メモリ再生~ちょっと怖い話

少しずつ失ったデータの分は回復していきたいと思います。一つずつ手作業での追加になりますので、無理のない範囲でぼちぼちと追加していきます。

USBメモリから起動させるメリット

今回も本題に入る前に小ネタを一つ。

普通、lightmpdを起動させるためのファイルはSDカードに収納してボードに刺しているというのが一般的だと思われます。しかし、例えばAPU1Dの仕様を眺めてみると「Boot from SD card (connected through USB), external USB or m-SATA SSD」と書いてあります。
つまり、SDカードもまたUSB経由で接続されているようですから、USBメモリからでも起動できるはずなのです。

そして、やってみると、確かに問題なく起動します。
ネット上では、相性問題があって上手く起動しないUSBメモリもあるように報告されています。しかし、私の場合は手元にある各社のメモリを試してみたのですが。起動しなかったメモリは一つもありませんでした。

ただ注意ししないといけないのは、APUの場合はlightmpdのインストールの仕方が特殊なので、起動用に使っていたSDカードの中味をUSBメモリにコピーするだけでは起動しません。実は、このスカタンをやったのは私でして、一時はUSBメモリからは起動できないと報告してしまいそうになりました。
起動用のSDカードを作ったときにはきちんと手順を踏んでインストールしたはずなのですが、少し時間が経ってしまうとそう言う基本的なことを失念してしまうという見本みたいなものです。

APU用のlightmpdのインストールのしかたはこちらが詳しいです。

つまりは、最初にブートローダーが配置されているディスクイメージを「DDwin for Windows」等を使って書き込む必要があったのです。SDカードの内容をそのままコピーしても、ファイルの構造は変わらないので最初は全く気がつきませんでした。
しかしまあ、そう言うスカタンをしながらも、無事に起動用のUSBメモリがたくさんできました。

そして、こうやってUSBメモリから起動させると何が便利なのかというと、設定を変えた何種類もの「APU1D+lihtmpd」が簡単に切り替えることができることです。
SDカードを交換しようとすれば、その度にケースをばらす必要がありますが、USBメモリならば差し替えるだけです。今回の例で言えば、いとも容易く「APU1D+lihtmpd+NASからの再生」と「APU1D+lihtmpd+メモリ再生」の切り替えが可能となるのです。これは音質評価上、非常に大きなメリットだと言えます。

しかし、USBメモリからの起動で一番のメリットは、起動してしまえば起動用に使ったUSBメモリを簡単に抜いてしまうことができるという事です。
今さら言うまでもないことですが、lightmpdは起動してしまえば起動用に使ったストレージはアンマウントして自分自身はメモリ上に作ったRAMディスク内に潜り込んでしまいます。ですから、USBメモリやSDカードを抜いてしまっても何の不都合もないのです。
そして、やってみると、不都合がないどころか、USBメモリを抜いた瞬間に、これまた音がフッと変化することが確認できてしまったりするのです。

やはり、音楽再生用に使うPCというのは、システムを不安定にしない範囲で不要なスレッドやジョブは減らした方がいいという原則は生きているようです。
ここでもまた、慎重に「音が変わる」という価値判断を避けた表現にとどめますが、この状態でLANケーブルも抜いてしまうと音楽再生の起点は「APU1D+lihtmpd」と言うことになり、それ以前の経路は消えてなくなっているというのが視覚的にも明らかになります。
その姿を眺めていると、どうしてこんな小さな箱だけでこんなにも素晴らしい音がするのだろうかと、いささか神秘的な気分にさせられます。

私が問いたいのは再生環境の優劣ではなく、それぞれの環境における「NAS vs メモリ」の優劣

多くの方からいろいろな報告やご意見をいただいて感謝しています。
ただ、その中で、非常に重要なポイントを誤解されている方がおられるようです。それは、私が「APU1D4」を常用していて、これにlightmpdを組み合わせた「APU1D+lihtmpd」が現時点における一つの「結論」と述べていたことにも原因があるので、あまり偉そうなことも言えないのですが、それでも重要なポイントなので補足させていただきます。

