パソコンにおける音楽再生の可能性

パソコンにおける音楽再生という問題を初めて取り上げた一文です。
15年以上も前になるのですが、自惚れではなく、その先見の明に自分でもいささか驚いています。

「今後光ファイバー網に代表されるブロードキャストが主流になれば、プレーヤーという存在は消えるのではないか」
「これから先何年先になるかは分かりませんが、音楽を聴くためにまず最初にパソコンを立ち上げる日が来るのかもしれません。」
「ハードディスクの大容量化と低価格化は目を見張るものがありますから、これからは音楽情報はすべてパソコンに取り込んでおくというのが一般的になるかもしれません。」
「ハードディスクを二重化しておけばバックアップの問題も基本的には完全にクリアできるでしょう」

これらは、一切変更を加えていない、2001年当時のままです。そこから15年、時代は確実にこの方向に進んでいます。
また、次のような一文は、その当時の様子が伝わってきて興味深いです。

「演奏時間が30分程度の曲だと約300Mb前後になって、とてもじゃないが今の通信環境ではWeb上で配信できるような代物ではありません。MP3は圧縮がかけられてサイズは10分の1程度にはなりますが、それでも300Mbが30Mbになるだけで、基本的に配信不可能な事は同様です。」
「ISDN回線でダウンロードすると、かなりよい状態でも30分で10Mb前後が精一杯です。30MbのMP3だと1時間半もかかりますから、そこまでして聞いてみたいという人は滅多にいません。」

こういうネット環境のもとでも、それが確実に改善されていくと言うことが社会的コンセンサスになっていたので、「音楽を聴くためにまず最初にパソコンを立ち上げる日が来るのかもしれません。」と言い切れたのでしょうね。
何を自画自賛しているんだと怒られそうですが、それでもこの大昔の一文を読み直して、少しは自分を褒めてあげたくなりました。

大いに可能性を感じさせてくれるジャンル

2001年1月20日追加 2015年3月14日 一部加筆訂正

この一文は、パソコンでの音楽再生という問題に取り組んだこの一年の歩みをまとめたものです。ピュアオーディオの人が聞けば卒倒しそうなテーマですが、結論から言えば大変な可能性を感じた一年でした。ここで書いた内容が全てにの人の役に立つとは思いませんが、中には幾ばくかの参考になる方もおられると思います。

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もとはオーディオマニアでした
もっとも、オーディオマニアという言葉にはあまり良いイメージは伴いません。あまり使いたくないのですがこれに変わる適当な言葉もなく仕方のないところです。

確かに普通の人から見ればずいぶんと高価なコンポーネントもならんでいますから、「オーディオマニアだね!」などと言われたりします。
ただ誤解を招くといけないので少し付け加えておくと、LPやCDなどのパッケージソフトで音楽を聴くときは、制作サイドの労苦に応えるだけの適切な配慮ははらいたいと言うのが基本的なスタンスです。その結果として、それなりのコンポーネントを買いそろえてきて、今のシステムになっただけの話です。
ものによっては、それなりに高価なコンポーネントもありますが、すべて10年以上は使い続けてますから、単年度に換算すれば安いものです。

そういう思いでパッケージソフトとつきあってきましたから、「私は音楽を聴くのであって音を聞くのではない、ラジカセで十分」などという意見が堂々とまかり通る日本の音楽界にあって、「それはないだろう」と常に思ってきました。
もちろん、音楽なんかはそっちのけで音のディテールにばかり狂奔している、いわゆる「オーディオマニア」も困りものですが、再生システムに無頓着なのも同じくらい困りものだと思っていました。

そんなオーディオマニアにとって、かつては輝かしいオーディオの街であった日本橋が次第にパソコンの街へと変わっていくのは悲しい事でした。
この間までは魅力的なコンポーネントが所狭しとならんでいたフロアが、今度行ってみると跡形もなくパソコン売場に変わっているのを見たときは涙が出そうでした。しかし、そういう出来事に何度も出会ううちにいつの間にか流す涙も枯れ果ててしまいました。(^^)

