前回は「何とか音が出る状態にするのに1週間以上もかかってしまいました。はてさて、そうやって出た音はいかがだったかは、次回に続くです。」で終わってしまいましたので、今回は音のレポートです。
念のために、アナログシステムの構成をもう一度おさらいをしておきます。
- カートリッジ:SHURE「V15V-MR」(針は「JICO製のVN5MR」)
- ターンテーブル:Thorens 「TD 320 MKⅢ」
- フォノアンプ:audio-technica「AT-PEQ3」
- プリアンプ:Accuphase C-200V
- パワーアンプ:Accuphase P-300L(高域)+ROTEL 「1592TM2」(低域)
- サブウーファー:YAMAHA 「YST-SW500」×2
- スピーカー:Sonus faber 「ELECTA AMATOR」
アナログ時代の最後と変わっているのは、フォノアンプが「C-200V」の内蔵アンプからaudio-technica「AT-PEQ3」に変わったことと、パワーアンプにROTEL 「1592TM2」を投入してバイアンプ駆動になっていることです。
それから、サブウーファーのYAMAHA 「YST-SW500」が1台だったものを左右2チャンネルの2台に増強したことです。
ただ、どう考えてもアナログ最盛期のプリアンプに搭載されていたフォノアンプと、完全なデジタル時代になった2000年に、取りあえずアナログ再生が出来ればいいというレベルで作られたaudio-technica「AT-PEQ3」とではあまりにもクオリティが違いすぎるので、正直言ってあまり期待はしていませんでした。
Accuphaseの「C-200V」は1987年に投入されたモデルで、時期的に言えばこの前年に販売枚数ベースでCDがLPを追い抜いぬかれています。しかし、オーディオマニアの間では「アナログに較べてCDは音が悪い」と言うことが常識となった時期でもあるので、各オーディオメーカーはプリアンプにかなり優秀なフォノアンプを投入していた時期でした。
ですから、この「C-200V」のカタログには
「アナログディスクの再生に対応するため、イコライザーアンプを搭載しています。
MC/MMの切り替えは利得を変える方式が採用されていますが、それぞれのカートリッジの特性に合わせた専用入力回路を設け、同時に切り替え、MC専用ヘッドアンプ使用時に匹敵する性能を得ています。
また、MCカートリッジのインピーダンスによって負荷抵抗を選択するMC LOAD切り替えを搭載しており、10、30、100Ωの3種類から選ぶ事が出来ます。」
と言う文字が躍っていました。
それから、今回の件で驚かされたのは、長年しまい込まれたままだったLPをチェックしていて、「あれ?こんなレコードを買っていたんだ?」と思うようなものがぞろぞろ出てきた事です。
特に驚いたのは、クリフォード・カーゾンとボスコフスキー率いるウィーン・フィルハーモニー四重奏団とで録音したドヴォルザークのピアノ五重奏曲のレコードが出てきたことです。このレコードはよく見てみると、ジャケットの余白に「Clifford Curzon」のサインが入っているのです。
ネット上で紹介されている彼のサイン入りのレコードと較べてみると、その特徴的な筆跡を見る限りはどうやら本物のようです。
ただし買った本人はそんな事には全く気づかず、何処かの中古レコード屋で買い込んでそのままお蔵入りになっていたのでしょう。
その他にも、フリッチャイやエーリッヒ・クライバー、フルトヴェングラーなどの外盤がたくさん出てきました。これらも全く記憶の中になかったので、おそらくはアナログ時代の最後の頃にまとめて買い込んだものの、再生するすべを失ったので記憶からも洩れ落ちていたのでしょう。
さらには、中島みゆきのファースト・アルバム「私の声が聞こえますか」なんかも出てきて、まさに「びっくりポン」でした。
この上もなく鮮烈な音でびっくりポン!!
