無人島の一枚~4つの最後の歌

クラシック音楽ファンの間によく話題となるのが「無人島の一枚」です。ちょっと突っ込みを入れれば、人も住んでいないのなら当然電気も通っていないだろうから、そんなところへレコードやCDを持っていってどうするつもりだ、と言うことになるのですが、まあそう言う細かいことは気にせずに、何があっても手放したくない一枚というニュアンスで語られる話題です。

この一枚に関しては、私は長い間バッハの「マタイ受難曲」、それも当然のことながらリヒターが1957年に録音したものをあげていました。
ここでも、あれはCDでも一枚には収まらずに3枚組ではないか!等という突っ込みはご遠慮ください^^;

そして、一枚ではあまりに気の毒だから3枚まで許してやると言われれば、そこに、ベートーベンの「エロイカ」とモーツァルトの「フィガロの結婚」をあげていました。
「エロイカ」に関しては「セル指揮クリーブランド管の57年盤」、フィガロに関してはそれほど強い思いこみはないのですが、できれば「カール・ベーム指揮ベルリン・ドイツ・オペラ管の68年盤」を持って行ければと考えていました。

そこへ、さらに番外編を一枚許してもらえれば、このリヒャルト・シュトラウスの「4つの最後の歌」をあげていました。
これに関しては「セル指揮 シュヴァルツコップによる65年盤」以外には考えられませんでした。

Elisabeth Schwarzkopf

しかし、年をとれば人は変わります。
特に、耐久力が落ちてくるので(^^v、マタイやフィガロみたいにCDでも3枚組なるような音楽だと、よほどの覚悟を決めないと聞き通すのがしんどくなってきます。
あれほど好きだった「エロイカ」も、この年になると「頑張れ、頑張れ!」と叱咤激励されているような気になってではいささか鬱陶しくなってきます。

と言うことで、かつては番外編だった「4つの最後の歌」が、最近は「無人島の一枚」へとランクアップしてきたような気がします。
とりわけ、年を重ねるにつれて、セルの棒が描き出す「夕映えの中で」の世界への共感がますます深くなってきます。

そのオーケストラ伴奏にのってシュヴァルツコップが幽かに、そして消え入るように「おお、広々とした、静かな平和よ!夕映えの中にこんなにも深くつつまれて」と歌うとき、クラシック音楽などというものを聞くことの幸せの全てがつまっているような気がします。

しかし、こう書くと、お前はいつも「歌曲」は苦手で「よく分からん」などといっていたではないかという突っ込みが入りそうです。
確かに、歌曲というジャンルはクラシック音楽のなかでは一番地味なジャンルではないでしょうか。

とにかく退屈です。(^^;

しかし、この作品だけは最初から別格でした。
初めて聴いたときは魂がふるえました私のなかに先入観として組み込まれているR.シュトラウスの姿からはずいぶんと距離感のある作品だったのですが、その距離感がまさにストライクゾーンの「ど真ん中」だったのです。

Richard Strauss

R.シュトラウスという人物は私のなかにあってまさに「俗物」という言葉が一番ピッタリくる男でした。
名誉欲も金銭欲も人一倍強かったようで、それ故にナチスとの関係も目先の欲に目がくらんで大きく踏み外してしまうことになり、戦後は全くの不遇のなかで最期をむかえることになりました。

彼の作品は常に耽美的であり時にはグロテスクであり、それが俗物としてのシュトラウスの自画像であるようにうつりました。

ところが、この作品からはその様な俗臭が一切ただよってきません。
シュトラウスは第二次大戦後の物質的、精神的荒廃のなかにある祖国ドイツを呆然と眺めながら、「ドイツ文化は終わった」と深く嘆きながらこの作品を生み出したと言われています。
そう言う意味では深い諦観がこの作品を貫いている事は間違いないのですが、それでいながらなんといえない艶麗たる優美さが失われていないことが驚きです。

この両者の絶妙なバランスのなかから、なんといえない高貴さと品格の良さが匂い立ってくるところにこの作品の真価があります。

この作品が発表されたときは、すでに新ウィーン学派の音楽を乗り越えて、戦後の前衛音楽運動が勃興し始めた時でした。
そう言う時代背景にこの作品を置いてみれば、時代錯誤としか思えないほどに古色蒼然たる作品であったことは否めません。

シュトラウス自身もその事は十分に認識していたようで、「私はもう過去の作曲家であり、私が今まで長生きしていることは偶然に過ぎない」と語っています。

ところが、21世紀になり先の100年を総括できる位置から振り返ってみれば、真に意味のある創造的営みは何だったのかは明らかです。
バルトークのピアノコンチェルト3番やR.シュトラウスのこれらの作品を聴くと、戦後の失われた時間の大きさに暗澹たる気持ちになるのは私だけではないでしょう。

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