今では輸入品の単品コンポーネントをそれなりに扱っているのは、日本橋でもマニア御用達の限られた店だけになってしまいました。こういう店は普通の人には敷居が高く、一見さんには店員もきわめて無愛想なので、ますますマニアしか通わなくなります。
それでも、そんな時の流れに背を向けてパソコン売場の前を「けっ!」と毒づきながら、片隅に追いやられたオーディオ機器売場に通いつづけていました。

パソコンがやってきた(^^)

しかし、ついにパソコンを使わなければならない日が来ました。いきさつのディテールは省きますが、まあ日本全国至るところで見られた「悲喜劇(?)」の末に、我が家にもパソコンがやってくることになったわけです。
2年半前のことです。

しかし、幸いだったのはこのパソコンという文房具は感性には合ったようで、特にインターネットの持つ強力な発信力にはすぐに魅せられてしまいました。
パソコン導入の一ヶ月後にはインターネットに接続し、その3ヶ月後にはHP作りに着手、そして4ヶ月後にはアップロードしました。
1999年11月のことで、このホームページが誕生したわけです。何もそんなに力みかえって言うほどのことではないですが・・・、それ以後はこのHPの更新と歩調を合わせてパソコンも世界も広がっていきました。いまでは、毎日の生活には無くてはならないツールにもなり、仕事の道具にもなっています。

しかし、音楽だけは論外でした。

パソコンで再生される音楽はチープという言葉を使うこともはばかられるほどのお粗末さで、インターネットにおける音楽配信などと言う言葉を聞くと、日本の音楽再生をめぐる環境はどこまで落ちていくのだろうと暗澹たる気持ちになりました。
評論家のリスニングルーム拝見という雑誌の特集で、スピーカーやアンプはどこにも写っていないのに、パソコンだけは部屋の特等席に鎮座しているという猛者が何人もいて嘆きとため息は深くなるばかりでした。

この「パソコンと音楽」をめぐる問題において認識に変更を迫る出来事がおこりました。
今から一年前の事で、その出来事とはMIDIの外部音源との出会いでした。

最初は自分が指示したように音が鳴るという面白さでMIDIに夢中になりましたが、それは楽器ができない人間にとっての演奏行為の代替行為としての面白さで、まさかそれを聞いて音楽を楽しもうなどとは夢にも思いませんでした。しかし、外部音源というものに出会い、その外部音源をオーディオシステムの中に組み込んでMIDIを鳴らしたとき、音質的にはCDにもひけをとらないという事実には驚かされました。
MIDIファイルの出来さえ良ければ、つまらぬ演奏のCDよりはよほど素晴らしい音楽を再生するという事実は、正直言って衝撃的でした。

そして第2の衝撃が昨年の暮れにやってきました。
それはwaveに代表されるオーディオファイルも環境さえ整えてやれば素晴らしい音質で再生できるという事実です。

もっともこれはもう少し賢ければ一年前に気づいておくべき事でした。
ただ、最初にも少し触れたように、私にとってののパソコンの世界はHPの更新と手を携えて広がってきました。そのため、HPの更新と連動しないと意識にはあがってこないと言う関係性が存在します。そして、この一年、その興味は「ホームページにおいていかに美しくクラシック音楽を再生するか」に集中していました。

このサイトの最大のテーマは、「少しでも多くの人にクラシック音楽の素晴らしさを知ってもらう」ことにあります。

HPというのものは生まれはテキスト主体のものでした。当然このホームページも最初は文章中心の「読むホームページ」でした。
ところが、クラシック音楽にそれなりの興味や関心がある人はテキストだけのホームページでも十分に面白いと言ってくれますが、そうでない人は見向きもしてくれません。
友人たちでさえ、「文字ばっかり見る気もしない!」と言われるほどですから、その「見向きもされない度」は大変なものです。

でも、これは考えてみれば当然のことで、私たちが「この音楽、なかなか良いね!」と思うのは実際にその音楽を聴いたときであって、その音楽についての解説をよんで心惹かれると言うことは滅多にありません。

だとすれば、クラシック音楽の素晴らしさを少しでも多くの人に知ってもらおうとすれば、否応なしに音楽をホームページの上で流さなければなりません。
この問題意識ゆえにこの一年というものMIDIと格闘を続けてきました。(^^)

