「TAS Super LP List」をパブリックドメインで検証する(9)~バッハ:ピアノ(チェンバロ)協奏曲第1番~5番&7番 (P)グレン・グールド

この録音に関しては「Columbia/Speakers Corner 71449」という復刻盤LPがリストアップの対象となっています。この復刻盤LPは3枚セットでグールドが録音したバッハのコンチェルトが全て収録されています。
ただし、それらは何らかのポリシーに基づいて録音されたものではないので、ある種の中途半端さは否定できない録音になっています。

Columbia/Speakers Corner 71449

収録されている録音を年代順に並べれば以下のようになります。

  1. ピアノ協奏曲第1番ニ短調 BWV1052(モノラル):レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィルハーモニー交響楽団 1957年4月4日&30日録音
  2. ピアノ協奏曲第5番ヘ短調 BWV1056:ヴラディミール・ゴルシュマン指揮 コロンビア交響楽団 1958年5月1日録音
  3. ピアノ協奏曲第3番ニ長調 BWV1054:ヴラディミール・ゴルシュマン指揮 コロンビア交響楽団 1967年5月2日録音
  4. ピアノ協奏曲第7番ト短調 BWV1058:ヴラディミール・ゴルシュマン指揮 コロンビア交響楽団 1967年5月4日録音
  5. ピアノ協奏曲第2番ホ長調 BWV1053:ヴラディミール・ゴルシュマン指揮 コロンビア交響楽団 1969年2月10日&12日録音
  6. ピアノ協奏曲第4番イ長調 BWV1055:ヴラディミール・ゴルシュマン指揮 コロンビア交響楽団 1969年2月11日&12日録音

バーンスタイン&ニューヨークフィルと録音した第1番と、それ以外のゴルシュマンと組んで録音したものとでは演奏のテイストは大きく異なります。さらに言えば、バーンスタイン盤の方はモノラル録音です。
また、ゴルシュマン指揮の録音にしても第5番だけが1958年録音と言うことで、それ以外の4曲とは大きく隔たっています。

つまりは、演奏面においても録音の方向性にしても統一性に乏しいこれらの音源を一括して「TAS Super LP List」の優秀録音としてリストアップしていいのだろうかという疑問が横切ります。
例えば、「シャルル=マリー・ヴィドール:オルガン交響曲第6番「Allegro」 (Org)マルセル・デュプレ 1957年10月録音」が不動の「最優秀盤(BEST OF THE BUNCH)」としてリストアップされているのですが、そこで指定されているレコードは「Mercury SR-90169」です。
そして、そのレコードには以下の曲が収録されているのですが、シャルル=マリー・ヴィドールのオルガン交響曲第6番「Allegro」だけが「最優秀盤」としてリストアップされているのです。

  1. Charles-Marie Widor:Organ Symphony No. 6, Allegro
  2. Charles-Marie Widor:Organ Symphony No. 2, Salve Regina
  3. Marcel Dupre:Prelude And Fugue In G Minor, Op.7
  4. Marcel Dupre:Tryptique, Op.51

実際に聞いてみれば、この「Allegro」以外の録音も決して悪い録音ではありません。しかし、そこは「最優秀盤(BEST OF THE BUNCH)」の重みゆえの厳密さなのかもしれません。
しかしながら、その厳密さを考えれば、このグールドの手になるバッハのコンチェルトの録音を一括してリストアップしているというのはいささか杜撰に過ぎるのかも知れません。もっとも「杜撰」というのは言い過ぎかも知れませんので「鷹揚にすぎる」くらいに留めておいた方がいいかもしれません。

まず最初に俎上に上げたいのが、モノラル録音の「協奏曲第1番」です。
「TAS Super LP List」では基本的にモノラル録音はリストアップしていないようなのですが、幾つかの例外はありますので、モノラル録音だから駄目だという話ではありません。
しかし、逆から見れば、モノラル録音であるにもかかわらずリストアップされるというのはよほどのアドバンテージがなければいけないと言うことになります。

では、そのアドバンテージとはどのようなものかと言えば、既に紹介してあるヨハンナ・マルツィによるモーツァルトのヴァイオリン協奏曲第4番を聞いてもらえればすぐに了解できるはずです。

協奏曲における「お約束」である管弦楽による前奏という露払いが終了してマルツィの独奏ヴァイオリンが入ってくると度肝を抜かれます。
まさに日本刀の切れ味のごときヴァイオリンの響きが聞き手の耳を直撃します。

その驚きの頂点が第1楽章の最後に置かれたカデンツァです。
あまりにも手垢のついた表現なのですが、まさにカミソリのごとき切れ味であり、さらに言えば、驚くべき録音のクオリティの高さのおかげもあって、それは名刀の切れ味にまで格上げされているように聞こえるのです。

もちろん、このグールドの録音もモノラル録音としては悪い録音ではありません。
それは疑いもなくモノラル録音としては極上の部類に属するものであることは疑いはないのですが、それでもマルツィ盤のように聞き手の度肝を抜くような凄みはありません。
その事を考えれば、このリストアップはあまりにも甘口にすぎると言わざるを得ません。

そして、それと同じ事が残るステレオ録音にも言えます。
もちろん悪い録音ではありませんし、自然なプレゼンスに溢れた優れた録音です。

Glenn Gould

グールドやホロヴィッツの指はその他のピアニストの指とは全く異なる存在でした。
ホロヴィッツの手になるスカルラッティのソナタを聞いた人が「全てのピアニストがホロヴィッツのようにピアノが弾けるのならばチェンバロなどは不要の代物になる」と言ったそうです。全くその通りであって、「みんながグールドのようにピアノが弾けるのならば、バッハ演奏にチェンバロを使う意味はなくなる」のです。
そして、この一連の録音(モノラル録音も含めて)では、そのようなグールドの軽やかなピアノの響きが過不足なく捉えられていることは事実です。

その事は認めながらも、それでも同じように「SPECIAL MERIT」にリストアップされているご近所さんと較べてみると、やはり甘い判定かと思わざるを得ません。

ただし、バッハのピアノ(チェンバロ)協奏曲というのは人類にとってはかけがえのない遺産です。
そのかけがえのない遺産が、グールドという希有の才能によって全く新しい姿を示したこの録音の意義を考え合わせてみれば、57年から69年にかけて録音された全ての音源をひっくるめて「合わせ技で一本」という判定をしたのかも知れません。

そう言う視点でこの「TAS Super LP List」を眺め直してみれば、それとよく似た音源が他にもあることに気づかされるのです。
そう考えれば、これもまた「TAS Super LP List」の一つのスタンスといえるのかもしれません。

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