OSS vs ALSA

はじめに

さて、前回は「Voyage MPD」にOSSをコンパイルしてインストールして、デフォルトの「ALSA」との聞き比べをしてみました。
まず。「Voyage MPD」の美質として「突出した解像度の高さと3次元的に広がる音場の素晴らしさはまさにPCオーディオの独壇場です。そして、驚くべきは、そのような美質を極限にまでのばしながら、個々の楽器の響きは決して固くなることもなく金属的な響きなどは微塵もなく消えてしまっているのです。」とまとめた上で、この「みっちりと中身の詰まった感」が明らかに「ALSA」よりも「OSS」の方が上手のように思える、と感想を記しておきました。

しかし、第一感というのは必ずしもあてにならないものです。
特に最初は「変化する」こと自体が「改善」ととらえてしまいがちです。

オーディオというのはどこをいじっても音は「変化」します。個々の機器を入れ換えれば音が変化するのは当然ですが、ちょっとしたセッティングの見直しやケーブルの交換など、ほんの些細なことで音は大きく変化します。そして、その「変化」するところにこそオーディオの面白さ、醍醐味があるのですが、注意しないといけないのは、そのような目先の「音の変化」に一喜一憂していると、気がつけば愚かさ限りない「ハイエンド」の泥沼に落ち込んでしまいます。(どぶに捨てるほどにお金が余っていればの話ですが・・・^^;)
心しなければいけないのは「変化は必ずしも改善ではない」と言うことです。しかし、いかがわしさ満点の「オカルトグッズ」が次から次へと登場する現実を見ると、「変化」=「改善」という迷妄が依然としてまかり通っていると言わざるを得ないようです。

そう言う迷妄に陥らないためには、自分の中に求めるべき「音楽」の姿をしっかりと持っていることがとても大切です。
オーディオなどというものはしょせんは「個人の趣味」です。
極論すれば、私が大いに気に入っている「音」を世界中の人が「ダメだ」といったとしても、私がそれで満足できるならばそれでいいのです。
その事の妥当性はその間逆を考えてみれば明らかです。
自分としては全く、もしくはあまり気にいっていないのに、評論家先生やショップの店員さんが言葉をきわめて褒めちぎる音だから我慢して聞き続けている。こんな阿呆な話はありませんが、意外とそう言う人がごろごろ存在するのがハイエンドの世界です。

とはいえ、人は変わります。それによって求めるべき「音」が変わるのはこれまた当然です。
ただ、大切なことは、その変化が評論家先生やショップのセールストークでコロコロ変わるような「底の浅い」ものでは困ると言うことです。
その変化は、様々な人生経験を経る中で自分という人間の最も奥深い根幹に関わる部分が変化することによってもたらされて来るようなものでないといけないのです。つまり、ワインがじっくりと熟成されていくような変化でないといけないのでしょう。
その意味で、どなたが語ったように「音は人なり」なのです。

私が求める音

それじゃ、お前が求める「音」とはどういうものなんだ、とつっこみが入りそうです。(^ー。ー) ハ!?

ただ、これを「言葉」で表現するのは実に難しいのです。
一昔前は、物理特性ばかりを気にしていた時期がありました。さすがに、それはすぐに卒業しましたが、今度はとんがった部分をできる限り削り取って、できる限り耳あたりよく響く音を求める時期もありました。この時代は、システムのメインにYAMAHAの「AVC-3000DSP」を導入して7.1chのサラウンドシステムに没入しました。フロントとリアのスピーカーにもそれぞれYAMAHAのMX-1というパワーアンプをつないでましたから、私史上最大の物量投入の時期でした。おまけに、この時期は「映画」にもこっていたので、80インチのスクリーンと三管式のプロジェクターまで持ち込んでましたから、実に大変な時期でした。
しかし、年を重ねるうちに、次第にこのような物量投入は鬱陶しくなってきました。また、コンサート通いもオケよりは室内楽の演奏会の方が多くなっていきました。そして、室内楽の演奏会に通ううちに、その命のやりとりのような切った張ったの世界にすっかり魅了されていくようになりました。そして、弦楽器というのは必ずしもきれいな音ばかりではなくて、時にはかすれたり金属的な汚い音が出るものだと言うことも分かるようになってきました。そして、そう言う「汚い部分」も含めて音楽なんだと言うことが理解できるようになってくると、ひたすら角を丸め込んで小綺麗にまとめ上げるだけの再生システムに強い不満を感じるようになっていったのです。
そして、そんな時に出会ったのがPCオーディオの世界でした。
確かに欠点は山ほど感じましたが、一つ一つの音がほぐれて一人一人のプレーヤーがそれぞれに音を出していると感じ取れる表現力にはものすごい可能性を感じました。そして、その音と出会って、自分が求めているものが、演奏家がその演奏に込めている気迫やガッツを再現してくれるシステムであることをはっきりと認識することができたのです。つまり、耳に心地よく響くだけの音ではなくて、汚い部分は汚いままでストレートに表現してくれるシステムであり、それを通して演奏家の気迫が伝わってくるような音を欲したのです。
ですから、現在の私のシステムは、ほとんどの人にとってはいささか「厳しすぎる」音だと思われます。つまり、ゆったりとくつろいで楽しむような音楽は奏でてはくれません。また、私もそのような音楽の聴き方を求めていません。
昔は本や資料を読み「ながら」音楽を聴くことも多かったのですが、今はたとえ録音という媒体を通してであれ、演奏家と1対1で正面から向きあって対峙するような思いで聞くようにしています。ですから、2時間も3時間も音楽を聴き続けるなどと言うことはまずありません。

