「信頼」を選びますか、それとも「裏切り」を選びますか

極めて単純化した形になりますが、以下のような課題が与えられたとします。

ある日突然、次のようなメールが届きます。

「あなたは100万円があたえられる30人のうちの一人に選ばれました。返信用の葉書には「信頼」と「裏切り」の選択肢が用意されていますので、そのどちらかに○をつけて送り返してください。「信頼」に○をすればあなたには100万円が与えられますが、「裏切り」に○をすればその権利は剥奪されます。しかし、「裏切った」見返りとして「信頼」を選んだ人に与えられる100万円が全てあなたのものとなります。
つまり、あなたが「信頼」を選んだときに、残りの29人のうちの一人でも「裏切る」を選べば、その裏切った人物に信頼した人に与えられるべきだった全ての報酬がさらわれることになります。
じっくりと考えて48時間以内に返信してください。」

これは詐欺メールへの対応ではなくて、純粋に経済学的ゲームとして考えてください。
悩みますよね。(^^;

最も「理性的」な正解は30人全員が「信頼」を選択することです。

この30人が社会の縮図だとすれば、それが社会全体にとって最も大きな利益を上げることが出来るからです。
しかし、一人でも裏切り者がでれば、社会全体の利益は3000万円から2900万円に減少するのですが、それと引き替えに一人の裏切り者だけが2900万円という大きな利益を独占できます。

もしも、10人の裏切り者がでれば、社会全体としては1000万円もの損失が出るのですが、それでも裏切り者のもとには2000万円を10人で山分けをして200万円の見返りがリターンします。
しかし、20人が裏切れば、2000万円の損失得を発生させ、裏切り者のもとにも50万円のリターンしかありません。

つまり、社会全体で多くの人がルールや秩序を守っている中で裏切りを行えば、その裏切りへの報酬は大きくなるのですが、それが積み重なって裏切り者が増えていけばある分岐点で社会は崩壊すると言うことです。
そう言う意味で、今回の新型ウィルスの問題はそれぞれの人が持つ「合理的な理性的判断」が色々な場面で試されていると言うことでしょう。

つまり、ここには「社会全体の利益の中で個人の利益」を考えるのか、それともひたすら「個人の利益だけを追求」するのかという課題が突きつけられているのです。
そして、悲しいことに、私たちは全ての人が「合理的な理性的判断」が出来るような存在だという「信頼感」を持ち得ていないのです。

裏切り者にはならないニャン

未だに営業を続けるパチンコ店や、キャンプに出かける人、さらにはいつもは大混雑するゴールデン・ウィークのさなかでゆったりと観光を楽しむ人などがいます。
もちろん、そう言う行為の背景にはそれなりの言い分もあるのでしょう。そして、それはこの人間社会においては避けられないことなのかもしれません。
さらに、この「危機的状況」の中で何の役割も果たさない(果たせない)リーダーを持ってしまった事も大きな不幸ですが、それを選んだのも最終的には私たち国民です。

ですから、この危機的な状況の中で今何をすべきか、そして、この危機を乗りこえたあとにどのような社会を築くべきなのかを、それぞれが真剣に考えてみなければいけないのでしょう。
そう言えばその昔、「金儲けをして何が悪い」と言い放った投資家がいました。本当にそれで良いのでしょうか?

少なくとも自分だけは「裏切り者」にはなりたくないという矜恃だけは失いたくないと思います。
そして、あなたならば「信頼」を選びますか、それとも「裏切り」を選びますか?

