退院して1週間・・・体調は順調に回復しています

退院してから1週間が経過して、ほぼもとの体調に戻ったようです。そして、11時にはベッドに入って就寝し、6時には起床するというのは、60をこえた人間にとっては理想的な生活スタイルのようです。

それにしても、生活環境の大きな変化というものは人間の心の有り様に予想もしないような影響を与えるようです。
今回の「不眠」を引き金とする一連のとんでもない出来事は、その原因を探っても仕方のないことではあるのですが、その根底には「ねばならない」という生き方から脱却できていない自分があったことは間違いないようです。

言うまでもないことですが、人生のある時期において「ねばならない」という「責任感を身にまとう」生き方が必要なときがあります。
とりわけ40代から50代という時期はありとあらゆる責任が被さってくる時期ですから、多少はしんどくても「ねばならない」と踏ん張る必要があります。そうでなければ、家庭だけでなく、自らが所属する組織だって成り立っていきません。
しかし、幸いなことに、私たちは小さい頃から「人とはその様にして、強い責任感を持って生きていくものだ」と躾けられてきます。その「躾け」たるや、ほとんど本能かと思えるほどのレベルにまで刷り込まれています。

子安寺の藤の花

ですから、大部分の人はその様な大変な責任と重圧を「やりがい」とか「自己実現」という言葉に置き換えて乗り切ってきたのです。つまりは、「戦闘モード」に入っているときにこそ最大のパフォーマンスと精神的安定が得られるようにチューンナップされているのです。

ところが、「退職」という「環境の激変」がある日突然やってきます。もちろん、その日が来ることはずっと前から分かっているのですが、実際にやってくると、感覚的にはそれは「突然」なのです。
私は、その「退職」を潔く受け入れて、それまでの「ねばならない」と言う生活から一切合切足を洗うことにしました。
そうした選択をしたのは、同僚の中ではかなりの少数派でした。そして、何らかの形で職場に残った連中のなかには、正直に「何もすることがなくなるのが恐い」という奴もいました。

しかし、私は職場との関係を一切切り離しても、自分の好きなことをやって「生きていける」自信がありました。そして、この2年間、自分でもそうできているように思っていました。
しかし、今回の「救急車による搬送」から「1週間の入院」を経験して分かったことは、小さい頃から徹底的に躾けられてきた「ねばならない」という生き方はそれほど簡単には消えてはいなかったと言うことです。

例えば、このサイトの運営一つをとってもそうです。
今から振り返ってみれば、いつの間にか「毎日更新」という「目標」を設定して、「今日の一枚」などという項目がトップページの頭に来るようになっていました。
さらに言えば、今までのサイト構成を振り返って、月に一度はオペラの録音を更新しましょうとか、歌曲も追加していきましょうなどと言う「数値目標」を自分の中で勝手に設定してしまったりしていたのです。
そして、それを全くあやしまないところにこそ、小さい頃から徹底的に叩きこまれてきた「躾け」の「怖さ」があるのです。

考えてみれば、3月の終わりに眠れなくなったときだって、眠くなるまで好きなことをやっていれば良かったのです。
そして起きているのが朝の4時とか5時になったとしても、いつかは眠くなって眠ってしまうはずです。それが、結果として起きてくるのが10時11時になったとしても、仕事に行っているわけでもないのですから何の困ることもないのです。
ところが、その日の昼過ぎに人と会う約束をしていたり、会合に参加する予定が入っていたりするので、それに影響が出ないように然るべき時間には「眠る」様に努力してしまうのです。

「人としての正しい行い」を躾けられてきた身にしてみれば、人と会う約束をこちらの都合で突然キャンセルしたり、参加するはずの会合に突然不参加にする等という「選択肢」は思い浮かばないのです。
そして、眠ろうと思っても眠れないがゆえに「悪の連鎖」に陥って精神的に追い詰められてしまったのです。

これって、正直言って「阿保」です。

そして、その「阿保」に全く気づかないのが恐いのです。
今回の出来事は、その「阿保」が、「人としての正しさ」という大義名分を振りかざしながら己の中でどんと腰を据えていることを、それこそ「理屈」ではなくて、耐え難いほどの「肉体的苦痛」を伴って嫌と言うほどに教えてくれたのです。

ほんまに阿保です。

例えば、私にとってこのサイトの存在は大きな位置を占めています。
だからといって、そこに「数値目標を設定してどないするねん!」と言う話なのです。

好きな音楽を聞いて、それを他の人にも紹介したいと思えば更新すれば良し、そうでなければほったらかしにしておけばいいのです。それで、サイトを訪れる人が減ろうがどうしようが知った話ではないのです。
60を超えて公的な舞台から身を引いた身にすれば、私は私であり、それ以上でもなければ以下でもなく、ましてや他者の目などは知った話ではないと開き直れるのです。

