セルの録音に関する2,3のやりとり

セルのあの演奏が大好き!

1999年12月4日追加

セルに関する評価の問題についてはいろんな方から意見を頂きました。
みなさん、「あなたが思っているほど、セルの評価は低くないよ」とのことで、嬉しい限りです。

ただ、私の中ではセルの存在はあまりにも大きく、贔屓の引き倒しみたいに、みんなセルのすごさが分かっていないんだ!」などとぶつぶつ言ってしまうのです。
だもんで、たまにセルのことを誉めてある文章などを見ようものなら、「うーん、この評論家はなかなかよく分かっている」等と、自分でも愚かだと思いながらも、つぶやいている私です。
ほんとに馬鹿みたいだと思うのですが、こんな気持ち分かっていただけるでしょうか?

それから、「ご意見いただければ、私なりのセルへの思いも投稿させてもらいます」等と書きましたので、少しずつ責任を果たせてもらいます。

実演と録音のあまりにも大きな落差

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セルに関して残念なのは、実演を聞く機会を持たなかったことです。
70年の最初で最後の来日公演の時は、ちょうど中学生だったので、悔やんでみても仕方がないのですがこれだけは本当に残念です。

10年ほど前になりますか、あるきっかけで知り合った人が大変なセルのファンでした。セルの録音をあれこれあげて話をよくしたのですが、悔しいことに彼は70年の来日の時にセルの実演を聞いているのです。

ご存じのように、セルは当初CBSではなく、そのサブレーベルであるエピックレーベルで録音を行っていました。
このレーベルは、サブレーベルのせいか、かなりお粗末な録音でした。とにかく音が硬くて、1stヴァイオリンばかりがやけに耳につく。今はソニークラシカルがかなり丁寧にマスタリングをしたよいで、ずいぶんといい音になっています。

そんないきさつもあるので、最後には必ず、彼が言うんですね。

「セルのすごさはレコードでは分からないよ。実演とレコードでは全く別物だよ。レコードだけを聴いていてもセルの凄さは分からないよ。」と、実演を聞いたことのあるものの強みで勝ち誇ったように言うんですよね。
これは実に悔しいがどうしようもない。

しかし、悔しさを感じながらも、日本での来日公演がもてたことは、日本の聴衆にとっては幸せなことだったと思います。それも、日本の演奏史に残るほどの素晴らしい演奏を聴かしてくれたのですから。
この点は、同じ年に、万博の一環として初来日が予定されながら、突然の急死でキャンセルになったバルビローリと比べてみれば明らかです。

セルの場合は、実演でその実力を知らしめたがために、「セルの芸術」などと称してある程度の録音がまとめて発売され、それを聞いて私のような人間も生まれました。
バルビローリも来日公演を果たしていれば、「ミニ・カラヤン」みたいな誤解を受けることなく、もう少しまとまって録音が発売されたかもしれません。

どうでもいいことかも知れませんが、イギリスにおけるバルビローリの評価には驚くべきものがあります。
グラモフォンが選ぶ、20世紀の名指揮者では第2位です。おまけに、世界遺産とも称すべき20世紀の歴史的録音の第2位に、デュプレといれたエルガーのチェロ協奏曲が入っています。
ちなみに、セルに関しては名指揮者の14位、録音に関してはシュヴァルツコップといれたリヒャルト・シュトラウスの「最後の4つの歌」が第10位です。
まあ、どうでもいいことですが。

そんなことを考えてみると、最近は忙しいからと自分で合理化して、あまりコンサートに出かけなくなっているのは良くないなとつくづくと思います。自分を叱りつけないと駄目ですね。
実演と録音をバランスよく聞かないと、なかなか本当のところは分かりづらいと思います。

セルの素顔が覗く録音

最後に、少し珍しいけれども、彼の真価と特徴がよく現れているかなと思っている録音をあげておきます。もし興味があるようでしたら、大きなCDショップに行かれたときなど探してみて下さい。輸入盤のコーナーを丹念にさがせば見つかるかもしれません。

  • シューマン:「交響曲第2番」(エルミタージュ;57年5月31日イタリア・ルガーノでのライブ録音)

これはきっとセルは承認した訳ではないでしょうから、言ってみれば海賊盤みたいなものだと思います。海賊盤は好きではないのですが、高速でコーナーに突っ込み、そのままスピードを落とすことなく鮮やかに通り抜けていくような演奏は、私のわずかばかりの倫理観をうち破るほどに魅力的です。ソニークラシカルから出ている正規のスタジオ録音とは別人のような演奏です。しかし、このセルの棒についていくクリーブランドのオケは凄いと思います。

