無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータの概要

バッハの時代にはこのような無伴奏のヴァイオリン曲というのは人気があったようで、とうていアマチュアの手で演奏できるとは思えないようなこの作品の写譜稿がずいぶんと残されています。ところが、古典派以降になるとこの形式はパッタリと流行らなくなり、20世紀に入ってからのイザイやバルトークを待たなければなりません。

Johann Sebastian Bach

バッハがこれらの作品をいつ頃、何のために作曲したのかはよく分かっていません。一部には1720年に作曲されたと書いているサイトもありますが、それはバッハが(おそらくは)自分の演奏用のために浄書した楽譜に記されているだけであって、必ずしもその年に作曲されたわけではありません。さらに言えば、これらの6つの作品がはたして同じ目的の下にまとめて作曲されたのかどうかも不確かです。

しかし、その様な音楽学的な細かいことは脇に置くとしても、これらの作品を通して聞いてみると一つの完結した世界が見えてくるのは私だけではないでしょう。
それは、どちらかと言えば形式がきちんと決まったソナタと、より自由に振る舞えるパルティータをセットととらえることで、明確な対比の世界が築かれていることに気づかされるからです。

そして、そのパルティータにおいても、「アルマンド」-「クーラント」-「サラバンド」-「ジーグ」という定型様式から少しずつ外れていくことで、その自由度をよりいっそう際だたせています。
そして、パルティータにおいて最も自由に振る舞っている第3番では、この上もなく厳格で堂々としたフーガがソナタの中で屹立しています。

この作品は演奏する側にとってはとんでもなく難しい作品だと言われています。

しかし、その難しさは「技巧」をひけらかすための難しさではありません。
パルティータ2番の有名な「シャコンヌ」やソナタ3番の「フーガ」では4声の重音奏法が求められますが、それは決して「名人芸」を披露するためのものではありません。その意味では、後世のパガニーニの「難しさ」とは次元が異なります。

バッハの難しさは、あくまでも彼がヴァイオリン一挺で描き尽くそうとした世界を構築するために必要とした「技巧」に由来しています。
ですから、パガニーニの作品ならば指だけはよく回るヴァイオリニストでも演奏できますが、バッハの場合にはよく回る指だけではどうしようもありません。

それ以上に必要なのは、それらの技巧を駆使して描ききろうとしたバッハの世界を理解する「知性」だからです。
その意味では、ヴァイオリニストにとって、幼い頃からひたすら演奏テクニックを鍛え上げてきた「演奏マシーン」から、真に人の心の琴線に触れる音楽が演奏できる「演奏家」へとステップアップしていくために、一度はこえなければいけない関門だといえます。

ソナタ第1番ト短調 BWV1001

第3楽章の「シチリアーノ」以外は全てト短調という珍しい調性を持っています。この異例ともいえる調性の関係についてはいろいろと説明している本もあるのですが(ドリア旋法がどうたら、リディア旋法がかんたら・・・)、そう言う楽典的な事には弱い私にはよくわからんのです。(^^;
しかし、この偉大な6曲の冒頭を飾るに相応しい作品であることは間違いありません。

  1. 1. Adagio
  2. 2. Fuga. Allegro
  3. 3. Siciliano
  4. 4. Presto

パルティータ第1番ロ短調 BWV1002

4つの全ての舞曲の後半にそれぞれ、ドゥーブルと呼ばれる変奏が置かれているために、一見すると8楽章構成のように見えますが、本質的に以下の4楽章構成です。
そのために、パルティータの最後は一般的には「ブーレ」ではなくて「ジーグ」なのですが、それではその後にドゥーブルをおくとすわりが悪いので変更したのだろうと推測されています。

  1. 1. Allemande – Double
  2. 2. Courante – Double. Presto
  3. 3. Sarabande – Double
  4. 4. Tempo di Bourree – Double

ソナタ第2番イ短調 BWV1003

第2楽章の「フーガ」は289小節にも及ぶ長大なものですが、至る所にあらわれるオクターブの跳躍は音楽に躍動感と起伏感を与えています。
また第3楽章の「アンダンテ」では、1本のヴァイオリンで、旋律と通奏低音の二声を弾くというものですが、音量を調節してメロディラインを際だたせるという高度な制御が要求されるようです。

  1. 1. Grave
  2. 2. Fuga
  3. 3. Andante
  4. 4. Allegro

パルティータ第2番ニ短調 BWV1004

シャコンヌとは、「上声は変わっていくのに、バスだけは同じ楽句に固執し執拗に反復するものである」と説明されています。上声部がどんなに変奏を展開しても、低声部で執拗に繰り返される主題が音楽全体の雰囲気を規定します。

しかし、その低声部での主題を聞き手が意識することはほとんどありません。
冒頭にその主題が提示されますが、その後は展開される変奏の和声の最低音として姿をくらましてしまうからです。

ところが、姿をくらましても、それが和声進行のパターンを根底で支配するのですから作品全体に与える影響力は絶大であり絶対的です。
聞き手には移り変わっていく上声部のメロディラインしか意識には残らないでしょうが、執拗に繰り返される低声部の主題が音楽の支配権を握っています。

ですから、聞き手にはこの低声部の主題がそれとは明確に意識できない代物であっても、演奏する側はそのことを明確に意識して演奏する必要があります。
つまりは、スコアに書いてある音符をそれなりに音にするだけでは音楽にはならないのです。
そのことは、何もこの作品に限ったことではありませんが、シャコンヌはとりわけ演奏者サイドにその手の難しさを要求するようです。

  1. 1. Allemande
  2. 2. Courante
  3. 3. Sarabende
  4. 4. Gigue
  5. 5. Chaconne

ソナタ第3番ハ長調 BWV1005

ソナタ全3曲中で最も壮大な音楽がこれです。とくに第2楽章のフーガは354小節からなる長大なものであり、それはバッハが書いたフーガの中で最大のものだと言われています。
フーガの主題は古いコラール「来たれ、聖霊よ、主なる神よ」によるものだそうです。

  1. 1. Adagio
  2. 2. Fuga alla breve
  3. 3. Largo
  4. 4. Allegro assai

パルティータ第3番ホ長調 BWV1006

組曲の一般的な配列からは大きく逸脱して最も自由に振る舞っています。そのために、全6曲の中では最も明るく、最も華麗な音楽になっています。
また、全6曲の中では唯一アマチュアでも演奏できそうな作品であるために昔から高い人気を持っていました。
特に、第3楽章の「ガヴォット」は、「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」などという厄介な名前など知らない人でもどこかで一度は耳にしたことがある有名な旋律です。

  1. 1. Preludio
  2. 2. Loure
  3. 3. Gavotte en Rondeau
  4. 4. Menuet I/II
  5. 5. Bourree
  6. 6. Gigue