今回はイコライザ絡みの話はお休みにして、電源関係の話題です。
これに関しては少しばかりお復習いをしておきたいと思います。大部分の人にとっては「今さら」という内容なのですが、このサイトは「これからPCオーディオをやるぞ!!」という人が意外なほどたくさん訪れてくれているようなので、できる限り「分かるやつだけ分かればいい」というスタンスは避けたいと思っています。
電源で音が変わるのか
ほんの2~3年前まで、「デジタル不変神話」は根強く残っていました。
そこで、その神話に挑戦すべく「PCオーディオの都市伝説」という内容で、自分なりに検証を積み重ねたことがありました。
このコーナーは意外なほどの反響を呼んで、実に多くの方々から貴重なコメントを寄せていただき、多少なりとも「デジタル不変の神話」を突き崩すために貢献できたのではないかと思っています。その時に取り上げた主な内容は以下の通りです。
- PCの電源で音が変わる
- LANケーブルで音が変わる
- USBケーブルで音が変わる
- リッピングソフトで音が変わる
- 可逆圧縮といえども圧縮ファイルは音が悪いのか
CDの開発に関わった技術者たちは「ソフトがデジタルになることによってオーディオ装置による音の違いはなくなる。」と言い切りました。これが、「デジタル不変神話」の始まりです。
その「神話」のココロをひと言で言ってしまえば、「データが同じなら音は同じだ!」に尽きます。
この神話は、PCオーディオ黎明期において、その進歩を阻む大きな足かせとなっていました。何故ならば、この神話に異議を唱えたのがアマチュアのオーディオマニアだったのに対して、その神話にしがみついたのが技術畑に詳しい専門家サイドだったからです。
つまり、デジタルに関する専門知識が豊富であればあるほど、「PCの電源で音が変わる?馬鹿言うな!!」「ケーブルで音が変わる?何を寝言を言っているんだ!!」「リッピングソフトで音が変わる?変わるわけないだろう!!」となったのです。
そして、アマチュアレベルの試行錯誤を「オカルト」と切って捨てていきました。
しかし、そう言う専門家サイドの頑なさも分からないわけではありません。理論的な根拠も確認できないのに試行錯誤の有効性を認めることは、技術者の「良心」に反する行為だとも言えるわけです。
例えば、「PCの電源で音が変わる」に関しては概ね次のようなやりとりがありました。
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「Voyage MPD Starter Kit」で電源を強化すると音がよくなるという私なりの事実報告をおこないました。当然のことですが、「PCの電源で音が変わる」というのは私が発見したことではなくて、この時期においても、すでにこの世界では「常識」に属する話でした。
ところが、これ対して、
「ALIX自体はボードに実装されたDC-DCコンバータで動作していますのでこの音質差がなぜ発生するのか考えてみると不思議で仕方ありません。」という疑問が呈されました。
簡単に言えば、ALIX自体は内部的にもう一度スイッチング方式のDC-DCコンバータを使って直流電圧を変換し直しているんだから、スイッチング電源であろうとアナログ電源であろうと結果的には同じ事だろう、と言うわけです。実に納得のいく疑問の提示です。
しかしながら、この理論派の疑問に対して試行錯誤派の陣営から
「PC電源を交換して音が変わった経験をお持ちでしょうか?」という投げかけがあって「PC電源の交換で音が変わった経験はありません。正直に言うとデジタル処理してデジタル信号出しする機器で音が変わってしまってはオカルトの世界です。」と返されました。
ここで、定番の「オカルト」が登場するわけです。(^^v
しかし、この疑問を呈された方は理論に凝り固まる頑なさとは無縁だったようで、入手したALIXにトランス式ACアダプタを使って試してみる度量はお持ちだったようです。
その結果として、「トランス式ACアダプタに変えてみました。こちらの方が音がいいですね。十分に納得できる説明がつかず困っています。」と言うことになってしまったわけです。
