メモリ再生という石ころをPCオーディオという池に投げ込んだところ、思わぬ波紋が広がったようで、話はLinuxのメモリまわりに関わるかなりディープな内容にまで広がっていきました。
そして、その広がりの中で、デジタルという世界について自分がいかに無知であったかを痛感させてもらえました。とりわけ、MPDが外部ストレージから音楽データを受け取ってデコードし、それをバッファにため込んでDDC(DAC)に送り出す過程で何が起こっているのかが全く理解できていない事がよく分かりました。
ただし、この辺りの話題になると、音を良くしていこうというオーディオの話題であることには間違いなのですが、その中味は限りなくディープなLinuxに関わる話となるので、一般的なPCオーディオユーザーにとっては「付き合いきれない」と言うことになります。
ですから、その辺りの話は私自身ももう一度じっくりと勉強をしてから場をあらためて話題が提供できればと思っていますので、できればこの辺りで一度クローズさせていただければと思います。
そして、一般的なユーザーにとって一番知りたいのは、Fijiさんが寄せていただいた次のようなコメントではないかと思います。
「このメモリー再生の音質はかなりのレベルにあると思いますが実際市販のトランスポート、ネットワークプレィヤー(トランスポートと考えて)と比較してどのクラスの製品に該当すると思われますか。私の場合製品を試聴する機会が少ない物ですから、この様な質問をさせて戴きました。」
さらに、このメモリ再生を試した私の再生環境についても言及していないことに気づきました。
そこで、私の再生環境を一つの例として、その辺りの問題について考えていきたいと思います。
2016年4月時点での私の環境
まず最初に私なりの結論から言えば、市販の「トランスポート」は間違いなく市場から消えていくだろうと思われます。
理由は二つあります。
- お皿(CDであろうと、SACDであろうと)を回している限りは越えられない一線がある。
- お皿は消える方向にあるので、存在意義を失っていく。
この数年、かなり熱心にオーディオショーに足を運んで、常軌を失した高額な商品も数多く聞いてきました。その経験から、お皿を回している限りは何処かモッサリとした感覚が残り、どうしても越えられない一線があると判断していいようです。
もちろん、そのモッサリとした感覚が好きな人もいますからそう言う機器の存在は否定しませんが、それでも、「APU+lightmpd」等に伍したクオリティを持ちつつその「モッサリ感」を楽しもうと思えば底値100万円くらいは覚悟する必要があります。
凄いお金持ちで、PCを弄ることにどうしても抵抗感がある人にとっては「選択肢」になるでしょうが、そうでなければPCを弄った方が幸せになれそうな気はします。
それになんと言っても、お皿は早晩消えます。
今あるコレクションしか聞かないというスタンスならば気にはならないでしょうが、そうでない人にとってはあまり賢い選択肢とは言えないでしょう。
ですから、市販の製品としては、主力は「ネットワークプレーヤー」に移行していくことになるでしょう。
と言うことで、先の問いかけのポイントは市販の「ネットワークプレーヤー」と「APU」や「BBG」などのボードを使ったアマチュア的世界の勝負になるのでしょう。
そして、このネットワークプレーヤーに関して言えば「トランスポート」ほどには一刀両断とはいきません。
もっとも分かりやすい例が「LINN」が提供する世界です。
私は決して「LINN」の回し者ではありませんが(^^;、疑いもなく彼らの提供する世界は素晴らしいです。ですから、どのオーディオショーに出かけてもLINNのブースには必ず足を運んで、その世界と自分の世界との力関係を値踏みしてきました。
そして、この煩わしいアマチュア的PCオーディオの世界に疲れてしまったならば、最後はそっくりLINNのシステムに入れ替えてもいいかな・・・、といつも感じるのでした。
と言うことで、この辺で「私の世界」を紹介しておきます。
気がつけば、「2014年最後のメインシステムの基本構成」を紹介してからシステム構成はかなり変わっています。その間に「考え方」が根本的に変わった部分もありますので、その変わった部分を中心に補足していきたいと思います。
2016年のメインシステムの基本構成
