ベートーベンのピアノソナタ全32曲を聞いてみる(2)

ベートーベン:ピアノソナタ第2番 イ長調 作品2-2

  • 作曲:1793年~795年
  • 出版:1796年
  • 献呈:フランツ・ヨーゼフ・ハイドン

(P)クラウディオ・アラウ 1964年3月録音

ボン時代にベートーベンはハイドンと知り合います。イギリスに招かれての行き帰りの時です。
若きベートーベンの才能を認めたハイドンはウィーンに出てきて自分のもとで学ぶようにすすめます。喜んだベートーベンは選定侯の支援もあって飛ぶようにウィーンに向かいます。
ハイドンがイギリスからの帰りにベートーベンと出会い、ウィーン行きをすすめたのが1792年の7月です。そのすすめに応じてベートーベンがウィーンに着いたのが同じ年の11月10日です。当時の社会状況や準備に要する時間を考えれば、ベートーベンがどれほどの期待と喜びをもってウィーンのハイドンのもとにおもむいたのかが分かります。

しかし、実際にウィーンについてハイドンのもとで学びはじめるとその期待は急速にしぼんでいきます。偉大な選手が必ずしも偉大なコーチになり得ないことはよくあることで、偉大な作曲家ハイドンもまた教師に向いた人ではなかったようです。
おまけにベートーベンの期待があまりにも大きく、そして、ベートーベン自身もすでに時代を越え始めていました。

ハイドンの偉大さは認めつつも、その存在と教えを無批判に受け入れるというのはベートーベンには不向きなことでした。それよりは、自分が必要と思うものだけを相手からクールに受け取れる存在の方がよかったようです。
そこで、ベートーベンはサリエリ(映画アマデウスのおかげで凡庸な作曲家というイメージが定着してしまいました)やアレブレヒツベルガーなどから作曲理論を学ぶようになり、結局は翌年の春にはハイドンのもとを去ることになります。

この作品番号2としてまとめられている3曲のピアノソナタは、そのような若き時代の意気軒昂たる姿がうかがえて興味深い作品です。
そして、世上噂されるハイドンとの不和も、これらの3曲がハイドンに献呈されていることを考えると、決定的なものではなかったようです。

ちなみに、この3曲が完成したのは1795年と言われているのですが、作品の着想そのものはボン時代にまでさかのぼるそうです。そして、イギリスでの大成功をおさめてウィーンに帰ってきたハイドンに謝意を示すために一気に完成されたと言われています。

ピアノソナタ第2番 イ長調 作品2-2

バロックから古典派にかけての時代は6つ、もしくは3つの作品をまとめて発表することが多かったようです。ベートーベンがはじめて世に問うたこのピアノソナタも作品番号2として3曲がまとめられています。
そして、これらのセット作品のお約束として、それぞれが対照的な性格を持つ事が要求されます。
それは作曲家の力量と特徴を世に知らしめらためには、同じような雰囲気の作品をまとめても意味がないからです。

ですから、この作品番号2の3作品には、劇的で哀愁に満ちた短調作品である第1番、人なつっこさと親しみあふれた第2番、そして輝かしさにあふれた第3番という特徴付けが為されています。
そして、モーツァルトへのオマージュが第1番だったとすれば、この第2番の作品で明らかにそのオマージュはハイドンに捧げられています。

  1. 第1楽章 Allegro vivace イ長調
    この楽章の主題は前半と後半の二つの部分からなる複雑なスタイルをとっているのですが、ある種の人懐っこさを感じるフレーズです。そして、経過句を経て登場する第2主題もこの主題の上昇音階から引っ張り出されいて、すでにベートーベンが統一感のある形で音楽を構成する力がかなりのものだったことを示しています。
    それに続く展開部でもハイドン風の3部構成のモデルが採用されています。
    それが結果として、この時代のソナタとしてはかなり規模大きな展開部に仕上がっています。
  2. 第2楽章 Largo appassionato ニ長調
    この楽章は低声部のピチカートのような音型の上で賛美歌的に歌われるのですが、その後それは捨てられて中間部ではソプラノとテノールの二重唱からなる表情豊かなテクスチャに取って代わられます。
    そして、この楽章が通常の緩徐楽章と大きく隔たっているのは、ABAと言う通常の3部形式の後に長大な終結部を持つことです。このように終結部が拡大するやり方もまたハイドンの作例にならったものです。
  3. 第3楽章 Scherzo, Allegretto イ長調
    ベートーベンがはじめてスケルツォを用いた楽章ですが、基本的にはその後のスケルツォのような激しさはなくて、基本的には3部形式のメヌエットを突き抜けるものではありません。
    しかし、この軽妙で軽みに満ちた音楽はこの作品全体の性格を決める上で大きな役割を果たしています。
  4. 第4楽章 Rondo, Grazioso イ長調
    ローゼン先生はこの楽章は伝統的な「Allegretto」よりもやや遅く演奏すべきだと述べています。
    そして、この楽章の特徴である「弛緩した雄大さ」を実現するためにはレガートで演奏するのが困難な部分でも、レガートであるかのように聞かせることのできるディテールの繊細さに依存すべきとも述べています。
    その背景には優雅さだけでなくピアノの技巧を駆使して表現の幅を広げようとするベートーベンの姿があります。

色々なピアニストで聞いてみよう

  1. (P)アルトゥル・シュナーベル 1933年4月9日録音
  2. (P)ヴァルター・ギーゼキング 1949年11月28日録音
  3. (P)ヴィルヘルム・ケンプ 1951年12月19日録音
  4. (P)ヴィルヘルム・バックハウス 1953年11月録音
  5. (P)イヴ・ナット 1955年9月20日録音