「ALIX → USB DUAL AUDIO → メモリバッファ付きDAI → DACチップで運用しているので尚更変わってもらっては困るんです。しかし結果が全てです。説明はその内こじつけて自分を納得させることとします。」と言うことで落ち着いてしまいました。
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長々と引用してしまいましたが、このやりとりの中に「デジタル不変の神話」に対する攻撃パターンとその結果が典型的に集約されています。
攻撃パターンは常に「とにかく一度やって見ろよ!!」です。(^^;
そして、その提案をオカルトと切って捨てて実際に手を動かそうとしない人はそこから一歩も前に進みません。
しかし、その試行錯誤に意味があるのならば、受け入れて試した人は「変わる事実」に突き当たり「十分に納得できる説明がつかず困ってしまう」事になります。しかし、最後は「結果が全てです。」という事で「説明はその内こじつけて自分を納得させることとします。」と言うことになるのです。
こういうやりとりを振り返ってみても、PCオーディオの世界を発展させていくためにはアマチュアの突撃精神と専門家の理論的整理が上手くかみ合うことが大切なんだと痛感します。しかしながら、オーディオメーカーも含めて、未だに専門家の貢献はアマチュアの突撃精神に追いついていないように見えるのが残念です。
と言うことで(前ふりが長くなりすぎましたが)、今ではPCオーディオといえども電源で音が変わるという主張は完全に市民権を得ています。ただし、何故変わるのか、その理論的な説明は十全になされているわけではありません。それがまた困ったことなので、そのあたりの理論的な整理をしっかりとやってくれる人が現れることを期待しています。
NASの電源強化で音が変わる
さて、PCオーディオといえども電源で音が変わることが認められたならば、次はどの部分の電源を強化すれば効果が上がるのかが問題となります。
まず、間違いがないのが、再生用PCの電源強化です。
再生用PCはひたすらシンプル化の道を突き進んでいますから、今や付属の電源アダプタで動作させるのが一般的です。ところが、この付属の電源アダプタは安価なスイッチング電源を使っているので音質的には芳しくないというのがこれまた常識となっています。
次にDDCやDAC、そして外部クロック等ですが、これまた付属の電源よりは何らかの対策を施した電源の方が音質的には明らかに有利です。ですから、この部分もできれば電源を強化したいところですし、その効果は完全に市民権を得ています。
この辺りまでは今や「常識」の範疇に入っています。
そこで、今回は、ここからさらに踏み込んで、再生用PCの手前に位置する「NAS」の電源を強化すればどれほどの効果があるのか試してみました。
再生用PCやDDC、DACあたりなら何とか苦しい理論づけもできますが、NASの電源強化となると個人的には完全にお手上げです。この辺りになると「説明はその内こじつけて自分を納得させる」ことも難しくなってきます。
しかし、世間ではNASの電源強化で音が変わるという報告を見受けるようになってきていますし、今までの経験から考えてみても「おそらく変わるだろう」という見込みもあります。さらに言えば、入力系の部分で電源強化の手がついていないのはこのファイル置き場のNASだけですから、一度は試してみたいという思いはずっと持っていました。
しかしながら、そう言う思いは持ちながら、この部分は長きにわたって手つかずのままでした。
理由は簡単で、市販の製品で付属電源に変わりうるものがなかなか見つからなかったからです。
私がPCオーディオ用に使っているNASはSynologyの「DSD212j」という機種です。付属の電源アダプタを調べてみると「12V 6A」と言うことで、かなりの大飯ぐらいであることが分かります。これだけの大容量を供給できるアナログ電源は市販品では見つけるkとができませんでした。
しかし、仕様を詳しく調べてみると「消費電力1:17.6W (アクセス時)、5.5W (HDD ハイバネーション時)」となっていますので、6Aも容量は必要がないようにも思えます。雰囲気的には「12V 3A」程度でも動作しそうな気はするのですが、実際に買い込んでから上手く動作しないと無駄金になります。