まずは、その典型例を一つ紹介します。

「メモリ再生で音が変わることは確認したが、それは『○○+△△』で再生される音と較べればそれほど驚くほどのことではない。」

たしかに、皆さんが常用されているボードは私のように「APU」系列の人もいれば、「BBG」「raspberry pi」または「cubox」と言う方もおられるでしょう。そして、それぞれの方が常用されているボードにおけるブレークスルーを目指して、ある方はバッテリ駆動を工夫され、ある方はI2S接続に情熱を燃やされています。
ですから、そう言うところに、私が4Gbのメモリを積んだ「APU1D4」をひっさげてファイルをメモリ上に置いて再生すれば音質改善に繋がると言ったことに対して、例えば「APU1D+lihtmpd+メモリ再生」vs「raspberry pi+lihtmpd+I2S接続」もしくは「APU1D+lihtmpd+メモリ再生」vs「BBG+lihtmpd+バッテリ駆動」のように受け取られた向きがあるようなのです。

しかし、私がここで本当に比較してほしかったのはそう言うことではなくて、例えば「raspberry pi+lihtmpd+I2S接続」ならば、「raspberry pi+lihtmpd+I2S接続+NASからの再生」vs「raspberry pi+lihtmpd+I2S接続+メモリ再生」だったのです。
つまりは、お使いのボードは違えども、そこで再生したい音楽ファイルをNASの上に置くのと、メモリ上に置くのとでは音質上の違いはあるのか?と言うことなのです。
決して、そこで「APU」や「BBG」「raspberry pi」の優劣を論じたいわけではないのです。

何故かと言えば、どのような環境においても「メモリ上にファイルを置いて再生する」ことにメリットがあるのならば、これからのブレークスルーを目指す改善の重要な提案となりうるからです。

ちょっと怖い話になる可能性があります。

まず始めに確認したい事は、上のような視点においてメモリ再生の有効性が確認されれば、業界的にはちょっと(かなり?}怖い話になってしまう可能性があのです。
その「怖い話」というのは、もしかしたらNASはただのファイルのための物置場でいいと言うことになりかねなかったり、NASからボード、もしくはネットワーククプレーヤーに至る経路で施されてきた様々な対策の大部分が意味を失う可能性があるのです。

まずはNASです。

現在のPCオーディオの一つのトレンドがこのNASまわりに集中しています。
その最たるものがいわゆる「オーディオグレード」を謳ったNASです。

「最近のネットワークオーディオプレーヤーの普及に対して、真にオーディオレベルで考えられたストレージ製品がないことから、オーディオ愛好家の耳に耐え得るNASを投入するに至った。」
「筐体のデザイン、電源回路、基板の設計に至るまで、全てにこだわって開発し、接続先となるネットワークオーディオプレーヤーの実力を100%発揮するために試行錯誤を繰り返した。」

これらの言葉は決して嘘ではありません。そう言うオーディオグレードのNASと、PCサプライとしてのNASとでは、厳然たる音質上の差があることはこの駄耳でも確認できました。
しかし、再生するファイルをメモリ上におけるならば、そういうオーディオグレード的な対策は全て不要となり、NASはただの音楽ファイルの物置場でいいと言うことになります。

もしも、物置場の環境の違いでコピーされたファイルのクオリティが変わるというならばそう言う対策も「意味」を持つことになりますが、それこそ「TCP/IPプロトコル」の根幹を揺るがす大論争になることでしょう。

また、そう言う高価なNASは使わなくても、多くのPCオーディオユーザーはNASに対して様々な対策を施してきました。

例えば、音楽再生時にはNASのWindowsのファイルサーバー機能はオフにしていました。そして、CDをリッピングするときには、不便だな・・・と思いつつもファイルサーバー機能をオンにしていました。
当然の事ながら、NASに付属している様々な便利な機能(Webサーバーやメールサーバー等々)も全てオフにしていました。
さらには「cifs」よりも「nfs」で接続した方が音質的には有利だとか、それこそいろいろと涙ぐましい努力をしてきました。

