PCならばデジタル情報もブラックボックスではなくなる
一件は百聞にしかずです。一例を挙げてみましょう。
「Frieve Audio」というとて もすぐれたプレーヤーソフトがあります。この、「Frieve Audio」のシェアウェア版として「Frieve Audio M-Class」というのがあります。この2つのソフトは機能的にはほとんど差はないのですが、音響特性を計測して自動的に周波数特性をフラットにすると いう機能をシェアウェア版の方は持っています。
実はこれとほとんど同じ機能を持ったグラフィックイコライザーをアキュフェーズが発売しています。
DIGITAL VOICING EQUALIZER DG-38。60万円以上します(^^;。
しかし、機能的には3000円ちょっとの「Frieve Audio M-Class」の方がすぐれているのではないかと思います。
例えば、
- 「音場の自動測定・自動補正をさらに進化させ、二つのイコライジング・モジュールにより音場補正(ヴォイシング)機能と音場生成(イコラ イザー)機能を独立、SA-CDまで含めた全てのソースをディジタル処理します。」→「Frieve Audio M-Class」でもできます。
- 「大型ワイドカラー液晶ディスプレイを採用し、スタイラス・ペンで希望の特性カーブを描いて音場調整するなど、より簡単でスピーディな操作を可能にしました。」→「Frieve Audio M-Class」でもできますが、パソコン画面の方が操作がしやすいです。
- 「音楽信号の周波数成分をリアルタイムで観測できる、スペクトラム・アナライザー機能を装備しています。」→「Frieve Audio M-Class」でもできます。
- 「40bit 浮動小数点演算タイプDSP 搭載」→「Frieve Audio M-Class」ではイコライザ、リサンプリングなど全ての内部処理を64bit浮動小数点で行います。
- 20パターンのデータを保存→「Frieve Audio M-Class」では保存数に制限はありません。
ちょっとアキュフェーズには意地の悪い比較になりましたが、それは「DG-38」が発売されてからパソコンのパワーが飛躍的に上がったからです。その意味でも、このパソコンの有り余るパワーをオーディオの世界に導入しない手はないわけです。
「Frieve Audio M-Class」を使って音響特性の測定と自動補正を行ってみます。
ユング君が使用した機器は
オーディオインターフェースとしてE-MU ( イーミュー ) /0404 USB・・・実売価格23000円程度
測定用のマイクにM-AUDIO ( エムオーディオ ) /PULSAR
・・・実売価格12000円程度
を使用しました。
パソコンからデジタルデータを外へ運び出すためのサウンドカード、もしくはオーディオインターフェーズに何を使うかは重要なポイントなのですが、 そのあたりの細かいポイントは今回は触れる余裕はありませんが、とりあえずお金をかけないのならばE-MU ( イーミュー ) /0404 USBは結構いい選択肢ではないかと思っています。
マイクに関しては20kHz付近まで補正する場合はそれに対応したマイクが必要になりますから、1万円ちょっと程度のコンデンサーマイクは必要 になるでしょう。なお、誤解のないように付けくわえておきますが、ここで使用した機器は音響特性を測定するためだけに使うのではなくて、これからのPC オーディオの世界の中で活躍してくれますから、決して高い買い物ではないと思います。
まず、「Frieve Audio M-Class」を起動して、イコライザーの画面の「音響特性の測定」というボタンをクリックします。
すると、次のような音響特性の測定画面が表示されます。
この後は、STEP2 STEP3 STEP4と進めていけば、自動的に音響特性を測定して自動補正をしてくれます。
STEP2では測定に使うノイズの大きさを調整します。
STEP3ではそのノイズを使って音響特性を測定します。
これが測定された音響特性です。
部屋の音響特性も加味されるのでけっこう複雑な特性です。
そして、これがその音響特性ををフラットにするためのイコライザーの設定です。こういうのを見ると、人間の聴覚だけを便りに勘で補正してもよい結果が得られない理由が分かります。手動では絶対にこういう設定は不可能です。
さて、このようにして補正した結果なのですが、これはもう驚かされます。一聴するとあっけないほどにおとなしい音になったような気がします。雰囲 気的には何よりも中音域の響きが薄くなってやや高域がきつい目に感じらます。しかし、これが周波数特性をフラットにしたときの音なのです。そして、こうい う音の傾向はアキュフェーズの「DG-38」を使ったときにも同様の傾向になります。
しかし、じっくり聞き込んでいくと聞き疲れのしない音であることに気づかされます。そして、何よりもオーディオ機器が持っている素性がハッキリとさらけ出されることにも気づかされます。
パソコンを再生機器の中核に位置づけることはなかったとしても、この周波数特性の測定と自動補正ぐらいは経験しておいても損ありません。わずか3 万円ほどあれば実行できることです。一台何十万、何百万という機器を購入しているマニアならばただみたいなお金でしょう。そして、その音を基準に自分のシ ステムを見直してみれば、どこに問題があるかはすぐに分かるはずです。
とりわけ、スピーカーの音響特性はカタログに記載されている無響室でのデータを見ても何も分かりません。何よりもそれが設置されている部屋の音 響特性に大きく影響を受けます。そして、その特性はセッティングなどの使いこなしだけではカバ?しきれないほどの影響力を持っています。このページでス ピーカのセッティングについて書く余裕はありませんので、例えばこちらの ページなどを参考にしてください。そして、そこまでセッティングを詰めた上でこの音響特性の測定と補正をしてみると、劇的なまでに音が変わるのが分かると 思います。それはある意味では驚くほどに自己主張をしない素直な音ですが、それこそが自分の機器が持っている本来の音であることに気づかされますし、何よ りも楽器の生音に近い響きであることにも気づかされます。
この基準点を知っているのと知らないのとでは大違いです。確かに、このままでは人によっては物足りなさを感じるかもしれません。そう言うとき は、ここを基準にさらに自分の聴覚を信じてイコライザをいじればいいのです。昔のイコライザと違って音の入り口の部分でデジタルに操作するのですから音質 の劣化は原理的には発生しません。実際、ユング君もあれこれいじって遊んでみたのですが、その性能の良さには驚かされます。ただ、いじったときは少しは面 白いと思っても結果的には最初のフラットの特性に戻っている自分に気づかされます。長く聞き続けていくには、このような癖のない素直な音が一番と言うこと なのでしょう。
ただし、PCオーディオの世界で「音作り」ができるのはこれだけではありません。というか、これはほんの一部です。パソコンという機器を使えば、 本当に自由自在に音を操作できます。まさにアナログ時代の趣味性がよりグレードアップした形でデジタルの世界に復活したのです。これを楽しまない理由はあ りません。