2014年末のシステムと較べてもっとも変わっているのが、デジタルイコライザの「BEHRINGER DEQ2496」が姿を消していることと、アンプがプリ・パワーともに全てRotelに統一されたことです。
まずは、「DEQ2496」がシステムから姿を消した。
これは、決して「デジタル領域」でのイコライジングを諦めたことを意味しているわけではありません。
問題の本質は、アップサンプリングのメリットとイコライジングのメリットを天秤にかけて、現時点ではアップサンプリングのメリットに軍配が上がると判断したところに存在します。アップサンプリングについてはいろいろと考えてきた経緯があるのですが、取りあえずの結論として「ボードの高スペック化(「APU.1D4」)でアップサンプリングも実用化の範疇に入ってきたような気がします。」とのラインで落ち着きました。
そして、そのアップサンプリングは「DEQ2496」の「96kHz 24bit」という限界があるので、2倍オーバーサンプリングが基本でした。つまりは、「44.1kHz 16bit」というCDクオリティの音源を「88.2khz 24bit」にアップサンプリングして、「DEQ2496」でイコライジングしてからDDC(hiFace Evo)に送り出すという形をとっていました。
しかし、lightmpdにSOXが導入され、さらには「openmp」の導入でデュアルコアのCPUを効率的に使えるようになって、無理なく4倍オーバーサンプリングが可能となりました。そして、実際に試してみると、2倍オーバーサンプリングではそこそこメリットを感じたものが、4倍オーバーサンプリングでははっきりとしたメリットが感じ取れるようになったのです。
さらに付け加えれば、DAC(ESOTERIC D-07X)で「DSD変換」することにはあまり効果を感じなかったものが、4倍オーバーサンプリング(176.4khz 24bit)した状態で「DSD変換」すると、これもまたはっきりと好ましく思える音になりました。この背景にはDDCにもDACにも外部クロックを導入したことがプラスに働いているのかもしれません。
つまり、2倍オーバーサンプリング(88.2khz 24bit)した音源を「DEQ2496」でイコライジングし「DSD変換」した音と、4倍オーバーサンプリングした音源を「DSD変換」した音を比較すれば、4倍オーバーサンプリングした音の方が好ましく思えるのです。(言葉にするとややこしい^^;)
当然の事ながら、「2倍オーバーサンプリング(88.2khz 24bit)した音源を単純に「DSD変換」した音」は「2倍オーバーサンプリング(88.2khz 24bit)した音源を「DEQ2496」でイコライジングしてから「DSD変換」した音」に劣ります。(ややこしい^^;)
ですから、予想としては「4倍オーバーサンプリングした音源をデジタル領域でイコライジングしてから「DSD変換」した音」は単純に「4倍オーバーサンプリングした音源を「DSD変換」した音」よりは好ましくなると思うのですが、残念ながら4倍オーバーサンプリングした音源にも対応できるイコライザーは「格安」では存在しません。
そこで、現時点では、泣く泣く「DEQ2496」をシステムから外すことにしました。
なお、このアップサンプリングが話題になったときに、「2倍オーバーサンプリングと4倍オーバーサンプリングとでは全く音が違う」というコメントをいただいた記憶があります。
その時は、「DEQ2496」の枠の中で音を作っていましたし、さらに「2倍と4倍でそんなに違いがあるわけないだろう」という思いこみがあったのでスルーしてしまいました。今から思えば、せっかく貴重な情報をいただいたのに申し訳ないことをしたと思います。
結論から言えば、アップサンプリングには意味があるが、それは4倍までアップサンプリングして始めて有意に意味を持つと言い切っていいと思うのですが、この問題もさらに論議する余地はあると思ってはいます。
ですから、個人的には、この4倍オーバーサンプリングに対して余裕で対応できるスペックがボードには必要だと「決めています」。
そして、この4倍オーバーサンプリングにも対応できるデジタルイコライザが常識的な価格で市場に投入されれば、再びその枠の中で再びイコライジングに取り組みたいとは思っています。
DACは「デジタル機器」か「アナログ機器」か?
