紫陽花関係の情報を仕入れていると、西日本では神戸市立森林植物園の紫陽花が一番ということになっています。「あじさい25種5万株、日本でトップクラスの規模」なんて書いてあるサイトもたくさんあります。
しかし、ああいうサイトというのは自分の足で情報を仕入れて、それに基づいて書いているところは少ないようですね。おそらくは、既存のあちこちのサイトの情報を手際よくまとめて、その情報の正しさなどは検証することなく記事を書いているのでしょうね。
昔はこの植物園の紫陽花は素晴らしかったことは事実のようです。
それは間違いのない事実であり、植物園のスタッフも「そうあるように」今も努力されてきたことは感じ取ることができました。しかし、何が原因かは分かりませんが(もしかしたらイノシシ?)、今は「あじさい25種5万株、日本でトップクラスの規模」とは到底思えない状態になっています。
6月22日に、「あじさい25種5万株、日本でトップクラスの規模」という情報を信じて訪ねたのですが、これのどこが「日本でトップクラスの規模」なんですか、という状態でした。
確かに、今年は紫陽花の開花が遅れていて満開には程遠い状態であったことは割り引かなければいけないのですが、たとえ満開になっても、間違いなく岸和田市の蜻蛉池公園の紫陽花園のほうが見ごたえがあります。
そう思って、遊歩道を歩いていると、あちこちから「昔はこんなんじゃなかったのにね」という、ため息交じりの嘆きが聞こえてきます。そして、「10年前は滝のように咲いていたのにといわれるのですが、その姿を取り戻すべく必死で努力しています」みたいな看板があちこちに建てられていました。
一言でいえば、ここの紫陽花園の紫陽花はどれもこれも小さな株ばかりで花つきもあまりよくありません。その大部分がこの数年のうちに植えられたと思われるので、やはり何らかの理由で昔の紫陽花は滅んでしまったようです。そして、植物園のあちこちには、明らかにイノシシが掘り返したと思われる跡がたくさん見られます。
しかし、あれこれ調べてみると、「アジサイは比較的害虫には強いが、同じ場所に10年ほど植えていると弱りやすくなり、虫害に遭いやすくなる」と同植物園のスタッフが語っているので、様々な要因が重なり、さらにはそれへの対処が不十分だったのでこういうことになったのでしょう。
そのために、植物園では、苗木をしっかり育てて、西洋アジサイ園のほうも含めて株を増やすことに努めているようです。
実際、かなりしょぼくなってしまっている「アジサイ園」よりは「西洋アジサイ園」のほうがきれいに咲いていました。
ただし、この植物園は紫陽花だけの植物園ではありません。
というか、アジサイはこの植物園全体から見ればごく一部です。
今回たずねてみて一番魅力的だったのが、「森林」です。
舗装された遊歩道を外れて山道に入れば、本当に美しい雑木林が広がっていて、その雰囲気は高野山や熊野の古道を思わせる雰囲気があります。
なんといっても、そういう坂道を登ってくる人は殆どいないので、この紫陽花シーズンであってもそういう山道ではほとんど人とは出会いません。この静かさと、頭の上から降ってくる鳥の鳴き声、春ゼミの鳴き声に身を浸していると時のたつのを忘れます。
また、植物園の中央付近には「長池」があって、今まさにスイレンが池の面を埋めて咲き始めているところでした。池の周りにはたくさんのベンチが用意されているので、そこにゆっくりと腰を下ろしてスイレンの花を眺めるは悪くない時間でした。
「あじさい25種5万株、日本でトップクラスの規模」という言葉につられて紫陽花だけを目的に出かければいささかがっかりするのですが、紫陽花だけでない魅力も含めて楽しめるならば、それなりに充実した時間が過ごせる場所ではあります。
なお、この植物園の目玉の一つが「幻の紫陽花」といわれていたシチダンカです。
この植物園ではこのシチダンカがたくさん咲いています。
この紫陽花が「幻」と呼ばれたのは、幕末にシーボルトがまとめた「日本植物誌」にスケッチが記録されていながら、130年間にわたってこれに該当する植物が見つからなかったことに由来します。しかし、昭和34年に六甲ケーブル沿いで見慣れない植物が発見され、後に専門家によって幻といわれていたシチダンカであると同定されました。
神戸市立森林植物園
六甲山ドライブウェイの入り口あたりにあります。非常に広い駐車場なので、よほどのことがない限りは大丈夫でしょう。
駐車料金500円、入園料300円は決して高くはありません。
なお、六甲山ドライブウェイは「紫陽花ロード」として整備されていますので、帰りはそちらをたどるのもいいでしょう。時間がない時は山頂方面に向かわなくても途中で展望台(鉢巻展望台)もあるので、そこから神戸方面の展望を楽しむことができます。