「DEQ2496」を使ってできること(3)~「PEQメニューを使った音創り」

前回はGEQメニューを使って周波数特性のデコボコを適度な範囲でつぶす事によってニュートラルな音を目指しました。その状態の音はエレクタ・アマトールとは信じがたいような音になっています。(^^;
ただし、「信じがたいような音」というのは「酷い音」というのではなくて、エレクタ・アマトールが持っている音の癖みたいなものがきれいさっぱり抜け落ちて、隅から隅までクッキリと光が当たっているような高解像度な音になってしまったと言うことです。
考えようによっては、ここで終わりにしてもいいと思う人もいるかもしれません。実際、「DEQ2496」を導入しても「AUTO EQ(自動補正)」機能しか使っていないという人が多数のようですから、イコライザ機能でピーク、ディップを潰して普遍性の高い音になればそれで十分というのも一つの選択肢です。

しかし、録音現場で録音のあらを探すような聴き方をリスニングルームに持ち込むことに違和感を覚える人は多いでしょう。私もまた同様で、できればそこをスタート地点として自分にとって「聞いて楽しい音」を作らなければ、「DEQ2496」を導入した意味がありません。そして、「DEQ2496」を導入して驚かされたのは、(こんな事を書くとオーディオ屋に殺されそうですが)「DEQ2496」のちょっとした操作で、まるでオーディオ機器を交換したような楽しさが味わえると言うことです。

客:「どうにもこうにも低域がズンとくるような感じが出ないんですよね」
店:「このパワーアンプでは苦しいでしょうね。ワンランク上のこちらのアンプをお使いいただければ低域の押し出しはかなり改善されると思いますよ」

客:「最近は広大な音場に音楽が広がらないといけないようなんですが、家のシステムはなんだか真ん中に固まっているんですよね」
店:「エンクロージャーの不要な共振を徹底的に排除した、こちらの超お高いスピーカーを使っていただければお望みの世界が手にはいるかと思います、」

もちろん、スピーカーやアンプには基本性能の高さが必要です。何を持って「基本性能が高い」とするのかはひとまずおくとして、とにかくある程度の物量を投入してデジタル信号をアナログ信号に忠実に変換する性能を持ったシステムであれば、「DEQ2496」のちょっとした操作で、それなりの「低域のズン」も、それなりの「広大な音場」も実現が可能です。

私は、高価なアンプやスピーカーの存在を否定するものではありませんが、そう言う機器を日本の現実的なリスニング環境で満足がいくように鳴らすのには途轍もなく高いスキルが求められます。そして、そう言う高いスキルがなければ、日本の現実的なリスニング環境では、アンプやスピーカーを買い換えて悪戦苦闘しても、結果としては満足行くような「低域のズン」も「広大な音場」も実現しない可能性の方が高いのです。
さらに言えば、そう言う悪戦苦闘の末に手に入れた「低域のズン」や「広大な音場」は、日本の現実的なリスニング環境においては、「DEQ2496」のちょっとした操作で手に入れたそれなりの「低域のズン」やそれなりの「広大な音場」と大差ないのではないかという「恐ろしい考え」も頭をよぎるのです。

やはり、オーディオにおいてはリスニング環境というのは絶対的な制限となります。ですから、その環境にフィットしたアンプやスピーカーの規模というのが存在するような気がします。そのあたりを無視して、ただただ物量を投入しても結果は芳しいものにはならないと思います。
それならば、リスニング環境にフィットした、そしてなおかつ基本性能のしっかりとしたアンプとスピーカーを用意して、あとは「DEQ2496」を核として音創りをしていくというやり方が、単なるコストパフォーマンスというようなチマチマとしたレベルの話ではなく、オーディオの本筋の一つとして認めてもいいのではないと思うのです。
まあ、志が低い!!と言われれば、それまでですが・・・(^^;

PEQ(パラメトリック・イコライザ)メニューで音を創る。

GEQ(グラフィック・イコライザ)を使ってニュートラルな音へと下準備がすめば、次はいよいよ、PEQ(パラメトリック・イコライザ)メニューを使って自分好みの音へと音を創っていきます。

PEQ(パラメトリック・イコライザ)の設定画面はこんな感じになっています。

<1ページ>
peq_1

<2ページ>
peq_2

見た目には1ページ目の方が分かりやすいのですが、仕組みを理解するには2ページ目の方が向いています。2ページを見てもらえれば、設定項目が「FREQ」「BW/OCT」「GAIN」の3つあることが分かります。
PEQ(パラメトリック・イコライザ)は基本的には3つのパラメータを変動させるようになっています。

  1. 軸となる周波数→「FREQ」
  2. 変動させる帯域幅(Q と呼ばれる)→「BW/OCT」
  3. 1と2で指定して変動させる帯域のゲイン→「GAIN」

