ベートーベンのピアノソナタ全32曲を聞いてみる(21)

ベートーベン:ピアノ・ソナタ第21番「ワルトシュタイン」 ハ長調 Op.53

  • 作曲:1803年~1804年
  • 出版:1805年
  • 献呈:ワルトシュタイン伯爵

(P)クラウディオ・アラウ 1963年9月録音

ベートーベンの中期を代表する傑作の一つです。

それは18世紀的なソナタの継承者として出発し、ウィーンでの人気ピアニストとしてその殻を打ち破る模索を繰り返した時期をくぐり抜けて、いよいよ熟練を深めていった先に登場したソナタだからです。

ベートーベンはこの作品に先立って作品31の3つのソナタを書いているのですが、そこで彼ははっきりと「新しい道」を進むことを目指すと明言しています。そして、その「新しい道」を目指した最初の到達点が「テンペスト(作品31の2)」だったとすれば、この「ワルトシュタイン」はその様な営為が新しい段階に達したことを宣言したソナタだと言えます。

このソナタには、私たちがベートーベンという名前を聞いたときに連想するもの、巨大であり力強く、そして頂点に向かって驀進していく姿が刻み込まれています。さらに、付け加えれば、そう言う激しさの傍らに豊かな叙情性も息づいています。
それはもう、今までのピアノソナタにはなかったような演奏効果をが盛り込まれていて、誰かが言ったように「天空を仰ぎ見るような」音楽が立ちあらわれるのです。

そして、その営為はピアノソナタだけにとどまるわけではなく、まさにこの時期に「エロイカ」「クロイツェル」「フィデリオ」、そしてピアノソナタではもう1曲「アパショナータ」などが生み出されるのです。

なお、表題となっているワルトシュタインは、ベートーベンのパトロンの一人であったワルトシュタイン伯爵によるものです。
ワルトシュタイン伯爵はウィーン出身の貴族なのですが、ボンを訪れたときにベートーベンと知り合ってその才能を見いだした人物です。

もちろんお金持ちだったので経済的に大きな支援を与えた人物なのですが、それ以上に豊かな教養の持ち主としてベートーベンの精神的成長に大きく寄与した人物として注目に値します。
そして、ベートーベンがボンを離れてウィーンに向かうことを後押しした人物であり、「モーツァルトの精神をハイドンから受け取りなさい」と言って、ウィーンに旅立つベートーベンを励ました人です。

その意味で、まさにこの傑作を献呈されるにふさわしい人物だったといえます。

  1. 第1楽章:Allegro con brio
    8分音符のppの刻みに続いて燦めくような高音域の音型が提示されるとき、そこにはすでにただならぬ音楽が展開されることを予想されます。
    この主題が徹底的に展開されるのですが、それは段階的に上下することである種の荒々しさを、リズムの激しさを演出します。また、新しいピアノの登場によって可能となった音域の拡大、今までになかったピアノの響き、そして反復とクレッシェンドの活用による音楽の巨大化などがすべてこの作品に詰め込まれています。
  2. 第2楽章:Introduzione. Adagio molto Rondo. Allegretto moderato – Prestissimo
    巨大な第1楽章を受けて当初は「Adagio」楽章が予定されていたのですが、それでは作品全体が長くなりすぎると判断して、それに変わって「Introduzione(導入部)」が挿入されました。
    しかし、その導入部はただのつなぎではなく、「天使のほほえみがにわかに雲に覆われたよう」と称されるような深い感情に満ちた音楽となっています。この導入を受けてロンド形式の第2楽章に音楽は流れ込んでいきます。
    このロンド形式は18世紀的な枠から出るものではないようなのですが、それでもその可能性を徹底的に追求した音楽になっています。
    そして、最後のコーダでは「Prestissimo」となって、演奏至難な華やかな技巧でもって音楽は締めくくられます。

色々なピアニストで聞いてみよう

  1. (P)アルトゥル・シュナーベル 1934年4月25日録音
  2. (P)ヴァルター・ギーゼキング 1949年9月16日録音
  3. (P)ヴィルヘルム・バックハウス 1950年7月録音
  4. (P)ヴィルヘルム・ケンプ 1951年9月24日録音
  5. (P)ソロモン・カットナー 1952年6月16日録音
  6. (P)イヴ・ナット 1954年5月4日録音
  7. (P)ウラディミール・ホロヴィッツ 1956年5月10&11日、6月5日録音
  8. (P)クラウディオ・アラウ 1956年12月1日,22日&1957年5月19日録音
  9. (P)アニー・フィッシャー 1957年6月3,4,12,13日録音
  10. (P)ヴィルヘルム・バックハウス 1958年録音

1件のコメント

  1. これ(とアパショナータ)は、私の最もお気に入りのソナタかもしれません(う~ん、言い切ってしまうと他の曲が惜しくなる...)。それなりにピアノを弾ける人でテクニックの基礎ができていれば、それなりに様になって弾けますし、弾き甲斐も大きいですからね。

    Introduzione ですが、ちょっとだけスケルツォ的な要素も含んでいるのでは、と私は思っています。例えば、中間部のメツォ・スタッカートのパッセージが割入ってくるところや(スタッカートとレガートのパッセージをそれぞれ強調して対比させれば、より「サプライズ」の要素が増して私は好きなのですが)、冒頭主題の再現部で追加される怪しげな低音の響きなど、「ちょっと変わった」部分を均さずにあえて強調して弾けば、ただのアダジオとは一線を画すものになると思うのですが、いかがでしょう。 ついでに、天国的に美しいメロディーラインも、ちょっと皮肉っぽく大げさにこぶしを効かせて歌えば立派な「アダジオ・スケルツァンド」になりますが、そこまで行くとやりすぎでしょうかね(笑)。

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