5 comments for “「信頼」を選びますか、それとも「裏切り」を選びますか

  1. 備前屋の旦那
    2020年4月29日 at 6:08 PM

    この問題は、「全員信頼を選ばない限り、裏切ったやつしか報酬を得られない」という事で結論が出ていまして、資本主義経済では裏切るほか道は無いのです。

    「最初は必ず信頼を選び、裏切られたら以後は必ずそいつに対して裏切る」という、有名な「タフで正直」戦略は、「一対一」かつ「同じ相手と何度も対戦する」条件で無いと成立しないので、たった一回で勝負をつける以上裏切る以外に選択肢は有りません。

    だから、アメリカの警察はこれを利用して、容疑者を個別に尋問し、「先に取引に応じたやつだけ減刑する」とやって自白を引き出すのです。

    まあ、「自粛」を「強要」するおぞましい社会になってしまった異常、大人しく自粛に応じないからと言って非難する事は出来ませんけどね。

  2. yung
    2020年4月29日 at 7:55 PM

    この問題は、「全員信頼を選ばない限り、裏切ったやつしか報酬を得られない」という事で結論が出ていまして、資本主義経済では裏切るほか道は無いのです。

    そうですよね、確かに(^^;。
    そして、この人類的レベルの危機はそこまで踏み込んで考えを推し進めていく必要があることを示唆しているのかもしれません。

  3. yk
    2020年4月30日 at 11:56 PM

    この問題の”解”が一義的に決まってしまうのは「純粋に経済学的ゲームとして考えてください」の条件が有るからですね。”解き方”が指定されているので、必然的に解も一義的に決まってしまう・・・。この難点を解消する一番単純な方法は「純粋に・・・」の条件を省いてしまって問題を曖昧にしてしまう事でしょう。すると、回答者は何を問われているのか(例えば、利益なのか倫理なのか?)を自分で決定しなくてはならないので、金銭と道徳のジレンマを抱えるかもしれません・・・・或いは、もっと露骨に「純粋に・・・」の条件を「純粋に倫理的問題として考えてください」と変更すればもっと底意地の悪い問題になるかもしれません。
    或いは、”経済学的ゲーム”の条件は元のまま残したうえで、「裏切り」を選んだ場合の”報酬”に”名前の公表”を加えると、昨今のパチンコ店問題にも通じるジレンマの複雑性が加わることもあって生々しさが増すかもしれません。

    • yung
      2020年5月1日 at 11:26 AM

      「極めて単純化した形になります」と最初に断ったのは、まさにそこにこそ理由がありました。つまり、この課題はいくらでも複雑化できるのです。

      ただし、私自身も驚いたのは同じ資本主義の国家でも驚くほどに違いがあることです。
      この危機の中にあって自分自身はどう生きるかという「倫理観」と「矜恃」の問題だけでなく、その事実も危機収束後にどのような社会を目指すのかを考えていく上では忘れてはいけない事かもしれません。

      そして、時の政権が長期籠城を指示した以上、「倫理観と矜恃を持ってその指示に応えている人々の信頼」にこたえてどのようにして補給路を確保するのか、それだけはしっかりと見極めたいと思います。

  4. 備前屋の旦那
    2020年5月2日 at 7:02 AM

    ネタばらしをしてしまうと、この問題は有名な「ゲームの理論」の問題なのですが、その場合は相手を代えて何度も同じ条件の対戦をします、その場合は「タフで正直」戦略(実際にはそれを更にアレンジした戦略)が最も有効とされます。

    そのばあいは、「裏切っていると誰からも信用されなくなり、結局は一人負けする」という結果になります、倫理とか正義とか道徳とかいったおためごかしではなく、単純に裏切りは1度しか出来ないというだけの事です。

    ところが、管理人さんの言うように一回きりの対戦の場合、裏切った場合のデメリットが無くなるので裏切るしか有りません。

    経済学的に考えれば、双方が信頼する時に最大の利益(200万円)が得られるので、信頼を選択すべきなのですが……。

    >「倫理観と矜恃を持ってその指示に応えている人々の信頼」にこたえてどのようにして補給路を確保するのか

    これはまた別の話なのですが、コロナ対策で言えばアメリカ・ニューヨーク市のように「つまらないプライドを捨てて既に封じ込めに成功した国に救援を求める」ぐらいのドラスティックな発想の転換が出来れば良いのですが、日本人がプライドを傷つけずに救援を求められる唯一の相手国であるアメリカがあの始末ですから、今後とも有効な対策は打てずに泥縄で行くでしょうね、政府に一義的に責任を求めるのではなく、そういう国民性なのです。

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