ベートーベン:ピアノソナタ第4番 変ホ長調 作品7
- 作曲:1796年~1797年
- 出版:1797年
- 献呈:ケグレヴィチ伯爵令嬢バルバラ
(P)クラウディオ・アラウ 1964年3月録音
愛する女 “Die Verliebte”
若きベートーベンの意気込みがつたわってくるような作品です。作品2の3つのピアノソナタと比べると明らかに規模の大きな作品であり、内容的にも深みを増しています。
何しろ、32曲あるすべてのソナタの中でも最も長く、さらにはもっとも難しい作品の一つになっているのです。
特に、非常に速く演奏することが要求される第1楽章(Allegro molto e con brio)には、その様な困難さが集中しています。ローゼン先生はその具体例として長い跳躍、レガートのオクターブ、きわめて速い分散オクターブ、そして異なる声部が強調されなければならないトレモロなどをあげています。
さらに、第2楽章の「Largo con gran espressione」は、響きの面でも情緒の面でもより充実したものとなっています。
ベートーベンの初期のピアノソナタは聞かれることの少ない作品ですが、聞いていて一番面白いのは緩徐楽章です。順を追って、これら一連の初期ソナタを聞いていくと、その美しい緩徐楽章がより美しく、深みをましていく様子が手に取るように分かります。
そして、この第4番の「Largo con gran espressione」を聞くと、作品2のソナタより一段と響きは充実して深い情緒をたたえていることが分かります。
この深い情緒は賛美歌的な歌と、オペラのレチタティーボ的な歌という矛盾する二つの要素を巧みに組み合わせたことからもたらされていて、その効果を十全に発揮するためにはきわめて表情豊かな演奏が要求されます。
ピアニストにとっては、技術的困難を乗り越えた第1楽章の後に、このような緩徐楽章が待ち受けていて、こぼれ落ちるような歌心を発揮しなければいけないのです。
それは明らかに、指がまわるだけではどうしようもない、もう一つの異なる難しさです。
シューベルトはこの楽章から深い感銘を受けたと伝えられているのですが、さもありなんと言う感じです。
これに続く第3楽章はメヌエットともスケルツォとも記されていません。
作品2のソナタではスケルツォと記していたのですが、それはすでに述べたように基本的にはメヌエットの3部形式から離れるものではありませんでした。
当然の事ながら、その事はベートーベンも十分に理解していたでしょうから、このソナタでも曲想がどちらともつかないために、ベートーベン自身もあえて明記しなかったものと思われます。
最終楽章のロンド形式はモーツァルトのソナタにとって定番のようなフィナーレなのですが、ベートーベンもこの時期においてはその定番に従っています。
しかし、中間部では明確に「歌う」事が要求されていて、明るく親しみやすいモーツァルト的なフィナーレから少しずつ離れようとしていることも伺えます。
なお、「愛する女」というのは、このソナタの発表当時につけられたニックネームみたいなもので、全体に漂う優雅な雰囲気からその様な呼び方をされたのでしょう。
最近はその規模大きさから「Grand Sonata」と呼ばれることもあるようです。
- 第1楽章:Allegro molto e con brio
- 第2楽章:Largo con gran espressione
- 第3楽章:Allegro
- 第4楽章:Rondo. Poco Allegretto e grazioso
色々なピアニストで聞いてみよう