そのようなわけで、waveやMP3に代表されるオーディオファイルは常に意識の外にありました。理由は簡単で、そのファイルサイズの大きさがネックとなっていたからです。
waveの場合は一般的に一分間で10Mb程度になります。演奏時間が30分程度の曲だと約300Mb前後になって、とてもじゃないが今の通信環境ではWeb上で配信できるような代物ではありません。MP3は圧縮がかけられてサイズは10分の1程度にはなりますが、それでも300Mbが30Mbになるだけで、基本的に配信不可能な事は同様です。

なにしろ、ISDN回線でダウンロードすると、かなりよい状態でも30分で10Mb前後が精一杯です。30MbのMP3だと1時間半もかかりますから、そこまでして聞いてみたいという人は滅多にいません。おまけに著作権に関わる問題もクリアしないといけませんから、アップできるのは録音から50年以上が経過した古い音源だけです。
もっとも、クラシック音楽の世界では、そう言う古い録音でも現在に通用する立派な演奏はたくさんありますから、著作権の問題は絶対的なネックにはなりませんが・・・。
しかし、このファイルサイズの大きさだけはどうしようもありません。

ですから、光ファイバー網が日本中に張り巡らされて通信環境が劇的に改善されない限り、MIDIファイルを作り続けるしかないと腹をくくっていました。

そんなわけで、MIDIに関してはあらゆるところに目配りはしていたのですが、waveやMP3は常に意識の外にありました。
しかし、MIDIがそれなりの再生環境を整えれば素晴らしい音質で再生できるのなら、ファイル的に音楽情報そのものであるオーディオファイルがすぐれた音質で再生できないはずはないのです。
こんな事は外聞音源に感心させられたときに当然気づくべき事でしたが、人間というものはそこに注意が集中していないと「見えても見えず、聞こえても聞こえず」という状態になりますが、この時のユング君とオーディオファイルの関係がまさにそうでした。

オーディオファイルもホームページで使える?

そんなオーディオファイルが突然に視界に飛び込んできました。
それは、ストリーム再生が可能なようにエンコードされた特殊なファイル、asfファイルとの出会いです。
(注:asfファイルとは聞きなれない形式ですが、現在はWMAファイルと呼ばれているタイプとほぼ同じです。)

このファイルの凄いところは3点です。

第1は、エンコード用のソフトが無償で配布されていて、それを再生するためのメディアプレーヤーが、マイクロソフトが世界を制覇した現在にあっては標準仕様に近い存在だと言う点です。
つまり、お金を全く使わないでwaveやMP3をエンコードすることができ、そうしてエンコードしたファイルをHPにアップするとほとんどの人が何の手間もかけないで聞くことができる環境が整っているわけです。

どんなにすぐれた提案であっても、それを聞くために特殊なソフトを必要だと自分のHPで扱うにはためらってしまいます。たとえそのソフトが無償で配布されていたとしてもです。
おまけに、マイクロソフトはこの一連の提案に歩調をそろえたのか、メディアプレーヤーをほとんど別物と思えるほどにヴァージョンアップ(ヴァージョン7)してくれました。

第2は、その信じがたいほどのファイルサイズの小ささです。

一番転送レートの低いアナログ回線用にエンコードしたときは、10分の音楽ファイルが1Mbちょっとまで圧縮します。
30分の曲だと3.5Mb前後でしょうか。
その後色々やってみて、同じアナログ回線用でも16Kbpsよりは20Kbpsに転送レートを上げた方が大幅に音質はいいようです。これだと、10分の音楽情報は約1、5Mb程度になります。
しかし、それで聞くに耐えないような音質なら論外なのですが、これが何というか、信じがたいほどの素晴らしさです。
もちろん、エンコードする前のwaveファイルを聞いて、そのあとにエンコードされたasfファイルを聞くと確かに差はありますが、それはファイルサイズが一〇〇分の一程度になっているのですからやむおえません。
しかし、音質は決して一〇〇分の一になっているわけではありません。
ちょっと甘くなっているかな?と言う程度で、一体どういう仕組みでここまでの音質を確保しているのか、魔法を見る思いです。

