまいます。
私が訪れた5月2日は平日だったのですが、それでもかなりの人出で、チケット売り場には団体客が次々と押し寄せていました。
しかし、同じく園のニュースによると「植物園の管理って、一年を通してすごく費用がかかるんだよね!! 毎年のことだけれども、こうしてみんなが来園してくれることで引き続き植物の管理が行っていけるよ!! 」と言うことなので、この人の多さのおかげで藤の花が維持されているのです。
恋しけば形見にせむとわが屋戸に植えし藤波いま咲きにけり
これも有名な赤人の萬葉歌です。
藤の花が咲いたと聞けば、恋人に会いに行くような思いで訪ねて行かざるを得ないのです。
そう、どんなに人が多くても!!
萬葉植物園へ
周辺にはたくさんの駐車場があるのですが、やはり近いところから埋まっていきます。京都と違ってどこにも止めるところがないと言うほどの混雑にはなりませんが、休日だとかなり離れた場所に車を止めざるを得ないこともあります。
そう言う煩わしさから逃れたいときは近鉄かJRを利用する方が賢いでしょう。
なお、お金と時間に余裕のある方は道を挟んだ反対側にある「奈良春日野国際フォーラム 甍」のレストランを利用して駐車するのもいいかもしれません。ミシュラン一つ星のお店なので、ロケーションも含めてとてもゆったり出来ます。
なお、この「奈良春日野国際フォーラム 甍」はあまり知られていないのですが、非常に立派な庭があり休憩スペースもゆったりとしています。誰でも無料で利用できる施設ですから、散策で疲れたときには利用する価値は大きいです。有り難いのは、ほとんど知られていないので、いつ行ってもとても静かなことです。(学会や能公演などのイベントがあるときだけは賑わうそうです)