  • スメタナ:「わが生涯より(セル編曲によるオーケストラ版)」(ソニークラシカル49年4月26日録音)

これは、ヘリテージシリーズの中の一枚で、ドヴォルザークの7~9番とカップリングされたものです。
室内楽をオーケストラ編曲して演奏会のプログラムにあげるのはマーラー以来のウィーンの伝統のようです。
指揮者たるもの、それぐらいの芸がなくては飯が食っていけなかったようで、この録音を聞いて、セルの根っこはやはりウィーンにあるんだなと感じさせられました。
ついでながら、このヘリテージシリーズのセルのCDは抜群に音がいいです。これも49年の録音とは到底思えないような素晴らしさですので、付け加えておきます。

多くの方が推薦されたセルの録音

そんなわけで、随分とたくさんの方から、それぞれお勧めのセルの録音をあげてくれました。

  • メンデルスゾーン:「真夏の夜の夢」序曲/クリーヴランド管弦楽団(ソニー)
  • シベリウス:交響曲第2番/コンセルトヘボウ管弦楽団(フィリップス)
  • ベートーヴェン:交響曲第5番/コンセルトヘボウ管弦楽団(フィリップス)
  • モーツァルト:セレナード第13番ト長調K525(ソニー)
  • モーツァルト:ピアノ協奏曲第23番イ長調K488》ピアノ:カザドッシュ(ソニー)
  • ドヴォルザーク:交響曲第8番ト長調(EMI)
  • ブラームス:交響曲第3番へ長調(ソニー)

どれもこれもすぐれた録音です。

それ以外に推薦したい録音

私がセルを高く評価するのは、もちろん世上よく言われているように、その素晴らしいアンサンブルを作り上げた「オーケストラビルダー」としての手腕にあります。
確かにその手腕は素晴らしくも冷酷で、様々なエピソードが伝わっています。
グールドに対する、「君のお尻の肉を三分の一インチスライスしてもらうと、すぐに演奏を始められるのだがね」などは典型です。

しかし、それだけなら、これほどまでも入れ込まなかったことも事実です。
実は、私が彼を評価するのは、彼の中にたぎっているロマン性にあります。こう言うと、冗談も休み休み言えと言われそうですが、これは事実です。
確かにロマンチックな演奏と言えば、それを表にすべて叩き出すような人もいます。バーンスタインやテンシュテットなど、特に、テンシュテットはセルとは対照的ですが私は大好きです。

しかし、セルはその様な露骨さは良しとせず、いつもその熱いロマン性を強固な形式観の鎧にしまい込んでいました。
そのためか、情緒纏綿とした音楽をセルが演奏すると、緊密なアンサンブルと強固な形式観を通して、その情緒がより高い次元で匂い立ってきます。その様な表現はセル以外からはついぞ聞けなかった物です。
ちょっとした小品の中からそんなセルの素顔が覗く演奏も捨てがたく私は大好きです。

  • コダーイ:組曲「ハーリ・ヤーノシュ」

特に「間奏曲」は素晴らしい。私はこの曲を聴くたびに、涙を振り払いながら踊り続ける男の姿が浮かび上がってきます。

  • モーツァルト:「協奏交響曲k.364」

この第2楽章の透き通った詠嘆は、他では聞けないと思うのですが。

  • ドヴォルザーク:「スラブ舞曲」

少し硬すぎると言う人もいると思いますが、これほど整然とオケをならしながら、その底から熱いものを感じる演奏はそうざらにはないと思います。

その他にも、モーツァルトの交響曲28番なんかも、実に素敵な演奏です。
いかがなものでしょう?

最近登場した海賊盤(ライブ録音)

来年はセルの没後30年にあたるためか、最近ライブ音源がポツポツとCD化されています。30年を前にした露払いでしょうか。
もちろん、すべて「海賊盤」と呼ばれる範疇の物でしょうが、録音状態は良好な物が多く、セル好きには貴重な物です。興味のない方には退屈かも知れませんが、簡単に紹介させてもらいます。

  • 「シューベルト交響曲9番」ケルン放送交響楽団(CoupletCCDー3003)

セルとケルンの組み合わせは珍しい。モノラルですが録音は優秀で鑑賞領域です。

  • 「モーツァルトアイネ・クライネ・ナハトムジーク」「ウォルトンヒンデミットの主題による変奏曲」VPO(HosannaHOSー10)