そして、第3にストリーム再生ができる点です。
マイクロソフトはこれらのファイルはストリーム再生に特化したサーバーにおくことを推奨していますが、普通のWebサーバーにおいても問題なくストリーム再生ができます。
マイクロソフトは通常のWebサーバーにファイルをおいてもいくつかの制限付きでストリーム再生が可能なことを保証していますが、色々問題はあるようです。このストリーム再生用のasfファイルの使用を婉曲に断られたレンタルサーバーもありましたし、世間で信じられているほどサーバーには負荷はかからないと言ってくれた業者もありました。どちらが正しいのかは能力では判断しかねますが、大丈夫と言ってくれた業者と契約したことは言うまでもありません。

一時に何百、何千というアクセスがあるようだとWebサーバーでは対応しきれないようですが、どうせ一日に数十人程度しかアクセスがない個人のホームページでは大きな問題はないようです。

このストリーム再生というのは偉いやつです。
普通のファイルならとりあえず全部をダウンロードしてから再生をはじめるのですが、これは頭の部分を少しだけダウンロードすると(バッファリングと言います)すぐに再生が始まります。
あとは音楽を再生しながら同時にダウンロードもしていくので、どんなに大きなファイルでもストレスなしに音楽を聴くことができます。

実は今1949年にワルターがVPOと録音したマーラーの2番をアップしようと作業をしているところですが、さすがに1時間半もの大曲となると、いかにasfファイルといえども10Mbを大幅にこえてしまいます。こうなると、今までなら音楽を聴くためには30分以上も時間をかけてダウンロードする必要があり、この待ち時間が何とも言えずストレスです。
ところがストリーム再生が可能だと、最初の10秒前後の待ち時間で音楽が再生されはじめます。あとは音楽をゆっくりと楽しんでいるうちにダウンロードも終了しているというわけです。
この差は決定的です。

また、MIDIは当然ストリーム再生はできませんから、ダウンロードがすんでから再生が始まります。そのため、少しサイズの大きなファイルになると感覚的にこのストリーム再生の方がストレスが少ないよう感じます。

それから個人のサイトではあまり関係ないことですが、専用のストリーミングサーバーにおけば全曲を聴き終わってもファイルはキャッシュにも残らないように設定できるそうです。
逆にWebサーバーでは、前述したように全曲を聴き終わったときにはファイルはすべてキャッシュにダウンロードされています。
もし気に入っていただければ、右クリックして「ファイルに保存」を選んでもらえば、あっという間に適当なフォルダに保存できますからこようなサイトではかえってアクセスしてくれた人には親切かもしれません。

まさにこのasfファイルというのは、「ホームページ上において、実際に音楽を聴いてもらって、少しでも多くの人にクラシック音楽の素晴らしさを知ってもらいたい」という問題意識のど真ん中に投げ込まれたボールでした。

演奏家が自分の演奏に込めた微妙なニュアンスというものをMIDIで表現しようとすると、それこそ天文学的な作業が必要です。にもかかわらず、それだけの労苦をつぎ込んで発表したとしても、それを再生するための環境は一般的にはきわめてプアです。そのようなプアな環境では音符を入力しただけのMIDIと大差のないなり方をしています。ですから、できるだけ多くの作品を紹介したいようなページでは、そのような微妙な部分をMIDIで伝えようと言うのは現実的な対応ではありませんでした。

しかし、asfファイルを使えば、それなりの大変さはありますがMIDIを作成することを思えばはるかに少ない労力でそのような微妙なニュアンスをアクセスしてくれた人に伝えることができます。
おまけに、MIDIのように音源に関わるややこしい問題からも開放されます。
まさに、実際に音楽を聴いてもらってクラシック音楽の素晴らしさを知ってもらうという目的にはピッタリのファイル形式です。
そんなわけで、asfファイルに出会ってからの一ヶ月ほどはストリーム再生の世界にはまりこんでしまいました。

少しでもよい音でストリーム再生する方法

そうなると頭をもたげてくるのは、「それでは、どのような環境を作れば少しでも良い音質でストリーム再生ができるのか?」という問題意識です。

UAー30
ua30

「ハイエンド」と言う世界は、お金が捨てるほどあるのならばチャレンジしてみてもいいかなとは思いますが、今の状況では死ぬまで縁はなさそうです。f(^^;
しかし、それぞれの分野において、それなりに可能な範囲でどこまで良好な状態で音楽を再生できるかは見てみないと気が済みません。
オーディオでは今のシステムで、MIDIではSC-8820を核としたシステムでそれなりのレベルは体験できたと思っています。そうなると、ストリーム再生においてもそれなりの世界を覗いてみないと気が済まなくなるのが悪い癖です。

