評価の分かれる演奏~クナのブル5

この録音は評価が分かれますね。

ブルックナー:交響曲第5番 変ロ長調
ハンス・クナッパーツブッシュ指揮ウイーン・フィル 1956年録音

Knappertsbusch朝比奈、ヴァント、シューリヒトというような正統派のブルックナーを良しとする人たちにとっては、これはもう「許しがたい演奏」とうつるようです。
まずは、シャルクの改鼠版を使っているということで許せない。終楽章のコーダもただの大風呂敷にしか聞こえない。中には、クナはライブでこそ真価を発揮するからセッション録音は全部ダメ!!という過激な方もおられるようです。
しかし、一般的には、クナのブルックナー録音の中ではミュンヘンフィルのブル8と並んでもっとも人気があります。
私も、初めてこの録音を聞いたときは、最後の最後で何が起こったのかと腰が抜けそうになったものです。おかげで、その後は「正しい原典版」を聞くと物足りなさを感じて、「5番はやっぱり改訂版に限るなぁ!」などと恐れ多いことをほざいてしまうのです。

それにしても、どうしてブルックナーだけは「特別」な聴き方を求められるのでしょう?そういえば、アシュケナージが指揮者稼業を始めたときに「ブルックナーなんてアマチュア作曲家だ!」みたいな事を発言して袋だたきにあったことがあります。
でも、正直言うと、あのアシュケナージの発言は理解できるような気がするのです。
だって、ブルックナーがわけの分からない音楽を「交響曲」と称してリリースし始めたのを、ハタでせせら笑っていたのはブラームス先生だったのです。ブラームス先生もブルックナーのスコアを見て「ド素人!」と吐き捨てたそうです。
何しろ、ブラームスにとって交響曲というのは、あの偉大なベートーベンの跡を継ぐものであり、ちょっとやそっとでは手を出せない神聖な領域だったのです。そこへ、素人同然の音楽を「交響曲」と称して発表し始めたのですから、かなりカチンときたようです。
そして、一説によると(かなり確度は高い)、そのカチンときたがゆえに、長く放置していたファーストシンフォニーを完成させる気になったと言うことです。

問題は、ブルックナーの「未熟さ」は「ハイドン – ベートーベン」という系譜の延長線上に置いたときに「未熟」と言えるのであって、「俺の音楽はそんなものを超越したところにあるもんね!」と開き直れば、その「未熟」は「神聖なる異形」に転化するということです。
アシュケナージは偉大なピアニストであり、そこに己のアイデンティティを担保した上で指揮者稼業に転出したので、コワイもの知らずで正直に発言することができました。しかし、指揮者稼業だけで生きている人には怖くてそこまでは言えないでしょうね。でも、心の中ではそう思っている指揮者はたくさんいるはずです。

「何や、このスコアわけ分からんがなぁ・・・!!」

ここで道は二つに分かれます。

わけが分からなくても、ひたすらブルックナーを信じてわけの分からない部分も忠実に演奏するのか、自分なりにわけが分かるように整理して演奏するかです。
朝比奈は基本的に何も考えない人なので、ひたすらブルックナーのスコアを音にして「巨匠」となりました。愚も徹すれば偉大に転化するもので、大阪人の私はそういう朝比奈にココロから拍手をおくるためにフェスティバルホールにせっせと足を運んだものです。
でも、まじめに考え始めれば納得がいかないのは当然で、それなら「改鼠版」を使うか!と言う考えがあっても不思議ではありません。あの「改鼠版」というのは、あまりにも「未熟」なブルックナーのスコアを何とか聞けるように「後期ロマン派風のシンフォニー」に仕立て直したものだからです。
また、改鼠版は使うまでの踏ん切りはつかなくても、後期ロマン派風の交響曲として演奏する指揮者はたくさんいました。私の大好きなテンシュテットなんぞはその典型でしょうね。

しかし、そういう仕立て直しは許せないという人も当然いるわけです。
彼らは「神聖なる異形」は神聖なものとして取り扱うべきであって、それを後期ロマン派風に仕立て直すなどは「言語道断」と一刀両断にします。「面白ければいいジャン!」という人は「異形」を「異形」とした演奏も「面白さ」の一つとして受け入れるのに対して、至上主義者は仕立て直しの演奏を蛇蝎のごとく忌み嫌って絶対に認めようとしません。
おそらく、この「交わることのない双曲線」がブルックナーを特別な存在にしているのでしょう。

なお、一部ではこの録音に対して不満を述べておられる方を見かけますが、私にはよく理解できません。
確かにステレオ録音の黎明期で試行錯誤の時期だったとは思いますが、音響全体が把握できなようなアンバランスな録音とまでは思えません。クナのブル5では唯一のステレオ録音としての価値は十分にあるクオリティだと思います。

1件のコメント

  1. 版の問題は別にしても、やはりクナとウィーンフィルのブルックナーが
    聴けることは嬉しいですね。ステレオ録音なので尚更です。
    しかも、このページで聴けることも好ましいですね。
    ウィーンフィルの音色も本当に素晴らしいです。

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