ベートーベン:ピアノ・ソナタ第18番 変ホ長調 Op.31-3
- 作曲:1802年
- 出版:1804年
- 献呈:なし
(P)クラウディオ・アラウ 1965年5月録音
18世紀的なソナタから抜け出して独自の道を歩み始めたベートーベンの姿が明確に刻み込まれている
作品を6つ、もしくは3つにまとめて発表したり出版するのはバロック時代から古典派の時代における一つの特徴でした。それは、バッハの組曲やパルティータなどにもよくあらわれています。
おそらくは、そういう風にセットにすることで「お得感」もあったでしょうし、作曲家にしても自らの多様な姿を示す(誇示する?)のに都合がよかったのでしょう。
ベートーベンもまた同様なのですが、彼の場合は6つではなくて3つにまとめることが多かったようです。
ピアノ作品だけを例にしてみれば、作品2(1番~3番)、作品10(5番~7番)、作品31(16番~18番)がそれにあてはまります。
- Piano Sonata No.1 in F minor, Op.2-1
- Piano Sonata No.2 in A major, Op.2-2
- Piano Sonata No.3 in C major, Op.2-3
- Piano Sonata No.5 in C minor, Op.10-1
- Piano Sonata No.6 in F major, Op.10-2
- Piano Sonata No.7 in D major, Op.10-3
- Piano Sonata No.16 in G major, Op.31-1
- Piano Sonata No.17 in D minor, Op.31-2
- Piano Sonata No.18 in E-flat major, Op.31-3
作品14や作品27のように3つではなくて2つをまとめているものもありますし、当然の事ながら単独で作品番号を与えているものが全体の半数を占めています。
しかし、最後の3つのソナタ(Op.109~Op.111)のように、本来は3つにまとまった作品と考えられるのですが、ばらして出版した方が金になると判断したので異なる作品番号が与えられることになった作品も存在します。
そして、重要なことは、このようにまとまった形で発表された作品は、そのまとまりとして眺めないと見落としてしまう面があると言うことです。
明らかなのは、このようにまとまりを持った作品というのは、それぞれに対して明確な性格の違いが与えられていると言うことです。
例えば、作品10の3曲を例に挙げればハ短調のソナタはその調性に相応しく英雄的であり、続くヘ長調ソナタは諧謔的な雰囲気を漂わせます。そして、最後のニ長調のソナタは3曲の中では最も規模が大きくて雄大な広がりを持った作品として全体を締めくくります。
ベートーベンはこの3つの作品をまとめて発表することで、英雄的であり、諧謔的であり、そして雄大な世界をも提示できる自らの多様性をアピールすることが出来たのです。
そして、「作品31」においてはその様な性格付けはさらに際だっていて、それぞれが「諧謔的(ト長調)」であり「悲劇的(ニ短調)」であり、最後は規模の大きな「叙情的(変ホ長調)」な性格で締めくくられます。
そして、それは若手の人気ピアニストとして売り出していたベートーベンの姿が「作品10」の3曲に刻み込まれていたとすれば、そう言う18世紀的なソナタから抜け出して独自の道を歩み始めたベートーベンの姿が「作品31」には明確に刻み込まれているのです。
ピアノソナタ第18番 変ホ長調 Op31-3
- 第1楽章:Allegro
ローゼン先生はこの冒頭部分はこれまでに作曲したソナタの中で最も不安定な感情を表していると述べています。繰り返される問いかけに対して音楽は一瞬停止して応答があらわれるからです。そして、その呼びかけと応答にはある種の哄笑が含まれているとも述べています。 - 第2楽章:Scherzo. Allegretto vivaceひそやかな哄笑はこの楽章において爆発します。スタッカートを多用した進行や極端なダイナミックスの交錯はその笑いに悪魔的な雰囲気を忍び込ませてくるようです。
- 第3楽章:Minuet. Moderato e grazioso – Trio
ベートーベンがピアノソナタでメヌエットを用いた最後の音楽です。従来の伝統的なメヌエット形式を踏襲するkとで、先んじるスケルツォ楽章と好対照をなしています。 - 第4楽章:Presto con fuoco
荒々しいエネルギーと高揚感に満ちた楽種です。冒頭の飛び跳ねるようなリズムはタランテランであり、その正確なリズム処理が演奏家には求められます。そして、このリズムが楽章全体を貫いているために「ドイツ人のタランテラン舞曲」とか「狩りのソナタ」というニックネームを奉られることになるのですが、当然の事ながら、それはベートーベンのあずかり知らぬことです。
色々なピアニストで聞いてみよう