交響曲全集 ヴァント&ケルン放送響(9CD)

“1974?1981年ステレオ録音。1974年7月、ヴァントはWDRから依頼され、放送番組用にブルックナーの交響曲第5番をセッション録音します。5番と9番をブルックナーの最高傑作と考えていたヴァントの解釈はすでに完成されており、実際、オーケストラと綿密なリハーサルを重ねて臨んだ録音は素晴らしい出来栄えとなりました。  それから2年を経た1976年8月、同じくWDRの放送番組用に第6番をセッション収録し、12月には第4番も収録。そして翌1977年、第5番録音から3年のときを経てドイツ・ハルモニア・ムンディからレコードが発売されることとなります。  このレコードはドイツでは絶賛をもって迎えられ、ほどなく前年収録の第6番もレコード化、翌1978年には第4番も発売され、翌1979年5月と6月には第8番と第9番を収録、年内にレコード化されると、翌1980年1月には第7番を収録、これも年内にレコード化され、翌1981年1月には第3番を収録、そして年末に第1番と第2番の収録をおこない、翌1982年に、第1番、第2番、第3番の3曲をレコード化して、ようやく全集が完結することとなります。”

ブルックナー:交響曲全集 ヴァント&ケルン放送響(9CD)
icon
20100817-title-0001.jpg
icon
ブルックナーの交響曲全集が、それも「極上」の部類に属する全集が2390円でゲットできるとは、つくづくいい時代になったものです。
しかし、これはとある評論家が絶賛する晩年のヴァントを想像して買い込んだらがっかりするかもしれません。
なぜなら、ここで聞くことができるのは「功成り名を遂げた年寄りの芸」ではなくて、「闘う男」ヴァントの面目が刻み込まれたブルックナーだからです。
かつて、このケルン&ヴァントのブルックナーについて、こんな風に書いたことがあります。
「私の手元に、ヴァントがいまだに神様でなかった時代に、ケルン放送交響楽団を相手としてこつこつと完成させたブルックナーの交響曲全集があります。彼はその後神様になり、ベルリンフィルなどを相手に数多くのブルックナー演奏を行い、それらのすべてはライブ録音されてブルックナーファンの「聖典」となっていきました。
その結果として、彼が若き時代に精魂を傾けて完成させたケルン時代の録音は忘れ去られていきました。」
・・・そう言う録音がこういう形で、それも安価にリリースされるというのは喜ばしいことです!!
「芸というものはいつまでも上昇曲線をえがいていくものではありません。
それはどこかで頂点をむかえ、その後は否が応でも下降していきます。これは厳然たる事実です。年を重ねれば重ねるほど円熟味をまして芸が磨かれていくなどと言うのは錯覚以外の何ものでもありません。
ただ、問題はその下降曲線の傾斜角度です。その下降曲線が緩やかな人もいれば、急激に衰えていく人もいるということです。
そして、いわゆる名人・上手と呼ばれる人は、この頂点が高かっただけでなく、その後の下降がきわめて緩やかだったということに最大の特徴があります。彼らは高いレベルで芸を完成させただけでなく、その高いレベルを長期にわたって維持したことにこそ偉大さがあるのです。
しかし、それでもなお、彼らの芸歴を俯瞰して見れば、頂点に向かって上昇曲線を描いている時代の芸の方に強い魅力を感じます。そこには、完成に向けた強い意志と熱い魂が醸し出す「勢い」が感じ取れます。そして、その「勢い」は頂点を通過した後では、いかに高いレベルを維持しているといっても姿を消してしまいます。
ヴァントに関してもこの一般論がそっくり通用するように思えます。
ですから、ユング君はケルン時代の録音が大好きでした。そこには、「闘う男」ヴァントの面目が刻み込まれていました。」
・・・これは常に変わらぬユング君のスタンスです。功成り名を遂げた後の年寄りの芸は基本的に好きくありません。
「1番はウィーン版を採用していることもあって、若書きの作品としてではなく、円熟したブルックナーに相応しい堂々たるシンフォニーとして構築されています。
2番に関しては、もう見事としか言いようがありません。
2番シンフォニーはブルックナー作品の中では演奏される機会の最も少ない作品です。ある意味では「前衛的」と言っていいほどの作品なので、ほとんどの指揮者による演奏では混乱した印象しか残りません。しかし、ここではすべてが意味深く一定の秩序の中で音楽が構築されています。ですから、聞き終わったときにはブルックナーらしい堂々たる音楽を聴かせてもらったという満足感が残ります。
この1・2番以外にでも3番や6番なども晩年の録音と比べれば明らかにケルン時代の方に魅力を感じます。そして、おそらくは拒絶反応をおこす人が多いことを承知しながらも、ケルン時代の9番はユング君の大のお気に入りでした。荒々しいまでに金管楽器を強奏させるその演奏からは「闘う男ヴァント」の面目が刻み込まれています。」
・・・何かの間違いではないかと思うほどに金管楽器が強奏される9番が大好きでした!!
「さらに、付けくわえれば、このケルン時代の録音は晩年のベルリンフィルなどとの録音と比べれば音質的に勝っています。録音年代は古いのですが、このことはブルックナーのような作品にとっては大きなアドバンテージです。おそらくはスタジオで精緻に録音されたケルン時代と、晩年のライブでの一発録りとの違いなのでしょうが、これは決して無視できない要因です。」
・・・私のシステムに問題があるのかもしれませんが、晩年のライブ録音はいつもぼけたような音で、とうてい最後まで聞き通すのがしんどくなるような代物でした。
年寄りのヴァントしか知らない人には一度は聞いてもらいたい録音だと思います。

コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です