セルと強い結びつきのあったウォルトンの録音は、スタジオ録音が長らく廃盤になっているだけに貴重。

さらに、ILLUMINATIONというレーベルから、クリーブランドとのライブ音源が次々とCD化されました。

  • 「ベートーベンピアノ協奏曲5番(P:クリーフォード・カーゾン)」「ベートーベン交響曲5番・6番」「エグモント序曲」「シュテファン王序曲」(iLLーSzeー20/21)
  • 「ブラームスピアノ協奏曲1番(P:ルドルフ・ゼルキン)」「ブラームス交響曲1番」(iLLーSzeー22/23)
  • 「モーツァルトピアノ協奏曲21番(P:ロベルト・カサドシュ)」「モーツァルト交響曲41番」「シューベルト交響曲9番」(iLLーSzeー24/25)
  • 「ハイドン交響曲92番」「シューベルト交響曲8番」(iLLーSzeー26)
  • 「シューマン交響曲3番」「シベリウス4番」(iLLーSzeー27)

この中では、モーツァルトの41番が、ルガーノライブとして有名なシューマンの2番を思わせるような白熱の演奏でした。
モーツァルトで白熱の演奏というのは場違いな感じですが、そう言うしかないような演奏が展開されています。
コンチェルトも、カーゾン・ゼルキン・カサドシュと錚々たるメンバーで聴き応え満点です。特にゼルキンのブラームスが素晴らしいと思います。

シベリウスを除けば、すべてスタジオ録音が残されていますが、ライブではまた違った顔を見せてくれるので興味は尽きません。

  • 「ウェーバーオベロン序曲」「モーツァルト交響曲40番」「シベリウス交響曲2番」「ベルリオーズラコッティ行進曲」(FKMCDRー28/9)

これはかの有名な来日演奏会のライブ録音。シベリウスに関してはクリーブランド管の自主制作CDとして出たことがありますが、それ以外は初めてのCD化だと思います。

そして最後に、

  • 「チャイコフスキーピアノ協奏曲1番」P:ウラディミール・ホロヴィッツニューヨーク・フィル(PALEXACD-0511)

史上最強かつ最狂の演奏と言われていたものですが、再びCD化されました。1953年1月12日のライブ録音ですが、当時の物として最良の部類に属する録音で、鑑賞には何の支障もありません。


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2 comments

  • naoki

    前から貴殿のサイトは拝見していたのですが、しばらくご無沙汰していました。久々に見たらセルの名演奏について述べられているではありませんか!挙げられている演奏はどれも素晴らしいものですし、その他世評に名高いその他の演奏(ドボ8、ベートーヴェン特に英雄、モーツアルトなど)も当然素晴らしいものだと思います。けれども、少しマイナーなものかもしれませんが、私的にはずせないおススメの名演を今さらながらなのですが挙げておきたいと思いました。それはラヴェルの「亡き王女のためのパヴァーヌ」とモーツアルトのクラリネット協奏曲です。セルならではの清潔感あふれるサウンドとフレージングの的確さがよく表れている演奏だと思います。あと、モーツアルトのピアノ協奏曲第25番(ソロ:レオン・フライシャー)もセルらしい切れ味の鋭い演奏で好きですね。

  • たかもり

    いつもお世話になっています(一方的に)。
    昨日(2015.11.14)定期会員になっているオーケストラコンサートに行きました。
    レオン・フライシャーの指揮でプログラムはベートーヴェンのコリオラン序曲、モーツアルトのPコンNo12、これは弾き振り、それにシューベルトの交響曲No9.
    近頃こんな心地良いプログラムも珍しいのですが、演奏後の拍手の中で、レオン・フライシャーが管楽器奏者らをねぎらい、近くまで出向いて握手をする時、オーケストラの団員の方から握手を求めてくるという珍しい光景を見ました。高齢のピアニスト兼指揮者のおぼつかない足元を心配して、というより演奏者も彼との音楽を楽しみ、満足したという表情をしており、団員同士お互いに笑みを浮かべて喜んでいました。オーケストラの中からの拍手(?)も多く、床を靴で鳴らす「拍手がわり」音はありませんでした。高齢の彼は舞台にのそのそと歩いてきて指揮台の椅子に座り、ゆっくりとメガネを取り替えスコア(プログラム全部スコアあり、きちんとページをめくっていました)を広げ、最小限の動きの指揮振りでした。演奏は気のせいかジョージ・セルのそれぞれの曲の録音にとても近く感じました。 ベートーヴェンのピアノコンチェルトでのコメントにセルとレオン・フライシャーの方向の同一性について述べられていますが、実演を聞いて、納得させられました。

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