つまり、GEQ(グラフィック・イコライザ)は決められた周波数帯域をピンポイントで上げ下げするのに対して、PEQ(パラメトリック・イコライザ)は指定した周波数を中心としてその前後を緩やかに増減します。
古い人ならばピンとくると思うのですが、昔のプリアンプには必ずついていたトーンコントロールのような機能です。
私が今も大事に使っているアキュフェーズのプリアンプにも優秀なトーンコントロールがついていますが、これを弄ると音の雰囲気はかなり変わります。ただ、PEQ(パラメトリック・イコライザ)と比べると大雑把な調整しかできず、また、アナログ領域で音を弄るのでアキュフェーズといえども音質面での劣化が気になりました。

それと比べると、「DEQ2496」のPEQ(パラメトリック・イコライザ)は音質面の劣化はほとんど気にする必要がありませんし、なによりも上記の3点をピンポイントで設定できるので、自分の好みに合わせたきめ細かい音創りが可能となります。

まずは、極めてニュートラルな方向にふれたエレクタ・アマトールの音をエレクタ・アマトールらしい音に戻します。
これに関しては、スピーカーの周波数特性を測定している中でだいたいの察しはついていました。エレクタ・アマトールは上から下まで結構フラットに伸びている基本性能の高さを持っているのですが、特徴的なのは人間の可聴帯域のど真ん中とも言うべき650Hzあたりを中心として緩やかに盛り上がっている事だと見当をつけていました。

そこで、「軸となる周波数(FREQ)」を632Hzに設定をして、「変動させる帯域幅(BW/OCT)」と「変動させる帯域のゲイン(GAIN)」をあれこれ変化させてじっくりと音楽を聴いてみました。ここは、「音創り」ですから、測定データよりは「聴感」が頼りです。そして、その「聴感」というのも、音楽の一部を聞いてパッと判断するというのではなく、好きな音楽を何曲もじっくり聞いてみて、最終的に「楽しく」聞けているかどうかという長いスパンでの「聴感」が頼りになります。
そんなこんなで、仕事から帰ってきては毎日1時間ほどはいろいろなジャンルの音楽を聴き続けた結果、とりあえずは

  • 「FREQ→632Hz」「BW/OCT→3/2」「GAIN→+2db」

という結果になりました。
ピシッとフォーカスがあっていながら、音の雰囲気はエレクタ・アマトールらしい温もりを感じるものとなりました。

ここで、さらに、理由はよく分からないのですが(^^;、世間でよく言われている「良い音の三ツ山特性」というのを加味してみました。

  • 「FREQ→50.2Hz」「BW/OCT→3/4」「GAIN→+0.5db」
  • 「FREQ→10023Hz」「BW/OCT→3/4」「GAIN→+1db」

これも、いろいろやってみたのですが、現時点では上記の設定を加味した方が音が美味しくなるような気がします。あってもなくても変わらないような隠し味的な操作なのですが、設定をオフにすると気のせいかもしれませんが愛想がなくなるような気がします。
とはいえ、このあたりはまだ弄りはじめたばかりなので、もっとじっくりと聞き込んでよりベターな設定を探りたいと考えています。

その状態での測定データです。

sine_4

sine_4_S

確かに、可聴帯域のど真ん中に緩やかな盛り上がりができています。10Khzあたりの盛り上がりもPEQ(パラメトリック・イコライザ)の設定がしっかりと現実の音に反映していることをうかがわせます。
(追記)
その後、さらにあれこれと聞き込んでいくうちに、ど真ん中の設定を以下のように変更しました。

  • 「FREQ→632Hz」「BW/OCT→2」「GAIN→+1.5db」

変動させる帯域幅を少し広くして、ゲインを心持ち下げました。
これだけでも音の雰囲気ははっきりと分かるほどに変わります。恐るべし、PEQ(パラメトリック・イコライザ)です。

おそらくは、これからもこのあたりの設定は少しずつ変わっていくかと思いますが、少なくともこの一ヶ月ほど「DEQ2496」と遊んでみて、「音」というものの形が少しずつ自分の中で見えてきたような気がします。
この「見えてきた」ような感覚が実に楽しいのです。

「DEQ2496」の操作は最終的には無味乾燥な数値の変更に帰結するのですが、その数値の変更によって変化する音の傾向が少しずつ自分の中で見えつつあるのです。
ですから、「ここの数値をこう弄ればこんな音になるだろう」という予測がピッタリとは行かなくても方向性が一致したときは「やったぜ!!」という雰囲気になります。

同時に、あれこれ弄っている中で、いかにデジタルといえどもイコライザの限界も理解できるようになってきました。世間で今も根強くあるイコライザへの不信感は、そう言う限界を超えたところで使われることによって生み出されたのではないかと思うようにもなってきました。

「DEQ2496」には、PEQ(パラメトリック・イコライザ)やGEQ(グラフィック・イコライザ)以外にも、様々な機能が搭載されています。そして、そう言う機能をフル活用して使いこなしていけば、音の雰囲気は面白いように変わります。
次回からは、そのあたりの面白さにイコライザが持っている限界も含めて、自分なりの経験をポチポチと報告できればと思います。(現時点で持ちネタは3つほど・・・^^v)