ベートーベンのピアノソナタ全32曲を聞いてみる(15)

ピアノソナタ第15番「田園」 Op.28 ニ長調

  • 作曲:1801年
  • 出版:1802年
  • 献呈:J.v.ゾンネンフェルス

(P)クラウディオ・アラウ 1962年6月録音

新進気鋭のピアニストとして人気を博した若き時代の最後を締めくくる作品

激しく積極的な性格と、その反対の平穏で客観性にあふれた性格を同時に並行させるのがベートーベンの特長でした。その一番有名な例は交響曲の運命と田園の関係です。

それと同じ事が、この作品28のソナタと前作の作品27との間にも指摘できます。

とりわけ前作の「月光」とタイトルのついた作品27の2とこの「田園」とあだ名のついた作品28はほぼ同じような時期に作曲されているのですが、性格は正反対です。
前作では「月を見て狂ったのか!」というほどに激しい主観的感情を爆発させているのに対して、この田園ソナタでは4楽章の古いスタイルに戻るだけでなく、実に穏やかでのびやかな音楽となっています。

この「田園」という表題は出版に際して業者がつけたタイトルなのですが、中間の2楽章はともかく、両端楽章は田園的な雰囲気に溢れているのでそれほど的外れなネーミングではありません。
例えば、第1楽章の冒頭では執拗に低声部でD音が鳴らされるのですが、これはローゼン先生も指摘しているように、バグパイプの響きです。
この冒頭から24小節にわたって響き続けるバグパイプの響きはこの作品の性格を特徴づけていますし、この第1楽章全体に何度もこの響きが登場することで音楽の性格を決定づけています。

また、最終楽章でもこのバグパイプの響きが帰って来ますし、それが中断したあとに歌われるのは明らかにヨーデルです。
そういう意味において、この作品に「田園」というネーミングをしたことはかなりの妥当性があるのです。

出版業者にしてみれば、この時代は田園趣味的な作品が大いに流行したので、そう言う流行を狙ってのネーミングだったのかもしれません。
しかし、ベートーベンはその様な時流を意識しただけの作品を書くはずもなく、例えば第2楽章では左手のスタッカートの上で右手でカンタービレの旋律を歌わせると言うことを執拗に追求しています。

また、クレッシェンドしたかと思うと突然に「p」になったり、スラーの終わりにスファルツァンドしたりという急激な動きも多用しています。
これらは、その指定通りまともに演奏すればかなりグロテスクな音楽になるのですが、それらを丸め込んでしまうと田園的な叙情性が前面に出てくるので、ピアニストとしてはハテサテどうしたものかとなるのです。

ただし、続く第3楽章のスケルツォはベートーベンらしい皮肉とユーモアに溢れていますから、その流れから言えば第2楽章はグロテスクに表現することを期待していたことは明らかでしょう。
何故ならば、当時の聞き手にとってこの第3楽章でこのような皮肉な音楽を聞かされることは我慢ならないことだったのですが、その反対側には、このような「新しさ」に魅了される人々も現れ始めていたからです。
ですから、この作品には確かにのどやかな田園的情緒が溢れているのですが、そのサンドイッチのパンの間にはかなり強めの辛子がきいた具が挟まれているのです。

そして、最後の終結部にはいると今まで抑えに抑えていたものが一気にあふれ出すように爆発するのは「さすがはベートーベン」という感じの音楽になっています。
ベートーベンはこの作品番号で言えば27と28のソナタの後に、いよいよ真にベートーベンらしい世界へと足を踏み入れていきます。
その意味では、この作品は新進気鋭のピアニストとして人気を博した若き時代の最後を締めくくる作品だったと言えます。

  1. 第1楽章 アレグロ ニ長調 4分の3拍子 ソナタ形式
  2. 第2楽章 アンダンテ ニ短調 4分の2拍子 三部形式
  3. 第3楽章 アレグロ・ヴィヴァーチェ ニ長調 スケルツォ
  4. 第4楽章 アレグロ、マ・ノン・トロッポ ニ長調 8分の6拍子 ロンド

色々なピアニストで聞いてみよう

  1. (P)アルトゥル・シュナーベル 1933年2月17日録音
  2. (P)ヴァルター・ギーゼキング 1949年8月17日録音
  3. (P)ヴィルヘルム・ケンプ 1951年12月21日録音
  4. (P)ヴィルヘルム・バックハウス 1953年11月録音
  5. (P)イヴ・ナット 1955年9月20日録音
  6. (P)ヴィルヘルム・バックハウス 1961年11月録音

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