次ぎに、アンプの問題に入る前に、メインシステムの中核に座っているDAC(ESOTERIC D-07X)について少しばかりふれておきます。
今さら言うまでもないことですが、DACはシステムのデジタル領域とアナログ領域を結びつける結節点に位置しています。
ですから、ここで一つの判断が求められることになります。
それは、DACは基本的にデジタル機器なのかアナログ機器なのか、と言う判断です。
もちろん、デジタルとアナログの狭間に位置する機器ですからその両方が必要になるのですが、基本的にデジタル信号をアナログ信号に変換してくれれば十分と割り切るのならば、DACはDA変換するためのデジタル機器だと割り切れます。おそらく、その様に割り切れる人は、最後の音出しははスピーカーではなくてヘッドフォンを使っている人でしょう。
ヘッドフォンの振動板を動かすのと、スピーカーの振動板を動かすのでは、必要となる物量は根本的に異なります。ヘッドフォンで必要となるのは物量ではなくて精度ですから、例えばコメント欄でも話題になっていた「IrBerryDAC」のような機器が大きな意味を持つのだと思います。
それ以外にもたくさんの小型軽量のDACが出回っていて、それらのカタログには32bit対応だの、384kHz対応だの、DSD対応だのと数値が踊っています。
デジタルの性能は「集積度」で決まります。そして、「集積度」の向上は技術の進歩と歩調を揃えますから、それはコストの向上とはそれほど直接的には結びつきません。
ですから、音の出口をヘッドフォンに絞り込んでPCオーディオに取り組めば、それほどコストをかけなくても非常にレベルの高い音を享受できます。
しかし、私のメインシステムを見てもらえれば分かるように、どうしてもスピーカーからの再生というスタイルを捨てきれない人たちがいます。
ヘッドフォン再生に力を傾注してる人から見れば、スピーカーという不合理極まるシステムにいつまで拘っているんだ、と思われることでしょう。かくいう私も、少し前までは、ヘッドフォンなんかで音を聞いて音楽の何が分かるのか?と息巻いていたのですが(^^;、いろいろなオーディオショーに出かけてハイエンドのヘッドフォンシステムを聞く機会が増えるにつれて、その描き出す精緻な世界はスピーカーでは到達不可能な異質性がある事をはっきりと認識しました。
しかし、それは分かりながらも、それでも仕事につかれて帰ってきて聞きたい音楽は前から音が出るスピーカーなのです。そして、この不可解で不合理極まるシステムを相手にするからこそ、そこに趣味性があることも否定できないのです。
これはもう、オーディオというものに対する、さらに突き詰めてみれば音楽を聴くという行為に対するスタンスの違いが横たわっています。
そして、少し前までの私は、ヘッドフォンで音楽を聴くというスタイルはオーディオという営みのサブカルチャーくらいにしかとらえていなかったのですが、最近は長い歴史を持つレガシーなスタイルと両立する立派なスタイルであると思うようになってきました。
話が少し横にそれますが、オーディオ関係の雑誌などを読んでいると、盛り上がりを見せているヘッドフォン市場に目をつけて、それをレガシーなシステムへの入門者と位置づけて自分たちの世界に引きずり込むためにはどうすればいいのか、みたいな論議を良く見受けます。こういう論議の根底にはスピーカーでの再生こそが王道だという固定観念が横たわっているのが透けて見えるのですが、そう言う思いこみから脱却しない限り、ヘッドフォンで音楽を聴いている層はレガシーな連中が言うことなどには耳を傾けないでしょう。
話を元に戻しましょう。
それでも、どうしてもスピーカーから音を出したいという人は数多くいて、それはそれでヘッドフォンにない魅力があると言うことも認めてほしいのです。それは、不合理なまでに手間とコストがかかるのですが、それを乗り越えてでも手に入れたい魅力があるのです。
そして、そう言う不合理と不条理を認識しながらも、音楽をヘッドフォンではなくてスピーカーで聴きたいとなれば、DACは単なるDA変換を果たすだけでなく、その変換したアナログ信号をしっかりとプリアンプに送り出すためにはアナログアンプとしてのクオリティも必要となるのです。
そして、悲しいことに、アナログには物量が必要となり、物量はそのままコストに反映するのです。
どう考えても、数万円のコストでは、それなりのクオリティを持ったアナログアンプを作ることはできないのです。
例えば、私が使用している「ESOTERIC D-07X」でも「余裕の電源供給力を誇る電源部」と題して「余裕の電源供給力を誇る電源部 音質の要となる電源部は、極めて余裕のある設計。大型のRコアトランスはロスが少なく、音質に影響のある磁束漏洩を最小とします。平滑回路にはコンデンサーを複数組み合わせ、高速なショットキー・バリア・ダイオードを使うことで高速なデジタル処理にも俊敏に対応し、繊細な音楽のニュアンスも極めて正確に表現します。」とメーカーのサイトには記されています。