と言うことで、ホントに前置きが長くなったのですが、結論から言うと「Voyage MPD」のドライバは「OSS」から「ALSA」に戻しました。
確かに、OSSの方がALSAよりも耳あたりがいいことが事実です。「みっちりと中身の詰まった感」と表現したように、いわゆるとんがった部分がかなり是正されることは事実です。ただ、この一週間ほどじっくり聞き込んでみて、この「みっちりと中身の詰まった感」というのが、オーディオ的に表現すると中低域のあたり(300Hz前後かな・・・?)が少しふくらんでいることが原因ではないかと思うようになってきました。そうすると、全体の音のバランスはよりどっしりとしたピラミッドバランスになって、結果としては耳あたり乃よい音になるのは当然かなと思います。
さて、問題はこの中低域のふくらみが元々のデータの中に含まれていたものを引き出した結果なのか、それともOSSの仕様として何らかの理由で強調されてしまっているのかという判断が求められます。

こういうときは、私がお気に入りのいくつかの室内楽録音を聞くことになるわけです。たとえば、古いところではウェストミンスターの室内楽録音やハスキル&グリュミオーのモーツァルト、さらにはウィーン弦楽四重奏団のシューベルトなどを聞き比べてみました。
結果としては、OSSは耳あたりがよすぎてみんな演奏のお行儀がよくなりすぎる感が否定できません。もっと、分かりやすく言えば、汚い音があまり汚く聞こえないのです。

もちろん、こんな聴き方をする人はそんなに多くはないと思いますから、決してOSSからALSAに戻すことを広く勧める気はありません。しかし、そのような聴き方をする人間もいるのだと言うことは、報告しておく価値はあるかと思います。
ですから、このOSSかALSAかというのは、一番最初に書いたように「アナログ時代のカートリッジのような雰囲気で「ALSA」と「OSS」を使い分ければいいのではないかと思います。」というのが最も妥当な評価だといえそうです。

ただし、私は当分の間「ALSA」で突っ張りたいと思います。


2 comments for “OSS vs ALSA

  1. yo
    2011年2月20日 at 7:56 PM

    ユングさん、こんにちは。レポート興味深く読みました。
    カートリッジ論に賛成です。
    OSSとAlsaの違いは接続されるインタフェース(及びその先のハード)にも影響されるようで、僕の環境では居間の装置(HD-7A)はAlsaと相性がよく、パソコン部屋の装置(Digital Link)はOSSの方が合うような気がします。OSSは昔のオルトフォンのカートリッジ(SPUといったかな?)、Alsaは比較的最近のカートリッジ(同じオルトフォンでもMC系列)という感じですね。
    またOSSは最新のヴァージョンになって、そのキャラクタがより徹底されるようになったと思います。実は2003版で試したことがあるのですが、2004版程美音に聴かせるということはなくて、すぐにAlsaに戻しました。2004版でも自分でビルドしたものからインストールした場合とビルド済のdebファイルを使ってインストールした場合で多少差を感じました。まあ、どれが決定的にいいとはいえない微妙な世界ですが、聴き続けているとやっぱりこっちがいいなとなる世界ですね。
    僕はリラックスして聴くときはOSS+Digital Link、分析的に聴くときはAlsa+HD-7Aという使い分けをしています。問題点は部屋移動しないといけないこと(^^;;。面倒なので、居間にもう一台、リラックスして聴ける構成の装置を用意するかなと考えています。まあ、パソコン二台用意してPCオーディオというのも、ちょっとやり過ぎかなとは思うので、躊躇していますが。

  2. ユング君
    2011年2月20日 at 8:15 PM

    懇切ていねいなコメントありがとうございます。

    >OSSは昔のオルトフォンのカートリッジ(SPUといったかな?)、Alsaは比較的最近のカートリッジ(同じオルトフォンでもMC系列)という感じですね。

    まさに言い得て妙ですね。
    とは言え、あの頃は未だ貧乏だったのでオルトフォンのカートリッジなんて変えませんでしたが、日本橋の河口電機などで聞かせてもらった音は今も記憶に残っています。

    どうやら、「Voyage MPD」の登場で、PCオーディオは確実に一つステージがあがったように思います。今まではお金がなければ手が出せなかったようなレベルに、やる気と能力さえあれば迫れるようになってきたことは間違いありません。

    定年まで後数年なのですが、実に面白い世界が登場してきてくれたものです。

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