しかし、メモリ上にファイルを置くならばそれらもまた意味を持たなくなるのです。
何故ならば、lightmpdが音楽を再生しているときには、その再生しているファイルは既にNASのもとを離れているからです。

ですから、メモリ再生を前提とするならば、NASの選定基準は二つと言うことになります。
壊れにくくて容量が大きいことです。
特に「壊れにくい」というのが一番のアドバンテージですから、結果として、業務用のNASとして信頼性の高い製品がベストと言うことになってしまいます。

次ぎにNASからの経路に関わる対策です。

これこそ、どう考えても無意味です。

確かに、音楽ファイルをNASの上に置く通常の再生ならば、音楽ファイルはバケツリレーのようにしてlightmpdへ送り込まれます。lightmpdはそれをデコードしたPCMデータとしてバッファにため込む事で、遅滞なくDAC(DDC)にデータを送り出しています。

当然の事ながらその経路において様々なノイズを拾ってしまうことは否定できません。
実際、LANケーブルを変えれば明らかに音は変わりますし、ノイズフィルタをかませれば、それでもまた音は変わります。
しかし、メモリ上にファイルを置いてしまえば、どう考えてもそう言う対策は無意味になります。

もしも、データが転送される環境によってコピーされたファイルのクオリティが変わるというならばそう言う対策も「意味」を持つことになりますが、それこそ上での言葉の繰り返しになりますが、「TCP/IPプロトコル」の根幹を揺るがす大論争になることでしょう。(^^;

コメント欄で、「修行僧のような生活に入られる前に」というコメントをいただいたときに、「メモリ再生は不便なように見えて、本質的にはとんでもなく「手抜き」が可能な再生かもしれないと思っています。その意味では、修行僧ならぬかなりの生臭坊主かもしれないです。」と返答したのは、このような文脈上に置いてでした。

私は長年にわたって、PCオーディオは「足し算の論理」だと主張してきました。
音質の阻害要因になりそうな部分に対して丁寧に対策を積み上げていくことで、それがあるラインを超えたときにガラッと新しい世界が開けるという経験を積み重ねてきたからです。
それこそ、まさに日々の修練を怠らぬ「修行僧」という言葉が相応しいように思えます。

ところが、ただ端にファイルをメモリ上に置くだけで、その様な今までの修練は一気に無意味になってしまったのです。
率直な感想として、この辺りの対策のためにつぎ込んだ経費と苦労は何だったんだ、と言うのが正直なところです。

LANケーブルも山ほど試してみました。
電磁波ノイズの影響を少しでも避けるためにルーターやハブの選定を行ってみました。
振動の影響を避けるために、ボードやインシュレーターも使ってきました。
そして、電源の強化と称していったい何台のアナログ電源を買い込んだことでしょう。

もちろん、そう言うお金のかかる話だけでなく、ソフト的な細かい設定も多大な時間と労力をつぎ込んで詰めてきました。

それらが、なんと言うことか、「ファイルをメモリ上に置いてみたら」という一寸した思いつきによって、全てが無意味になろうとしているのです。
果たして、そう言う対策と投資は本当に無意味だったのでしょうか?

ただ、本当に無意味になるほどのインパクトがメモリ再生にあるのならば、開発できる能力のある方は、それを次のブレークスルーとしてチャレンジしていただけると嬉しいのです。
正直言って、この1年ほどのPCオーディオの世界は「ドッグイヤー」と言われた頃の活気はありません。私はそれを「煮詰まった」と表現したのですが、もしかしたらこういう辺りに次ぎのブレークスルーに繋がる糸口があると感じてもらえたならば、是非とも俎上に上げてもらえると嬉しいです。
ただ、ligtmpdだと現状ではデジファイさん任せになりますから、可能性としては「Tiny Core」の方にありそうな気はします。

もちろん、私も暇を見つけては、ない頭絞っていろいろ考えてみたいとは思っています。