N響80年全記録

“日本のクラシック音楽の礎を築いたN響の全てがわかる! N響80年全記録 佐野之彦”

N響80年全記録
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これで、「N響の全てがわかる」とは思えませんし、朝比奈と大フィルの歴史を描いた「オーケストラ、それは我なり―朝比奈隆 四つの試練」等と比べると、明らかに「きれい事」の範疇でおさまっています。とりわけ、あの有名な小沢との確執などは実にあっさりとふれられているだけです。
しかし、そう言う不満はあるものの、全体としては面白いエピソードが散りばめられていて、「全記録」という堅い題名とは裏腹に読み物としては面白く仕上がっています。
特に面白いと思ったのは、カラヤンが「帝王」に駆け上がる直前に初来日した50年代のエピソードです。最後の「第9」のコンサートでは、男性のシンボルが屹立した状態で登場し、それが最後のフィナーレが鳴り響くまでその状態が維持するのを見て、なるほど世界のトップに駆け上がろうとする人間のエネルギーとリビドーは半端じゃないと思った、と言うのです。
確かに、50年代のカラヤンの録音を聴き直してみるとそう言う凄まじいエネルギーを感じさせられるものが多くて妙に納得させられました。
これ以外にも、70年の大阪万博の時に、来日していたサヴァリッシュがドイツ館を訪れたときの出来事もなかなかに面白いです。
何故かというと、ドイツ館で披露されていたのは、シュトックハウゼンの「前衛音楽」だったからです。5分ほどすると、ついにサヴァリッシュの怒りが爆発し「こんなもの、音楽じゃない!」と叫びはじめ、さらには周りの人にも同調することを求めたのです。
もちろん、作曲家本人もその場にいたのですから、ただでおさまるはずもなく、ついにはシュトックハウゼンも「ゲッタウェイ!」と怒鳴り返して大騒ぎになったそうです。
ああ、サヴァリッシュってなんて素敵なんでしょう。
とまあ、こんなエピソード満載の本です。
買ってまでは読む必要はないかもしれませんが、図書館で見かけたら借ってきても損はないでしょう。

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