「外連味」を通して一つの「真実」に至っている表現

録音と演奏が見事なまでに支え合って、ストコフスキーならではの世界を形作っています。

レオポルド・ストコフスキー

コルサコフという人も基本的には「外連味」たっぷりな人でしたし、この「シェエラザード」という作品自体がそう言う「外連味」の塊みたいな作品ですから、これを聞いても決して怒ったりはしないでしょう。

R.コルサコフ:交響組曲「シェエラザード」 作品35 レオポルド・ストコフスキー指揮 ロンドン交響楽団 (vn)エリック・グリュエンバーグ 1964年9月22日録音

もっとも、「外連味」の「外連」とは「俗受けをねらったいやらしさ。はったり。ごまかし。」という意味があるので、「外連味たっぷり」というのは一般的には褒め言葉にはならないのですが(^^;、ストコフスキーに関しては最上の褒め言葉になります。
しかし、そんな書き方をすると、ストコフスキーという音楽家が「嫌らしいはったりと誤魔化し」で出来ているように読み取れるので、ちょっと困ってしまいます。

Scheherazade

でも、よく芸能の世界では「外連味なさ過ぎ」という言葉で批判することもあるので、そのライン上での「外連味」と思ってもらえばいいのかもしれません。

どういうわけか、クラシック音楽というものが「教養」という怪しげな概念の構成パーツの一つになったことで、聞いて面白い作品や演奏は格が落ちるものと思われてきました。
逆に、聞いてちっとも面白くない作品を聞いてこそクラシック音楽の通であって、さらにはその面白くない作品を面白くない演奏で聞いていればまさにパーフェクトだというのです。

さすがに、そう言う「事大主義」は陰は潜めただろうと思っていても、「お前のような奴にはクラシック音楽の深い精神性は分からないのだ!」と言うメールを未だにもらいますから、なかなかしぶといものです。
その文面を読めば、「邪悪」だの「素直」だのという怪しい言葉で飾り立てて「深い精神性」」を語ってくれたりするのですが、そんな他人様の言葉を借りるだけで語れる「精神性」って何なのよと言いたくなります。

しかしながら、そう言う「精神性」を求める人って凄いですよ。

シベリウスの5番シンフォニーを槍玉に挙げて、「お前は、シベリウスの偉大なシンフォニーを第3楽章でちょん切って公開するとは、芸術を愚弄するにも程がある」というメールをもらったこともありますからね。
確か、そう言う文章に続けて「大きく感情が盛り上がってきた第3楽章で突然音楽を中断して放り出すとは許し難い暴挙!今すぐ正しい姿で公開することを要求する!」みたいな文面でした。
あまりの凄さに思わず削除してしまったのですが、今から思えば永久保存しておくべきでした。

最初は何を言いたいのか俄には理解できなかったのですが、きっとこの方のもとには4楽章構成からなる「世界に一つだけのシベリウスの5番」があるのでしょう。

ただし、ここでのストコフスキーはそこまでの大胆な改変はしていません。(当たり前だろう!!)
しかし、もしもストコフスキーにそんな文面を見せることが出来たら、意外とおもしろがって笑ってくれたかもしれませんね。そう思えば、そんな些事に腹をたてている自分が恥ずかしくなります。

ここにあるのはストコフスキーという男の目に映った千夜一夜物語です。

そこに登場するお姫様は見事なまでにグラマラスな妖艶な美女です。
そして、そのお姫様の語る世界は「総天然色(古い!}の波瀾万丈物語」です。

指揮者によっては、こんな辛気くさい話を続けてたら王様に殺されちゃうんじゃない!と言いたくなるようなお姫様もいるのですが、このお姫様のお話は見事としか言いようがありません。
そして、最後に登場するヴァイオリン・ソロが、まるで無事に「千一夜」の物語を語り終えた後に訪れる夜明けの光景のように感動的なのです。
これは明らかに、そう聞こえるようにストコフスキーが意図したものでしょう。

そう思えば、全編を通した波瀾万丈の盛り上がりも、凶悪な王シャリアールに殺されんがための必死の思いから出たものだった事に気づいたりするのです。その必死さがあったからこそ、千一夜の夜明けを思わせるラストシーンが感動的になるのです。

「外連味のない」表現が本当に「何もない」表現だったりすることはよくあります。
しかし、「外連味」を通して一つの「真実」に至っている表現は希有です。

そして、その希有な出来事に貢献しているのはロンドン響の腕利き達とヴァイオリン・ソロを担当したコンサート・マスターのエリック・グリューエンバーグ、そして、彼らの献身を見事にすくい取ったDECCAの録音陣です。
これこそは、数ある「シェエラザード」の中で絶対に聞くべき一枚です。

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