梅の花

夕食を終えると、妻と二人でワンコをつれて散歩に出かけるのが習慣になっています。 ワンコはとても保守的な生き物なので、散歩コースが頻繁に変わるのは好まないようです。結果として、毎日同じようなコースばかりを歩くことになります。
 しかし、ワンコはそれで良くても人間様の方はそれでは飽きがきてしまいますので、時々強引にコースを変えたりします。
 クリスマス前の時期などは、あちこちに工夫を凝らしたイルミネーションが点在しているので、噂を聞きつけては探検にいくことが多くなったりして、ワンコにとってはかなり迷惑なシーズンになります。
 でも、そういう特別な季節でなければ、コースを変えるといってもしょせんは住宅街の中ですから、どこをどう歩いてもそれほどの差があるわけではないので、ひたすらルーティンワークの散歩が続くのが一般的です。
 そんな三月のとある日、急に気分を変えたくなっていつものコースをはずれて歩いてみました。コースをはずれるといっても初めて歩く道であるわけもなく、私たちの生活圏の中に属する道ですから、どこに何があるのかは熟知しているつもりのコースです。
 いつもなら真っ直ぐいくところを、ヒョイと右に曲がったというほどの話です。その曲がった道を真っ直ぐ歩いていって、いつもの公園に行くために再び角を左に曲がりました。
 その時、突然に黄昏時の夕闇の中から白い影が目に飛び込んできました。
 あれっ!とおもって目を凝らしてみると実に立派な梅の木で、枝いっぱいに花をつけています。
 冬の間も何度かこの前を通ったのですが、ここに梅の木があることなどはまったく意識の中にはありませんでした。
 その梅の木が、見事としかいいようのない姿で暗闇の中で咲いています。
 しばらくその姿に見惚れていたのですが、ワンコの方はそんな花などに興味があるわけもなく、しびれが切れたのか、公園に行こうとせがみ始めました。
 そうか、もう三月だもんな!なんどとつぶやきながら、いつもの散歩コースに合流して公園に向かいました。こんな何でもないことに幸せを感じとれるのは年をとったからこそ!でしょうか。

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