そしてその結果は、最初にも書いたように、パソコンでもそれなりの環境を整えてやればそれなりの音質で音楽が再生できるという事が分かったわけです。
その環境はハイエンドからはほど遠いもので、基本的に使われずに放置されていた機器を復活させたものですが、十分に満足できるレベルで音楽を再生してくれました
また働きどころがなかった機器にも活躍の場を提供できて120%の満足度です。

新しく買い込んだのはローランドのUAー30というオーディオ・インターフェースだけです。最初はレコードやヴビデオのアナログ音声をパソコンに散り込むための目的で買い込んだのですが、パソコンからの音楽情報をオーディ系に伝えるのにも大きな力を発揮してくれます。そんな機能は期待していなかっただけに、これはうれしい誤算でした。

パソコン周りの音楽再生環境は以下の通りです。

MIDIは、パソコンからUSB接続でローランドのSC-8820(音源)に信号を送り、そこからヤマハのAVCー2200(アンプ)にラインで信号を送ってスピーカーにつないでいます。
オーディオファイル(asf・MP3・wave)は、USB接続でUAー30につなぎ、そこからコアキシャルでDAコンバーターに信号を送っています。そして、そこからヤマハのアンプにラインで信号を送ってスピーカーへと言う経路です。
うれしいのは、スピーカー、DAコンバーター、アンプともに働きどころがなくて不遇をかこっていた機器ばかりだと言うことです。

ですから使ったお金は、SCー8820に4万円、UAー30は1万9千円で、消費税を入れて計6万円ちょっとです。この出費を高いと感じるか、安いと感じるかはそれぞれの価値観によって分かれるところですが、再生してくれる音楽の質を考えれば信じられないぐらい安い買い物でした。

特にUAー30はアンプとの間にDAコンバーターを噛ませることによって実に素晴らしいはたらきをしてくれます。その働きは、パソコンから送られてくるデジタル信号をそのまま何も手を加えずに、DAコンバーターに送っているだけですから、UAー30自体は音楽信号に対して何もしていません。しかし、DAコンバーターをパソコンに直接つなぐことはできないのですから、インターフェースという名前の通り、パソコン系とオーディオ系の間に立って、両者の間を信号がスムーズにやりとりされるのを手伝ってくれます。
再生だけに限れば、きわめて良質のデジタル情報をオーディオ系に送り込んでくれるわけで、今後光ファイバー網に代表されるブロードキャストが主流になれば、プレーヤーという存在は消えるのではないかと予想させるほどの素晴らしさです。

フルデジタルで処理すれば音がいいのは当たり前です。

でも考えてみれば、今やレコーディングの現場ではハードディスクレコーディングが主流になっているのですから、パソコンにおさめられたデジタル情報をスムーズにオーディオ系に送り込めば素晴らしい音質で再生されるのは当然と言えば当然のことかもしれません。リアルタイムで演奏をパソコンのハードディスク内に取り込んで、細かい調整などはすべてコンピューターで行っているわけですから、そうしてできあがった音楽情報をCDなどというパッケージソフトに詰め込んで販売するよりは、そのままインターネット上でダウンロードしてもらって課金した方が大幅に経費が節減できます。
おまけに、パッケージソフトの制作過程というのはコピーとプレスの繰り返しですから、その過程において情報の欠落は避けられません。言ってみれば、わざわざコストをかけて質を落としているようなものです。ちゃんとした形あるものに対する愛着は消えないかもしれませんが、それはユーザーの方が気に入ればCDに焼くという形で残るのか、または、「特別愛蔵盤」などと称して、ごく一部のマニア層に向けてだけ生き残るのかもしれません。

