「次のテーマは『然るべきフォノアンプ』の購入なのですが、それもまた次回に続くなのです。」と書いたのですが、その後思わぬ波乱の展開が待っていて更新が遅れてしまいました。
しかし、その「思わぬ展開」は書き始めるとこれまた長くなるので、それは項をあらためて、今回は予定通り「然るべきフォノアンプ」の話です。
ただし、この新たに導入すべきフォノアンプに関してはほぼ目星がついていました。
投下できる資金はほぼ100K円程度と踏んでいました。
現行のターンテーブルとカートリッジを前提とすればそのあたりが妥当なラインだと思えるからです。
そうなると、選択肢は以下の2機種程度です。
LUXMAN E-200
Phasemation EA-200
単体のフォノアンプとしてはボトムのゾーンかと思うのですが、それでも長年使ってきたアキュフェーズの「C-200V」のフォノ入力と較べて劣ることはないだろうという判断です。いろいろ調べたのですが、この価格帯ならば概ねこの二択になるようです。
そして、最終的には大阪のハイエンド・オ-ディオショーで素晴らしい音を聞かせてくれたことに敬意を表して、「LUXMAN E-200」を導入することにしました。
「LUXMAN E-200」を導入
ラックの中には一時引退をした「DEQ2496」のスペースが空いたままだったので、そこへすんなりと設置をすることが出来ました。
さて、肝心な音の方ですが、確かに悪くはないのですが、audio-technicaの「AT-PEQ3」と較べて全く次元の違う音が出ると言うことはありませんでした。
audio-technicaの「AT-PEQ3」でもアナログの美質は十分に感じ取れたのですからそれは仕方のないことなのでしょうが、あえて言えばそこから「荒さ」がとれて響きが「磨かれた」感じです。しかし、部分的には「AT-PEQ3」の勢いの良さが懐かしく思う部分もあるので、「AT-PEQ3」のコストパフォーマンスの高さも感じ取れる結果となりました。
このあたりがオーディオという趣味の難しさというか、理不尽さがあるようです。どういう事かというと、ある一定のレベルにまで達してしまうと、そこから少し上を狙うためにはかなりの投資が必要になると言うことです。
ですから、この「荒さ」がとれる事(おそらくはS/N比の向上)に対する見返りとしてこの投資が許容できるか、さらにもう少し付け足せば、響きにちょっとした「色気」が加わったり、ピアニシモでのちょっとした「リアリティ」が感じ取れるという変化が、本当に「ちょっとしたこと」なのか「一大事」なの、と言うことなのです。
ただし、このあたり突っ込んでいくと、そもそも「ハイエンド」の是非みたいな話になっていくので、このあたりで止めておきましょう。(^^v
古い録音がいい感じ
それでは、もう一度アナログの再生システムのラインナップを確認しておきます。
- カートリッジ:SHURE「V15V-MR」(針は「JICO製のVN5MR」)
- ターンテーブル:Thorens 「TD 320 MKⅢ」
- フォノアンプ:LUXMAN 「E-200」
このラインナップになって真っ先に感じたのが、「古い録音がいい感じ!!」ということです。
カザルス:バッハ 無伴奏チェロ組曲第5番・第6番(東芝GRシリーズ/GR-2018 MOMO)
たとえば、何処で買ったのかも思い出せないのですが、カザルスの無伴奏チェロ組曲のレコードが奥の方から出てきました。5番と6番がカップリングになった1枚もので、何の変哲もない東芝のGRシリーズの国内盤です。
ネット上を検索してみるとこのレコードの音質について「GR盤は明らかにSP盤の音で、土管の奥から聞こえてくるような音だ。」という記述に出会います。そして、「オーパス蔵は少し音の悪いモノラルLPの音で比べ物にならない。」として復刻版CDの音を高く評価しています。
ところが、このシステムで「土管の奥から聞こえてくるような音」だと言われているGR盤を聞いてみると、「十分に良質なモノラル録音の音」で再生されるので驚いてしまいました。とりわけ、「E-200」には「モノラルモード」というのがあって、通常のカートリッジで再生しているものをモノラル専用のカートリッジで再生しているかのように聞かせてくれる仕組みがあって、このような古い録音を聞くときには絶大なる効果を発揮します。
確かに、audio-technicaの「AT-PEQ3」で再生したときにも「土管の奥から聞こえてくるような音」とは思いませんでしたが、「E-200」と較べるとかなりクオリティが落ちます。そして、「オーパス蔵」に代表されるような復刻版CDは確かに「少し音の悪いモノラルLPの音」なので、こうなると、この手の古い録音をアナログで聞くことの意味は非常に大きいと言わざるを得ません。