もちろん、それはサイト運営だけに限った話ではありません。
そう言えば、とある先輩は年をとれば「義理を欠け」と言っていました。その時は、随分な話だと思ったものですが、今の私には痛いほどにその言葉の意味が身に染み込んできます。人というものは、本当のことは痛い目にあわなければ分からないのです。

60をこえて公的な立場から身を引けば、後は己の素直な心に従って無責任に徹するべし・・・なのです。

葛井寺の藤の花

それから、今回のことでもう一つ気づいたことは、精神的に追い込まれた状態になったときには、そばで寄り添って話を聞いてくれる人がいることの有り難さです。
私の場合はそれは「妻」でした。

「不眠」というのは辛いだけでなく、それがある一定以上の時期続くと「今日も眠れないのではないか」という「恐怖」に変わっていき、やがては寝室に足を踏み入れることまでが「恐く」なっていきます。
そう言う精神状態になってしまったときに一番有り難いのは、その「辛さ」や「怖さ」を率直にぶちまけることが出来る存在がいることであり、さらにその「辛さ」や「怖さ」をひたすら「ウンウン」と聞いてくれることなのです。
そんな時にアドバイスなどは不要です。
それどころか、辛い思いをしているものにとってはそれを聞いていること自体が苦痛なのです。

そして、反省したのですね。
私が現役だったときには、その立場上、苦境に陥っている若手をサポートしなければいけなかったのです。
当然の事ながら、最後は何らかの対策は講じなければいけないのですが、それまでに、彼らの抱えている辛さや怖さを何処まで共感を持って聞くことができていただろうかと、振り返らざるを得なかったのです。

確かに、退職の時に、ある一人の若手は「いつも味方になってくれてありがとう」といってくれました。
しかし、それでも結果を急ぎすぎて、次々とアドバイスを与え、対策を急ぎすぎていた自分の姿が嫌でも思い出されるのです。

おそらく、苦しんでいる人にとって、その苦しみから抜け出すこと事が出来る力はその人の中にしかないのです。別の人間が何とかしてやろうと、その人の首に縄を巻き付けて引き上げようとしても、首はますます締め上げられてより苦しくなるだけです。
他者に出来ることは苦しんでいる人の横にいて、そして、彼らには乗りこえる力があることを信じて、その苦しみを共感を持って聞くだけです。

ですから、結果としては大した経験でもなかったのですが、60をこえた身としては、その様な魂の同伴者に一歩でも近づければいいなと思う、今日この頃なのでございます。(枝雀師匠風に・・・^^;)

7 comments for “退院して1週間・・・体調は順調に回復しています

  1. 豊島行男
    2019年4月30日 at 5:57 PM

    大変共感できるお話を読ませて頂きました。
    わたしは今58歳ですが、「その苦しみから抜け出すこと事が出来る力はその人の中にしかない」というのは大いに推測できます。いまだ未経験の退職後、親身な相談を受け入れたことがないので、あくまでも推測ですが、そんな気がします。

    遅ればせながらお礼をば。
    いつも本ページにてクラシックを聴かせて頂いております。ここで引き込まれた曲や演奏は数知れず・・・
    今後も毎日楽しませて頂きます。よろしくです。

    • yung
      2019年4月30日 at 8:52 PM

      「その苦しみから抜け出すこと事が出来る力はその人の中にしかない」というのは大いに推測できます。

      そうですね。しかし、本文にも書いたように、そのためにはその辛さを共感して黙って聞いてくれる人がそばにいることが必須ですね。
      やはり、男というものは基本的にヘタレな存在であるのですから、妻こそは何があっても大切にしなければいけない存在だと言うことです。(^^v

  2. joshua
    2019年5月1日 at 9:54 AM

    2年あとを追っている、音楽愛好家の私です。ますます、職場は多様化し、仕事が増えた分、働き方改革など言って、古い仕事は削られていきます。本質は変わらん、と半分タカをくくっていますが、59になろうとする今、こんな変化に晒される最中、ご主人様の文章が目に留まりました。 伊能忠孝でしたか、日本地図を人間の足で実測し描いて見せた。便利になった今、われわれは、身体は変わっておらず、これからも変わらないでしょう。歩く、自然の中に彷徨う動物ですから、パソコンに向かう時間、少し減らしています。私から見ましたら、YUNG氏のサイト運営は超人的なものです。もっと簡略化されても十二分にfascinatingだと思っております。
    くれぐれも、お体ご自愛ください
    音楽へのお気持ちは、そのままに。

