クロックとジッターについて考える(2)

前回はクロックとジッターに関わる基本的な内容について、自分なりに分かリ、理解できた範囲でまとめをしました。幸いにして、誤った解釈や理解不足についての基本的な突っ込みはいただかなかったので、とりあえずは、そう言う理解の上に話を進めていきたいと思います。もちろん、今後も、そう言う部分についての突っ込みは大歓迎ですので、気づいた点があれば遠慮なくご指摘ください。

敷居の高いクロックの導入

クロックとジッターに関わる問題は、今もって敷居の高い話題になっています。
おそらく、理由として以下の2点が上げられるのだろうと思います。

  1. 取り扱っている内容が非常に専門的で、理解しがたい。
  2. 実際にチャレンジしてみようとするとかなりコストがかかる。

もう少しわかりやすく大阪弁で表現すると、「何やよう分からんへんけど、金だけはかかりよる」と言う事です。

ALIXやCuBox、APU1Cという一枚基盤のPCを使った音楽再生というのも、「何やよう分からんへん」世界でした。しかし、「何やよう分からんへん」世界ではあったのですが、それでもその世界は10K円~20K円程度の出費で実際に試してみることができました。私の身の回りだけでも、「ALIX」関連2枚、「CuBox」関連3台、「APU」関連2枚、「Raspberry Pi」2枚がころがっています。
このうち現役で活躍しているのはメインシステムの「APU1D」とサブシステムの「ALIX.3D2」だけですから、無駄と言えば無駄なのですが、それでも、使われていない基盤も出費に見合う分だけは遊ばせてもらいました。
つまりは、この程度の出費ならば、「まあ、やってみなはれ!」となるのです。
結果として、多くの人の参入が可能となり「何やよう分からんへん」世界のメリットが共通認識として広く定着することになりました。

ところが、話がクロックとなるとそは簡単にはいきません。
オーディオメーカーが発売しているようなクロックになると安いものでも300K円程度はします。高精度のルビジウムクロックになると1000K円を超えるのが常識です。10K円~20K円程度で試せる一枚基盤のPCとは全く世界が違うのです。
そして、そういう「何やよう分からんへん」ものに300K円や1000K円も出せるのはアホか極道だけと相場は決まっています。

アホでもなく、オーディオ極道にもなりきれない健全なオーディオマニアがクロックの導入を踏み切れないのは当然のことなのです。

安物クロックの可能性

しかし、それでもなお、デジタル再生を突き詰めていくと、最後に残るのはクロックの問題です。「CD規格の中に収録された音楽信号をできる限り正確に拾い出す」ためには、どう考えても避けて通れない課題なのです。
お金に余裕がある人ならば最初から由緒正しきメーカー製のクロック(ESOTERIC G-02)を導入すればいいのでしょうが、そういう「何やよう分からんへん」ものにいきなり300K円を投下するのは貧乏人の性としてなかなかに難しいのが困ったところです。

そうなると、次の選択肢として浮上するのが、そう言う由緒正しきメーカー製のものではない「安価なクロック」を導入して「お試し」をしてみるとと言う選択肢です。世間ではこういう選択のことを「貧乏人の銭失い」といったりもするのですが、まあ仕方がないです。
選んだのが、「Evo Clock」でした。価格は約50K円程度ですから、この手の機器としては「最安値」でしょう。

Evo Clock

CLOCK

さらに、「最安値」と言うこと以外にも、メインシステムの中で不動の位置を占めているのが「hiFace Evo」なので、それとの「純正の組み合わせ」と言うことでおそらく失敗が一番少ないだろうという、きわめて貧乏性的発想からの選択でした。その後、「Evo Supply(生産終了)」も導入して電源のクリーン化もはかったので、トータルして100K円程度になったのですが、それでもクロック機器としては「最安値ゾーン」であることは間違いありません。

さて、これ以外の可能性となると、まずはMUTECの「MC-3」が思い浮かびます。

MUTEC「MC-3

MC-3

これは、「キット屋」さんが強く推薦していました。メーカーとしては生産終了らしいのですが、キット屋さんでは在庫があるようでまだ注文が可能なようです。(2014年10月現在)
定価は100K円程度で実売は85k円程度ですから、「Evo Clock+Evo Supply」よりも安価です。
では、この機器を使ってみての感想なのですが、これがもう驚くほど少ないのです・・・ホントに。
このあたりまで実際に突っ込んでやっている人は本当に少数派のようですが、なんとか「趣味はオーディオ。それが何か・・・」さんのサイトを見つけました。

少しばかり引用させていただくと・・・、

「PCオーディオの仕上げとして更なる音質向上のためにマスタークロックジェネレーターを使ってみようと考えたのでした。」
「実際に本機を手にしてみると、実にコンパクトで、しかもかなり軽く(重量0.7kg)、見た目も安っぽいです。」
「正直なところ、劇的な変化は感じられませんでした(汗)。でも、デジタル臭い音って何?と言いたくなるほど自然な音です。」
「目の前で演奏しているみたい・・・感想としてはこの一言に尽きます。」