それなら自作すればいいじゃないか、と言うことになるのですが、これもまた今まで馬鹿なチャレンジを繰り返し、その結果として少なくない機器を「破壊」してきた前科(^^;があるので、最近は慎んでいます。
そんなわけで、この部分に関しては良さげな製品が見つかるまでは様子見としていたのです。そして、そんな様子見の中で今回目にとまったのがエルサウンドの「アナログ電源DC POWER SUPPLY 12V5A」でした。今までも、エルサウンドのカタログには「アナログ電源12V3A」というのがあって、これでも動作しそうな気はしていたのですが踏み切れずにいました。しかし、「12V5A」ならば間違いなく大丈夫だと思います。
エルサウンドさんにも直接問い合わをし、もしも駄目ならば「12V6A」に変更できることも確認してから注文をしました。
現物が届いたときの第一感は「でかい!」のひと言です。「CuBox」用に使っていた「5V4A」の電源と比べると大きさは3倍程度もあります。また、天板がパンチング穴付きなので内部がよく見えるのですが、かなり大きな電源トランスを積んでいます。なるほど、「12V5A」を供給しようとするとこれだけのガタイが必要になるんだと妙に納得した次第です。
さて、これをSynologyのNASにあてがった時の音ですが、やはりと言うべきか、不思議なことにと言うべきか、音は変わります。
ただし、その変わり方は再生用PCやDDC、DACに強化電源をあてがったときと比べると変化は小さいように感じました。しかし、変化は小さいですが、音は明らかに変化します。
私の駄耳で確認できた変化は以下の3点です。
- 全体的な静けさが増した。
- 中低域のあたりがふっくらとした感じになり落ち着きのある音になる。
- 高域で刺激的に聞こえるような部分が鋭さを失うことなしにスッキリと伸びるようになった。
おそらく、一番大きな変化は(1)のS/N比の向上だと思います。(2)(3)はその余得みたいなものでしょう。
ただし、何故に変わるのか、それはどうにもこうにも自分の中では説明がついていません。
最後に、「これからPCオーディオをやるぞ!!」という人のためにメインシステムのブロック図を紹介しておきます。
前回紹介したときからは少なからず変更しています。ちなみに、電源関係は黄色と赤いラインで表示しています。この3カ所の電源強化で音の雰囲気はかなり変わります。
<現在のメインシステムのブロック図>
ご無沙汰しています。
私も試しずみです。 おっしゃるように、静かになったように感じます。
イーサネットケーブル経由のノイズが減るためだと考えます。 yung 様もお使いですが、イーサネットケーブルのノイズフィルタ(ACOUSTIC REVIVE RLI-1 など)を使うと、NASの電源改良による音質向上は小さくなります。
なお、ハードディスクは、スピンアップのときにもっと大きな電流が流れます。 このあたりのデータシートをごらんになると、必要な電流量を予測できます。
電源は、とても大事というのは、まったく同感で、わたしもいろいろ実験してみました。
その結果ですが、合うものと合わないものがあるように思いました。
具体的には、エルサウンドの電源はよろしい。C●Eの物は、音が舐めるような感じがする。
海外製品では、PSオーディオの物は、勢いがつくが音は荒れない。ただし、音の強度が増す感じ。
これは、好き好きだなあと思いました。
アキュフェーズの高価な物があるようで、いま貯金中です。(笑い)
ところで、クロックを入れると音がうんと静かになります。余韻がきれいに伸びます。
電源強化と似ています。
NASの電源を変えたり、記録再生用PC(NUCですが)の電源を変えたりすると、ここで挙げられている変化、
静けさが増し(残響まで減るということではない)、中低域が充実し、高域の嫌味が減る
を感じることができるのは、当方でも経験済です。
昔の話題に戻りますが、使用するLANケーブルが単線かより線かでも音が変わってしまうので、機器の組み合わせ方は難しいと思います。