さて、前置きが長くなりましたが、まずはじめに聞いたのはワルター&フランチェスカッティのコンビによるモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第4番でした。
何故にこれを最初に選んだかというと、取りあえず棚に手を突っ込んで引っ張り出して出てきたのがこれだったからです。
ただ、デジタルの音源が手もとにあるのでその違いを簡単に検証できますし、何よりも廉価盤(定価1300円)として普通に販売されていた国内盤なので、取りあえずはアナログ盤のクオリティとしては「ベースの底」あたりと見切れそうだったからです。
ただ、アナログレコードを再生するのは、デジタルと違って手間がかかりますし、針を落とすときは緊張しますね。
ただ、そこから出てきた音には正直言って驚かされました。
一言で言えば、とんでもなく勢いのある鮮烈な音だったのです。音楽の勢いという点では明らかにデジタルを凌ぎますね。
アナログと言えばまったりとした美音系という先入観があったので、この音の出方には驚きました。
試しにメインのシステムでデジタルの音源を聞いてみたのですが、はるかに繊細で柔らかい音がしています。先入観からすれば、こちらの方がよほどアナログ的な音の出方です。ただし、当然と言えば当然なのですが、情報量という点では明らかにアナログを上回っています。
しかし、それでもなお、この尖った音の出方からは演奏者の気迫みたいなものがひしひしと感じられて実に魅力的です。
思いをめぐらせてみれば、アナログ時代の最後にこんな音が出ていたという記憶は全くありません。
もっと有り体に言えば、こんなにいい音は出ていなかったのです。
アナログ再生の中核とも言うべきフォノアンプのクオリティは明らかに落ちているのですから音が良くなるはずはないと思っていたのですが、その予想は言い方向に裏切られました。
この予想外の結果をもたらし要因として考えられることはいくつかあります。
まずは、C-200Vのフォノアンプがある日突然みまかったのですが、もしかしたら長い期間にわたって少しずつ調子が悪くなっていたのかもしれません。ですから、みまかる直前はかなりクオリティが落ちていたことが予想されます。
さらにもう一つ、スピーカーのセッティングから始まって電源まわりやケーブル類にいたるまで、デジタルの世界の中でかなり磨いてきたという自負があります。
何よりも、この10年間で一番変わったのは「部屋」です。
10年前に家を建て替えて、狭いながらもオーディオ用の専用ルームを作った事も大きかったのかもしれません。
それに、考えてみれば、音の入り口は最先端のPCオーディオですが、それ以降の増幅系と出力系はほぼアナログ最盛期のロートル集団です。
そこへアナログの入力系を持ってきて悪かろうはずがないのかもしれません。
ただ、冷製に考えてみると、この鮮烈な音に一番貢献しているのはカートリッジのSHURE「V15V-MR」だと思われます。
このカートリッジのトレース能力の高さには定評があり、それ故に非常にくっきりと音を描き出すのが特徴だと言われています。ですから、一般的にはジャズ向きのカートリッジと言われるのですが、いやいやどうして、クラシック系の音楽でもその勢いのある再生は非常に魅力的です。
そして、フォノアンプのaudio-technica「AT-PEQ3」も廉価な製品ながらも、細かいことは気にしないで元気いっぱいに音楽をならす方向で作られているのかもしれません。
おそらくは、この両者の相乗効果もあって、こういう鮮烈な音に仕上がったのでしょう。
ついでながら、件のカーゾン&ウィーン・フィルハーモニー四重奏団のA面はかなり盤質が悪くてノイジーなのですが、そのノイズの向こうから実に瑞々しい音が聞こえてきます。デジタル音源もあるのですが、聞こえてくる音ではいい勝負です。
ただ、アナログってこんなにノイズが出たのね!って感じです。
それから、中島みゆきのファースト・アルバムの方は盤質がかなり良いようでノイズはほとんどありません。
70年代に作られたポップス系の録音の良さをしみじみ感じさせてくれる音で、こんな音を聞いてしまうと、年末年始は日本橋の中古レコード屋を回って70年代のみゆき姉さんのアルバムを探している自分の姿が見えてきたりします。(^^;
ただ、具体名は挙げませんが、国内盤の中には寝ぼけたような音しかしないレコードがたくさんありました。
いわゆる「外盤」とよばれるものにも酷いものもあるので一概には言えないのですが、「国内盤」は音が悪いというのはかなりの確率で「真」のようです。
ただ、困りました。
audio-technica「AT-PEQ3」でこれだけの音を聞かせてくれるならば、それなりのフォノアンプをあてがってやればどうなるんだ?という気持ちを否定しきれなくなってきました。
どうやら、間に合わせでaudio-technica「AT-PEQ3」を購入し、そのうちに然るべきフォノアンプを購入しようと考えながら放置されていた案件が10年ぶりに蘇ってきたようです。
と言うことで、次のテーマは「然るべきフォノアンプ」の購入なのですが、それもまた次回に続くなのです。
それから、もしかしたら、「なんだ、PCオーディオ実験室と言いながらアナログ再生の話ばかりとは看板違いだろう!」という人がいるかもしれませんが、それは違います。
実はこうやって久しぶりにアナログ再生を復活させてみて、デジタルには否定的でアナログを守り通している人の気持ちも理解できるような気もしましたし、何よりもデジタルが本当に力が発揮できる分野というのも見えてきたような気もします。
出来れば、そのあたりの話も少しずつまじえて、アナログ再生の顛末を引き続き報告していきたいと思います。
audio-technicaのAT-PEQ3は構造がシンプルなので、電源にこだわれば驚く程音が変わるとの評判がネット上に存在します。
私は試した事が無いのですが、車用のバッテリーやニッケル水素電池でかなり音が変わるとの意見をよく目にします。
自分でオペアンプを交換して音の変化を楽しんでいる強者も存在するようです。
私はというと現在、合研ラボさんのフォノイコライザーアンプで充分満足しています。
初めまして!数年間、PCオーディオの参考に拝見させていただいておりました。PCオーディオは未だWINDOWS&JRMCでの再生ですがMPDは難しそうです(笑)
わたくしも2年ほど前にアナログに戻ってしまった口ですが、80年代以前の作品は原盤に近いアナログ盤で聴いたほうがマスター自体の鮮度が高く感じてます。
PCオーディオの利便性と、特に90年代以降のデジタル時代の作品や発掘音源も聴くので捨てきれず、PCオーディオの進化に期待しております。
今の時代にプレス、再発されたアナログ盤は80%はずれを引いていて、同マスターならデジタルで聴いたほうが良いと思っています。
フォノイコは某ガレージメーカーのNF型がコストパフォーマンスが高かったです!
続きを楽しみにしております!