そして、まとめとして「この程度の値段のものでは大きな効果はないのかもしれません。少々期待し過ぎたかもしれません。」と書かれています。
大絶賛だったキット屋さんの店主日記(今は閉鎖されていますが)とはかなり雰囲気が異なりますが、こちらの方が実体に近いのではないかと思います。

なお、メーカーとしては「「MC-3+」へ移行していて、こちらは定価が約150K円程度です。

MUTEC「MC-3+

MC-3+

メーカーとしての新しい売りは「MUTEC 独自の1G-Clock テクノロジーを採用し、高い処理能力を獲得。動作に無駄がなく、極めて低ジッターでの信号処理を実現。MC-3+ は超低ジッターのクロック信号で接続機器を同期できるほか、極めて高いレベルでデジタルオーディオ信号のリクロックが可能でデジタルオーディオ信号の音質を改善」らしいです。

しかし、定価が150K円程度になると、以下の2機種あたりも視野に入ってきます。

Antelope 「Isochrone OCX

Isochrone OCX

これは「逸品館」が絶賛しています。
「届いた試聴機を・・・繋いで音を出した瞬間!思わず息が止まってしまいました。こんなすごい音!今まで聞いたことがなかったからです。」ってんですから、たいしたものです。

しかし、当然のことながら販売店の評価は当てにはならないので、なんとか個人で使用されての評価がほしいのでネット上でさぐってみると、やはりこれも少ない・・・のです。
そんな中で漸く探し当てたのが「個人主義 音楽 オーディオ CD/DVD他」さんのサイト。

こちらも少しばかり引用させていただきます。

「ボーカルの周囲から音が消えた。透明感が増し、輪郭をハッキリ描き出し、音が浮き上がる。ピアノも弦も、それからsnapin’(指パッチン)の音も鮮明である。しかし、わずかな変化だー。」
「うーん、変化が微妙すぎる。PCオーディオとしての各機器を導入していったなかでは、もっともコストパフォーマンスは悪いと言わざるを得まい。」

やはり変化は微妙なようです。

TASCAM 「CG-1000

CG-1000

これは日本橋の老舗「河口無線」がよく取り上げていますね。
試聴会でもよく使われているみたいですし、確か4階に常時設置して、いつでもクロック有り・なしの状態を確認できるようにしているようです。

さて、これを個人レベルで評価しているサイトはないかと探したのですが、ほぼ皆無でした。そんな中で漸く見つけたのが「”一楽徒”の音楽とオーディオの研究室」さんのサイト。
ただし、個人のシステムで実際に使用しての評価ではなく、先述した河口無線のシステムを試聴されたようです。
そして、その感想も「外部クロック入力の入切で確かに効果のあることが分かりました」と一言だけ記されています。

なかなかクロック機器の導入は微妙なようです。

「Evo Clock+Evo Supply」を使用しての現状報告

それじゃ、お前が使っている「Evo Clock+Evo Supply」の評価はどうなんだと聞かれそうです。実は、この評価はかない以前に「EVO-CLOCKを使ってみました。」のページで簡単に報告しています。
ポイントを引用すると以下のようになります。

「実は初めてつないだときは「ヘェッ?」と思いました。確かに音の出方は少し変わったように思うのですが、率直に言えば「微妙~!」というところです。正直言って、これくらいの「変化」ならば5万円も投資して「クロックジェネレーター」を追加する意味はないなぁ・・・と思いました。」

やはり、上で紹介した各サイトの評価は正しいのです。
クロックを繋いでもその変化はきわめて微妙なのです。ただし、電源入れっぱなしにしておくと次第にクロックは真価を発揮してくるようで、何とか以下のようにフォローして自分を納得させています。

「演奏しているプレーヤーは変わらないのですが、今までよりは響きのいいホールで演奏しているような雰囲気になるのです。オーディオ的に言えば音場が改善されると言うことになるのでしょうが、何とも言えない一種独特な世界が立ち現れます。」
なんて書いていますね。そして、弱音部の表現や解像度の向上などにも触れています。
しかし、そう言う変化は機器をグレードアップしたときのような「音質面での改善効果」とは全く異なる変化であるが故に、基本的には最初に述べた「微妙~!」という域を出るものではなかったのです。

と言うことで、ここまで読まれた方は、1回目の記事でクロックを導入しようか!と思い始めた気持ちが一気に覚めてしまったのではないでしょうか。
実際、私も「Evo Clock+Evo Supply」を導入しながらも、その後はほとんどそのことに触れてこなかったのは、そう言う「微妙」な気持ちがあったからです。

しかし、最近になって、このクロックの導入に関して大きな勘違いをしていたことに気づきました。そして、その勘違いに気づいたが故に、この問題をもう一度真剣に考え直そうと思った次第です。
では、その勘違いとは何かと言えば、それは「システムのどの部分にどのような形でクロックをつなぐのか」という根本的な問題に無頓着だったと言うことです。

と言うことで、次回はこの「どこにクロックを繋ぐのか」という問題について考えてみたいと思います。