アナログの復活はあるのか(1)

最近はオーディオ関係のイベントには顔を出していなかったので、久しぶりに「大阪サウンドコレクション(8月5日)」に顔を出してきました。
秋の「大阪ハイエンドオーディオショー」と較べるとこぢんまりとしたイベントなのですが、どのブースもよく調整されたいい音を聞かせていました。

ただし、冷房が効きすぎていて凍え死ぬかと思いました。(~~;

アナログの復活はあるのか?

今回、もっとも印象に残ったのは、ほとんどのブースで音の入り口の主流がアナログになっていたことです。その次がネットワークオーディオで、CDやSACDを使った再生は本当に少なくなっていました。
ほんの数年前までは大半がCDやSACDを使った再生で、その次ぎが新しいトレンドとしてのネットワークオーディオが紹介され、アナログ再生はごく一部のマニアのために準備されているだけでした。
その意味で、この変化は劇的と言っていいほどの変化でした。

そして、その再生音がどれもこれも魅力的なもので、もしかしたら本当にアナログの復活はあるのではないかと思ってきました。
何故ならば、がちがちのPCオーディオ派だったこの私も、最近はアナログ再生で音楽を聞くことが増えています。おかげで、月に一度くらいのペースで日本橋の中古レコード屋さんを回るようになってしまったので、金額ベースで言えばCDよりもアナログレコードが上回ってきているほどです。

ただし、本当に復活するためには、こえなければいけない課題が随分あるようにも感じました。
例えば、Stallaのブースで回っていた「Air Force One Premium」。

Air Force One Premium(1100万円)

お値段は「11,000,000円」なりです。110万円ではないです、千百万です!!
おまけに、特別受注品なので注文時に前金として半分振り込めと言うのです。

さらに、これはターンテーブルだけですから、少なくともトーンアームとカートリッジが必要です。
Stellaのブースでは自社で取り扱ってる以下の製品でデモがされていました。

トーンアーム:GRAHAM PHANTOM Elite(170万円)

GRAHAM PHANTOM Elite(170万円)

カートリッジ:TechDAS TDC01Ti(85万円)

TechDAS TDC01Ti(85万円)

さらに言えば、これだけのシステムをアンプ内蔵のフォノイコに繋ぐ人はいないでしょうから、然るべきフォノイコライザーも必須です。

フォノイコライザー:Constellation Audio PERSEUS(580万円)

Constellation Audio PERSEUS(580万円)

つまりは音の入り口だけで2000万円近く必要なわけです。

2枚組で14400円なり

ちなみに、この会社はステレオサウンド誌と共同で「高音質アナログレコード」なるものも企画しています。そのお値段の方は2枚組の美空ひばりと石川さゆりで14400円(1000枚限定なので売り切れ)、谷村新司は1枚で8640円なのです。

確かにいい音はしていましたが、ボックス盤CDが叩き売られているご時世です。そんなご時世にこの価格設定は明らかに一部の「好き者」御用達を宣言してるようなものです。

もちろん、それで「究極のアナログ再生」が出来て、会社としてもそう言う「究極」を求める人だけを対象に商売をするというスタンスであれば何も言うことはありません。
ただし、この方向性は、今起ころうとしているアナログの復活に結びつくことは絶対にあり得ないことだけは確かです。

誰をターゲットにアナログの復活を目指すのか

ただし、これ続いて「こういう方向性はやがて先細りするしかないので明るい未来も描けないのではないでしょうか」と書こうと思ったのですが、イヤ待てよ、事はそれほど単純ではないなと言うことに気づきました。

そうか、それはそれなりに未来は描けるんだ!!
ここから少し重い話になりますがご容赦あれ。

今の世界を覆っているもっとも不幸な現象は「格差社会」です。
この「格差社会」というのは富めるものと貧しい者とに二分されると言うことを意味しません。そうではなくて、ごく一部の者に富が集中して、その他の人々は貧しい層へと転落していくことを意味しているのです。

もっとシビアに言えば、現在は何とか中産階層に踏みとどまっているグループも、子から孫の世代に下るにつれてその大部分が貧困層に転落していくというのが「格差社会」の本質なのです。
そして、彼らが貧困層に転落することによってごく一部の富裕層の資産は増え続けるわけです。

そして、この事はフランスの経済学者ピケティが「21世紀の資本」の中で明らかにしたように、自由競争にゆだねた資本主義社会の一つの必然なのです。
そして、そう言う一握りの富裕層を相手にすることで成り立つ市場というものも存在しているのであって、「Air Force One Premium」等が目指すアナログの世界はそう言う市場をターゲットにすることで「未来が描ける」のです。

つまりは、Stellaがデモを行っていたブースというのは、何もピケティの難しい本などを読まなくても、この「格差社会」というのがどういう社会なのかを誰の目にも分かるようにはっきりと示してくれていたのです。

しかしながら、オーディオというものは生きていく上でどうしても必要な代物ではありません。こういう、「生きていく上で、あってもなくても困らない」市場が存続するためには強固な中産階層が絶対に必要です。

それは、例えば、「高音質アナログレコード」と称して1枚8000円で限定1000枚販売出来る市場ではなくて、「高音質」な「アナログレコード」が一枚2000円で10000枚販売出来るようになる市場が生み出されることが必要なのです。
つまりは、適正な価格でクオリティの高い商品を販売すれば、それをマスとして消費してくれるような層が存在しなければ、オーディオのような産業は存続できないのです。

ただし、誤解を招くといけないので一言付け加えておきますが、私は何もStellaに怨みがあるわけではなく、あくまでも一つの例としてあげただけです。
デモを行っていたフラグシップモデルはどこのブースでも似たような価格設定でした。

アキュフェーズがメインで行っていたデモも、モノラルアンプ「A-250」を4台使ってのマルチアンプ駆動でした。

CLASS-A MONOPHONIC POWER AMPLIFIERA-250

繋いでいるスピーカーは「TAD Reference One」だったと思います。

TAD Reference One

これだけで軽く1000万円超えます。(^^v
確かに、そう言う製品をフラグシップモデルとして、それを現実的になプライスにスケールダウンをした製品を収益の柱にしているのならばその会社はオーディオ企業と言えるでしょう。
しかし、その様な高額製品が収益の柱となっているのであれば、それはオーディオの形はとっていても本質的には高級腕時計や宝飾品などの企業と同質だと言わねばなりません。
それ故に、そう言う会社がどれほどアナログの提案をしても、オーディオとしてのアナログの復活には結びつくことはないでしょう。

しかし、それでも、アナログ復活の兆しは現れているような気がします。
もしかしたらそれを梃子にしてオーディオの復活もあるかもしれないという気がしています。

ハイレゾという提案には全く魅力を感じませんでしたし未来があるとも思えませんでした。そして、その思いは今回のイベントでも浮き彫りになっていました。
しかし、アナログという古い技術の復活には、何か大きな手応えのようなモノを感じています。

それについては・・・続くです。(^^;