    • yung
      2019年5月1日 at 7:32 PM

      YUNG氏のサイト運営は超人的なものです。もっと簡略化されても十二分にfascinatingだと思っております。

      いやいやそれほどのことはないです。
      現役ではたらいているときも、毎日音楽を聞く時間をわずかでも確保することが精神の安定を保つ上では必須でした。ですから、私にとって音楽はまさに体の一部のようなものです。その音楽について語ることは自分を語るのと同じようなものですから決して負担にはなっていません。

      ただし、今までは全体のバランスを考えて更新したりしていたのですが、そう言う「阿呆な無理」は一切やめます。
      これからはそう言うことは一切考えずに自分の好き勝手に、興味のおもむくままに更新はしていきます。

      多くの方から励ましとお見舞いをいただいた事には心から感謝しています。

  3. ken
    2019年5月2日 at 3:51 PM

    69歳のサンデー毎日です。68歳誕生月まで電気設計エンジニアとして働いていました。
    今は毎朝5時起床、6時朝食(これは40年間同じ)、7時PC立ち上げが日課ですが、当サイトを覗くとほぼ毎日、当日付でアップされていたので「早起きな人だな」と感心していました。先月のブログを読ませていただいて、もしかしたら早起きではなく、遅寝の夜中更新だったのかな?
    サイト情報から想像すると、夫婦仲良く共通の趣味がある、語学が堪能、人生設計が用意周到、お酒は飲まない・・・・とお見受けします。音楽レパートリーはバロックから現代まで、器楽から声楽まで満遍なく聞き込み、また文献等の読みの深さにも驚きです。
    私はすべて真逆です。典型的な仕事人間だったので、仕事を止めたらやることが無く、気が付けば半日以上PCの前のお地蔵様状態で、天気の良い日の約40分散歩を心がけていますが、めっきり足腰と視力が衰えました。
    デスクワーク時間はそこそこにして、結果的に長い期間我々を楽しませていただけたら何よりです。お体を大切にしてください。

  4. toshi
    2019年5月10日 at 10:03 AM

    yungさん、いつも楽しませていただき有難うございます。
    本当に毎日音源をアップされていて感謝の限りです。

    でも、音源アップの手間を考えると毎日というのは大変だと思います。
    無理しないこと、そうですよね。現役で仕事していた時は給与の分の義務は
    あったと思いますが、リタイアされてからは義務など一切ないので
    (あるとしたら奥様に対する義務?)、休肝日ならぬ休アップ日を作られても
    良いのではないのですか? 無理なく長く楽しく音源をアップされ、結果私達ファンも
    その恩恵に預かれたら幸いです^^

    • yung
      2019年5月10日 at 2:57 PM

      休肝日ならぬ休アップ日を作られても良いのではないのですか? 

      お気遣い有り難い限りです。
      しかし、「今日の一枚」という形で毎日更新していた頃と、「最新の更新」として、結果として毎日更新しているのとでは、見た目は同じようでも全く違うのです。
      何故ならば、前者では「義務」と化しつつあったものが、後者では基本的には「酔狂」だからです。この違いは大きいです。
      ですから、その内途切れることはあるかもしれませんが、今のところは紹介したい音源が山ほどあるということです。

      私にとって音楽を聞くというのは「生活」そのものです。
      それは、三度の食事と同じであって、音楽を聞くことなしに一日が終わると言うことは殆どありません。そして、そうやって音楽を聞いているときに、ふと気づいたことをメモ帳に簡単にメモをしておくのが習慣となっています。
      その「メモ」は基本的には「古きヨーロッパ」とか「どこかで観た映画の一シーン」みたいな、「簡潔な単語程度」の内容なのですが、そう言うメモを残しておくと、それをもとに1000文字程度の文章に仕上げるのには20分もあれば十分です。
      時には、幾つか調べてみたいことが出てきて少し時間を食うときもありますが、今は朝起きて、朝食を食べるまでの時間に済ませています。
      つまりは、サイト更新に関しは心配していただくほどの時間はかかっていないのです。

      ですから、昨日は大阪の松竹座に藤山直美主演の「笑う門には福来たる」を観にも行きましたし(何と3幕で上演時間が4時間でした)、その3日前には妻とランチにも行っています。つまりは、そう言うあれこれの「妻との大切な行事」の間のちょっとした合間でサイトの更新は行っているのです。(^^;

      と言うことで、サイト更新とは直接関係ないのですが、現時点で一番頭を悩ましているのはアナログの再生システムからブーンというハム音がして、それがおさまらないことです。
      いろいろ探っているのですが、根本的な原因がどうしても確定できません。
      問題を切り分けていけばいいのですが、そのためには機器の結線をあれこれかえなければいけないので、そこまでの根性はまだ起こってきませんね。

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