ハードディスクの大容量化と低価格化は目を見張るものがありますから、これからは音楽情報はすべてパソコンに取り込んでおくというのが一般的になるかもしれません。
専門家ではないので気楽な予想をしますが、テラバイト領域のハードディスクが数万円で入手できる時代はすぐにやってくるのではないでしょうか。これぐらいの容量があると、waveの形式でもCD換算で1000枚をこえる情報が楽々と収まります。エンコード技術もさらに進歩するでしょうから、本当に気に入ったものだけをwaveでおいておくというやり方なら、1万枚程度は可能かもしれません。
よほどのヘビーユーザーでもない限り、おそらくはこれで一生大丈夫でしょう。それに、価格も数万円程度ならハードディスクを二重化しておけばバックアップの問題も基本的には完全にクリアできるでしょう。

それに、オーディオ的に言っても、信号の入り口から出口まで、できる限りすべてをデジタルで処理した方がいいことはよく知られています。この事実を体験したい方は簡単にできますのでその方法を紹介します。

テレビ番組の雑誌を買ってきて、NHKのBS放送をチェックして下さい。
月に一回ほどN響定期演奏会のライヴ中継があります。注意してほしいのは、録画を再放送するのはだめで、必ずライブ中継をチェックして下さい。そして、この放送をしかるべきオーディオシステムを通して聞いてみて下さい。おそらく素晴らしい音で再生されるはずで、「私のシステムってこんなに素晴らしい音がしたのかな?」と驚くはずです。

何故かと言いますと、ライヴですから録音されたデジタル情報はそのままの形でリアルタイムで衛星に送られ、その信号は衛星から私たちの家に送られてきます。つまり、演奏会場から私たちの家庭までフルデジタルで信号が送られてくるわけです。
現段階では、録音の入り口から家庭の再生システムまで、途中で一度もコピーされることなく、全くの手つかずのデジタル情報がやってくるのはこのライブ中継だけです。インターネットでリアルタイムで演奏会の様子を送り出しているところもありますが、あれはエンコードされた情報ですから、音質的にBS放送の敵ではありません。

それから、デジタル情報なのだから途中で何度コピーしても音質は劣化しないと思っている方、世の中はそれほど甘くはありません。この辺は書き始めると録音現場の裏事情なんかにも踏み込んでいって、本編の本旨からはどんどんずれていきますのであまり詳しく書きませんが、とにかくライブ中継のBモード放送を一度お聞きいただければ、コピーされないことのメリットは実感されると思います。

つまり、何が言いたいのかというと、

  1. 通信環境のブロードキャスト化
  2. ハードディスクの大規模容量化と低価格

が今後疑いもなく進むでしょうから、私たちはインターネット上で多くのすぐれた演奏をダウンロードによって入手する時代は確実にくると言うことです。

もしかしたら、コンサートの様子をライブで、かつ最高の音質で楽しむことが出来る時代も夢ではありません。
最近のクラシック音楽のコンサートは、とても音楽を楽しめるような場ではなくなりつつありますから(あの傍若無人の阿呆どもは何とかならないのか)、心ある人たちにとっては福音かもしれません。

そして、そこで再生される音楽は今まで私たちが想像もしなかったような高品質のものが提供されるかもしれないのです。少なくとも、ハードディスクレコーディングでコンピューターに取り込まれた録音現場の情報を、一切の人為的な操作を加えることなくそっくりそのまま家庭にいて受け取ることは不可能ではなくなるはずです。

これから先何年先になるかは分かりませんが、音楽を聴くためにまず最初にパソコンを立ち上げる日が来るのかもしれません。そうなると、「ステレオサウンド」等と言う雑誌は、「音のいいモデム」とか「音のいい光ファイバー」なんて言う特集を組むんでしょうか?
それはそれでまたおぞましい話ではありますが(^^;、パソコンとオーディオの世界は限りなくボーダーレスになっていくことは間違いありません。

そうすれば、再び違った形でオーディオの復興もあり得るかもしれません。
きちんとしたシステムで再生された音楽を一度でも聞く機会があれば、その素晴らしさに誰もが息をのむのは確かなのですから。今はそのような機会が全くないばかりか、メーカー側もどんどんと志が低くなって音楽再生をめぐる環境は貧困化の一方です。
しかし、パソコンとの結合で新しい世界が広がれば、また違った展開もあり得るのではないかと心ひそかに期待しています。