何のことかよく分からない部分もありますが(^^;、電源部にはそれなりにコストをかけていることは読み取れます。
そして、出口がスピーカーであるシステムでは、こういう部分にコストをかけないと、つまりはDACは基本的にアナログ機器だと思い定めないと幸せにはなれないのは事実なのです。そう言う意味では、「ESOTERIC D-07X」のところにはもう少しコストをかけた機器を奢ってやってもいいような気はしています。
と言うことで、随分と長くなりましたが、アップサンプリングの話題はひとまず脇に置いておいて、このDACをめぐる問題がそのまま「このメモリー再生の音質はかなりのレベルにあると思いますが実際市販の・・・ネットワークプレーヤー(トランスポートと考えて)と比較してどのクラスの製品に該当すると思われますか。」という問いに対する答えになっているのです。
つまりは、メモリ再生をする「lightmpd+APU1D4」とネットワークプレーヤーを較べることには何の意味もないと言うことです。
既に、お分かりだと思うのですが、アナログ段まで含む市販のネットワークプレーヤーと比較しようとすれば、メモリ再生をする「lightmpd+APU1D4」に接続されたDACまで含めて比較しなければいけないからです。そして当然の事ながら、そこに接続されたDACのクオリティは「lightmpd+APU1D4」にしてみれば全くあずかり知らないことだからです。
ただ、一つだけ断言できることは、どのようなシステムに組み込んでも、「lightmpd+APU1D4」は全くその底を見せないと言うことです。
上でも少しふれたように、「ESOTERIC D-07X」のところにさらにクオリティの高いDACを奢ってやれば、それに相応しい世界を提供してくれるだけの底力を「ESOTERIC D-07X」は持っていると言うことです。
もしも、比較したいネットワークプレーヤーがあるのならば、そのプレーヤーのアナログ段に匹敵するDACを用意してやれば「lightmpd+APU1D4」などのボード群は絶対にひけをとらないでしょう。何故ならば、どのようなネットワークプレーヤーであろうと、そのデジタル段に「lightmpd+APU1D4」等のボード群が負けることはないからです。
何故ならば、アナログの世界はプロの仕事ですが、デジタルの世界は今やアマチュアの独擅場だからです。
今や、このデジタル段の最先端を切り開いているのは疑いもなくアマチュア達です。例えば、私も出遅れていますがI2S接続等は最先端のトレンドの一つですが、市販のDACやネットワークプレーヤーで対応している機器はほとんど存在しません。
ですから、デジタル段においては「lightmpd+APU1D4」等のボード群は十分に信頼に値する頼もしいやつらです。
後は自分の目指したい世界に相応しいDACをチョイスしてシステムを練り上げていけばいいでしょう。
音の入り口、その際上流部が信頼できるというのは、システムを構築していく上では非常に大きなアドバンテージだと言えます。
と言うことで、今回はメモリ再生とは直接関わりのない話だったのですが、私が提案しているメモリ再生がどのような世界観のもとで鳴り響いているのかは理解できたかと思います。
次回も、メモリ再生とは直接関係ないのですが、今回ふれられなかったアンプの問題とLINNが提供する世界の話題について考えてみたいと思います。
最後に一言
と、ここで終わりにしようかと思ったのですが、最近面白い事実に突き当たりました。
それは、4Gbのメモリを積んでいる「APU1D4」でもコピーできる音楽ファイルは概ね2Gbまでだという事実です。
試しに、メモリが2Gbの「APU1C」で試してみると、これもまた概ね1Gb程度しかコピーできません。
ということは、lightmpdは搭載されているメモリの半分をRAMディスク化して切り出す仕様になっているようなのです。
ここから想像されることは、lightmpdはメモリの半分をRAMディスク化して外部ストレージのように動作させ、残りの半分をメインメモリとして使っているような感じがするのです。ですから、メモリが4Gbの「APU1D4」の場合は、2GbのRAMディスクを外部ストレージとして切り出して、残りの2Gbをメインメモリとして利用しているようなのです。
無理な注文かもしれませんが、lightmpdの仕様をもう少しオープンにしてくれれば開発も一気に進むように思いますし、さらには思わぬ知恵もでるような気がします。
もっとも、最終的に判断するのはデジファイさんですから、外野がとやかく言うような話ではないのですが・・・。