ラッキー君行方不明事件の顛末(2)

電話で必死の問い合わせ!

普通の生活で保健所に連絡をするなどということはまずありません。
そこで、電話番号を調べるところからスタートです。
こういうときにインターネットはとても便利です。検索をかけて我が町の保健所の電話番号を調べてすぐに連絡を取りました。
と、と、ところが・・・・です。
「ピン・ポン・パン・ポーーーン!あなたがおかけになった電話番号が現在使われていません。番号をお確かめの上もう一度おかけなおし下さい。」

焦っていたのでかけ間違ったんだ!と思ってもう一度慎重にかけ直したのですが、やはり同じアナウンスが聞こえてきます。そこで、サイトの情報が間違っているのかと思いもう一度見直してみたのですが、それは大阪府の公式サイトです。でも、大阪府だって間違うことはあるだろうと思いその他のサイトも調べてみたのですが、やはり電話番号はすべて同じです。

そこで、仕方がないので隣の町の保健所に電話をしてみました。こちらの方は幸いなことにすぐにつながりましたので、事情を説明してみると、何と我が町の保健所は隣町の保健所に統合されたというのです。
そんなら、サイトの方の情報も更新しておいてほしいものです。しかし、今はそんなことを言っている場合ではありません。それに我が町の迷い犬の保護もその保健所で取り扱っているということなので、ラッキー君が行方不明になっていることを伝え、そちらで保護されていないかと尋ねてみました。そして、詳しい状況を話そうとすると、5時過ぎからは担当の職員がいないので明日にしてくれというではありませんか。うーん、こんなところでも縦割り行政か!と思いつつも、それでも保健所の方では現在一匹のワンコも保護されていないということだけは分かり、万一保護されたときはすぐに連絡がもらえるように明日もう一度かけ直しますということで電話を切りました。

この時に、ワンコが迷ったときには警察に電話をするというのがもう一つの選択肢だったのですが、なぜかまったく頭に思い浮かびませんでした。
この「警察」という答えが思い浮かばないまま次に浮かんだのが学校でした。

ラッキー君が行方不明になったのはちょうど小学生の通学時間帯でした。もしかすると、小学生についていったか、もしくは連れられていって学校で保護されているという可能性が頭に浮かびました。
そこで、早速にインターネットで小学校の情報を検索して電話をしてみました。すでに7時前にはなっていたのですが、女性の職員の方が出られて事情を聞いてもらえました。そして、職員室に残っておられた方々にも聞いて下さったのですが、残念ながらそういう迷い犬はいなかったと言うことでした。お礼を述べつつ次第に絶望的な気分が広がってきます。

こうなると、残る可能性としては、どこかで保護されているか、もしくは交通事故にあったかです。とりわけ後者は想像もしたくない可能性ですが、事ここにいたっては否定しきれません。しかし、とにかく今はどこかで保護されている可能性にかけて、近所を探してまわることにしました。途中でワンコを散歩している人に出会うたびに事情をはなして情報を求めました。
1時間近く駆け回って8時前に帰宅すると、妻も帰ってきていました。ラッキー君が行方不明になったことをばあさんからすでに聞いていたようで、彼女も思い当たる場所を30分ほど探し回っていたようです。

私の方はすでに2時間以上もかけずり回っていて汗まみれの状態です。それに、こんなパニック状態でかけずり回っていても埒はあかないだろうということで、とりあえずシャワーを浴びて、食欲はないけれども何か食べてから次の行動を考えた方がいいだろうと判断しました。

ユング・ボニーも一緒に捜索

人間とは不思議なものです。
あてのない捜索でも、それでも何かからだを動かしている間は気も紛れているのですが、とりあえず落ち着くためにシャワーを浴びて夕食をとり、呆然たる思いでリビングで妻と話をしていると絶望的な気分がこみ上げてきていたたまれなくなります。
こういう時というのは、想像は限りなく悪い方に悪い方にと広がっていきます。

今頃は車にはねられて死んでしまっているのではないだろうか?
それよりも、私たちを苦しめた想像は、もしかしたら諦めて引き返した用水路の向こうで身動きがとれなくなっているのではないかという事でした。
万一交通事故で亡くなっていたとしたら、それはそれで悲しいことですが、おそらくは一瞬のことでそれほど苦しむことなく死んでしまっただろうと思えます。でも、あんな茂みのなかで身動きがとれなくなっているとしたら、おそらくは時間をかけて苦しみながら衰弱死ということが想像されます。それはあまりにも悲惨すぎます。

そんな絶望的な思いのなかで妻はついにタオルで顔を覆って泣き出してしまいました。
まさに我々夫婦にとっては結婚以来最悪の夜を迎えることになりました。

しかし、ここで泣いていても問題は何も解決しません。それに、じっとしているよりは何かからだを動かしている方がまだましです。
そこで、おそらくは何の役にもたたないだろうなぁ!と思いつつも、ユングとボニーを連れてもう一度捜索に出かけることにしました。夜の町を、ワンコを連れながら「ラッキー、ラッキー!!」と叫びながら歩き回る夫婦というのはかなり奇異な光景ですから、ワンコを連れて散歩をされている方は随分と声をかけていただきましたが、残念ながら何の情報も得られませんでした。

そこで、もう一度例の用水路を探ろうということになりました。
すでに夜の10時前ですから真っ暗です。ラッキー君が姿を消した地点から500メートルほどはなれたところにその用水路が流れ込む場所があるので、今度はそちらから行けるところまでいってみようと考えたのです。
住宅地を出て、道は川に向かって下っていきます。その道が川をこえる橋の手前のところからその用水路は流れ出しています。立入禁止の看板は立っているのですが、それは裏を返せば入り込みやすいということです。鬱蒼たる茂みの中にその用水路は続いているのですが、とにかく私がユング君を連れて行けるところまで行ってみるとにしました。妻には入り口のところで待っておいてもらい、万一のことがあれば助けをよびに行ってもらえるようにスタンバイしておいてもらいました。

まわりは漆黒の闇ですから、懐中電灯の明かりだけを頼りに前進をしました。必死でラッキーの名前を呼びながら20メートル、50メートル、100メートルと前進していきましたが、ついに唯一の頼りだったユング君が恐怖のために一歩も前に進まなくなりました。それはそうでしょう。こんな非常事態でもなければ、真夜中にこんな場所に足を踏み込むなどということは、お金をもらってでも願い下げです。
尻込みするユング君に、ここまでよく頑張ったねと声をかけてそこから撤退することにしました。

ストレスがかかると胃が痛くなるということは何度も経験していましたが、さらにひどくなると吐き気がしてくるというのは今回初めて経験しました。どうしようもない状況と己の力不足を感じながら、絶望的な思いで家路をたどっていると、先ほどたどった用水路の方から犬の鳴き声が聞こえるような気がします。
ハッと思って必死でラッキーの名前を呼ぶと、確かに悲しそうな犬の鳴き声がします。聞こえる方向は、どうしても突破できなかった用水路の一番茂みの濃かった方からです。

それがラッキー君の泣き声なのかどうかはハッキリしません。
その泣き声はそのあと何度呼んでも二度とは聞こえませんでしたが、こうなると用水路は端から端まですべて捜索する必要はありそうです。ただし、こんな真夜中に懐中電灯の明かりだけを頼りに捜索するなどというのは無謀にすぎますから、明日の朝明るくなると同時に、準備を十分にしてから捜索に行こうということになりました。(続く・・・