さらに、レコードの棚をごそごそと探していると、またまたこんなものが出てきました。これもまた、何時、何処で買ったのかという記憶は全くない代物でした。
ディヌ・リパッティ:ブザンソン告別演奏会(レコード番号:EAC60114/15)
これも東芝EMIのANGELシリーズの国内盤です。LP2枚セットでカートンボックスに入った立派なものですが、おそらく何処かの中古レコード屋で数百円で買ったものと思われます。(1000円以上出して中古レコードを買うことは絶対になかったので間違いないですね)ネットで調べていると、この2枚組のセットが5000円程度で取引されているのを発見して驚いてしまいました。
針を落としてみるとほとんどパチパチノイズもない良質な状態で、音質面でも「E-200」のモノラルモードの威力もあってか、「十分に良質なモノラル録音の音」で再生されます。世間では「この年代としてもいちじるしく音質が貧しいことで知られている」と言われる録音なのですが、不思議なほどにいい音がするのです。
この告別演奏会のデジタル音源は手元にないので直接比較は出来なかったのですが、例えば前年にスタジオ録音されたショパンのワルツ全集の復刻版CD(EMI盤)等と較べると明らかにこのアナログ盤の音に軍配は上がります。
しかし、こんな困ったレコードも出てきました。
エーリッヒ・クライバー指揮 アムステルダム・コンセルトヘボウ管弦楽団
ベートーベン:交響曲第6番(Decca/Eclipse:ECS 549)・第7番(Decca/Eclipse:ECS 555)・第9番(Decca/Eclipse:ECS/ECM 501)
これもいつ頃何処で買ったのか全く記憶がないのですが、デッカが70年代にはじめた廉価盤レーベル「Eclipse」のレコードです。再発盤を中心とした廉価盤レーベルなのですが、レコードそのものはズッシリとした重量級で盤質は悪くはありません。
録音年代は6番が一番古くて48年、7番が50年、そして9番が52年です。
雰囲気的には悪かろうはずはないのですが、実際に聞いてみると呆れるほどの酷い音です。鼻をつまんだような音で、これこそ「土管の奥から聞こえてくるような音」と言われても仕方がないようなレベルの音質です。
手元には、ANDROMEDAという結構怪しげなヒストリカル専門レーベルのデジタル音源があるのですが、それと比べてみれば雲泥の差です。
しかし、その差があまりにも大きいので不審に思ってもう一度レコードのジャケットを眺めていると、何故か「STEREO」と記されているではないですか。
そんな馬鹿な??!・・・と思いつつも「LUXMAN E-200」のモノラルモードをオフにすると確かにファーストヴァイオリンが左側から聞こえてきます。そして、今までの「鼻づまり」状態は一気に改善されて、デジタル音源に近いすっきりとした感じには近づきました。
しかし、本来はモノラル録音であるものをこのように擬似的にステレオ録音にしている違和感はぬぐえませんし、音質そのものも疑似ステレオという人為的操作によって明らかに劣化しています。
この手の疑似ステレオはフルトヴェングラーの「エロイカ(EMI 52年盤)」が有名でしたが、70年代のレコードにはこの手のものがかなり多いようです。そう言う意味では、こういう疑似ステ盤はコレクション的には無価値かと思うのですが、それでも中古市場を眺めてみると1000円~1500円程度で取引されているようなので驚いてしまいました。
ただ、個人的にはこういうレコードは願い下げにしたいので、これからはジャケットの表示には注意したいと思いました。
ということで、「LUXMAN E-200」を導入したことで、ほんの少しですが魑魅魍魎が跋扈する深くて怪しげなアナログレコードの世界の端っこくらいは垣間見ることが出来たようです。
しかし、今回の件で一番勉強になったのは、デジタルとは異なる「アナログの美」の正体についてです。・・・が、それはまた次回に続くなのです。
販売されるレコードが、どのようなシステムで再生されるかを考慮してイコライジングされていると仮定すれば、再生するシステムに合わせてイコライザを調整する必要があるのではと思います。
実際、最近、コルグ等で、いじれるものが出てきています。
逆に、これを利用すれば、インプットされた音源を忠実に再生するという方向からは外れますが、自分にとって心地よい再生に近付けることが可能になると思います。